58:代表合宿(ハゲ)
58:代表合宿
それからしばらくして歳賀原さん以外の代表候補の選手が次々に到着して荷物を床に置くだけでも狭くなってきた。
そこへ代表監督らしきハゲがやってくる。
「ハゲだー」
私は急いでその口の中に手を突っ込み阻止した。
大丈夫、ハゲには聞こえていなかったはず。
「それでは、さっそくこの候補を八人まで絞りたいと思います」
「え、たった八人ですか……」
八人と言う言葉に全員が驚く。
この場に呼ばれたのはその四倍近い三十人強。
それに代表に選ばれる最終的な人数は八人よりもずっと多いことを全員が知っていた。
「すでに代表に決定している人がいますので、残る枠が八人ということです。結果次第ではその八人全員が埋まらないこともあると思ってください」
「選考方法は何ですか?」
一人が手を上げて聞く。
「こちらが組んだ五人を相手に勝てればすぐに代表になれます。チームはこちらで勝手に決めさせてもらいましたが、対戦順は早い者勝ちですので、今からわける番号札でさっそくチームごとに作戦会議を開いてください。ウォーミングアップも自由にしてもらってよいので、番号札をもらってチームが分かった人から選考は開始してください」
質問を受け付ける暇も与えずにハゲが名前を順に読み上げて番号札を配っていく。
札は名前の五十音順に配られたため、リンの番号を待つ間、いったん部屋の外で待つことにした。
すると早くもチームメイトの分かったグループが話し合いをしているのが聞こえてきた。
「早い者勝ちで、何度も再選可能ならまず一回勝負しに言った方が絶対に得だよね」
「一回五分間×二の試合だから、もし負けても一時間後にはもう一試合できるし」
「じゃあ、ストレッチしたらさっそくいこうよ」
対戦相手がどんな人たちかは知らないけど、ここいる中学生選抜が、現役中学生の精鋭を集めたものなら、安直に対戦相手が同世代と思うのは愚かだ。
それに既に決まっているという代表も、おそらく年上。
年上といってもれっきとしたU-15の範囲内の人だろう。
遅生まれでまだ十六になっていない高校生が既に選ばれたメンバーなのだ。
あれこれと考えていると「ふふふ」と笑いながらロールちゃんが近くに来ていた。
「さすが新崎さん。あなたならこの選考の裏側も容易に想像できまして当然! そうでなければ同じチームとして困りますわ!」
そう、私とロールちゃんは運命の悪戯か同じチームだ。
「それにちょっと嫌な雰囲気がありますの。これがただ残りの枠を埋めるだけの選考なら、この人数を呼ぶのはおかしくありません?」
「そうね。人数は多いし、全国に出場した各校から二人ずつ選んできてる。現にリンなんて無名の選手を選んできてるのが証拠」
「リンさん? ああ、先ほどわたくしを下品なニックネームで読んだ方ですのね。あの人も同じ中学でしたの」
「まああれでバスケの実力だけなら、アメリカ代表といっても問題はないから大目に見てよ」
「別に気にしていませんわ」
思ったよりロールちゃんは人が良さそうだ。
これならきっとリンが再びニックネームを言っても心ある言葉で返してくれそうだ。
「あれー、また歳賀原のロールちゃんといっしょだー」
「ふふふ、殺しますわよ」
にこにこデス、というような心無い言葉がリンに浴びせられていた。
しかしリンはそんなことでめげるような子ではない。
「同じチームなんでよろしくー」
どうやら私達三人は同じチームのようだ。
選考会の裏に潜む闇――
なんてものがあれば面白いですね