53:観戦前
53:観戦前
土日を明けてから始めての授業がある希星は、亜佐美の提案で女子バスケ部の練習試合を見に来ていた。
バスケットというものが何なのかも知らないが、知り合いになった先輩がいるということで楽しみにしていた。
体育館二階の通路から見ている希星は、試合前に少しおかしなところを見つけた。
それは相手の学校の人が、十有二月学園の生徒と比べて小さいことだった。
十有二月学園のベンチには、対戦校のキャプテンが挨拶に来ている。
こちらのキャプテンは用事があって遅れているので、キャプテン代理として亜佐美が代わりに出ていた。
「今日はどうかよろしくお願いします。全国大会にも出場するチームと対戦できる機会なんて、ほとんどないので今日は精一杯頑張れたらと思います」
丁寧に挨拶する少女は、チームメイトの中だと身長の高い方だが、高校生の女子の平均よりほんの少し高いくらいの小柄な子だ。
「どうも。そちらこそ遠いところからわざわざありがとね。こっちもなるべく負けないように頑張るわ」
相手チームのキャプテンは少し話しただけですぐにベンチへ戻っていった。
それを見てから亜佐美は小さく溜息をつく。
「あれが噂に聞く、今年のエースなのね。確かにウチの一姫と似たようなものを感じるわね。まあ、あれが本当に一姫と同じくらいだったら相当厄介だけど」
亜佐美はチームの士気を下げないように小さな声で話す。
「まだ中学生なのに高校の県代表より強いなんて普通はありえないでしょ」
しかしその言葉が現実になるのはすぐのことだった。
それくらい強い中学の名前を誰もが知っていた。
その対戦校の名前は、千駄ヶ谷中学だ。