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ランダムワーク+10分間のエース  作者: 橘西名
ランダムワーク
52/81

49(1/2):振り返るとそこにいた(斗貴&天凛――空&奏)





「遅かったわね」


 そう口にするのは後ろ姿の月花天凛だった。

 隣に吹目がいないところをみるに喧嘩でもしたのだろう。


「ああ、ちょっとトイレを探すのに手間取っちまってな。結局見つからなかったぜ」

「クソ野郎」

「いや、そっちじゃないんだ。小便の方だ。それより手を貸してくれ。どうしても一人じゃ立てそうもないんだ。それにいつの間に俺は雪山に登ったんだ?」

「これは雪なの? クソ野郎はそう思うの?」

「触ると冷たくて、手の上に乗せると融けて消えるんだから雪だろ。それに――一面の雪景色――といって十分伝わるくらいに周りは真っ白じゃないか」

「じゃあ、その一面の雪景色に自分の名前と得意なことを書いてみなさい。……ああ、それから将来の相手のことも出来るだけ詳しく」


 雪の中に拳を突き立てると、すっぽり埋まってしまうくらい積もっているので、指を使ってその中に言われた通りの順で書いていく。


――自分の名前:あまみやとき

 漢字で書くとアレな感じになるのでひらがなだ。いないとは思うが、こいつバカだから自分の名前もけなくなっちまったんじゃないのか、とかいうのは勘弁してくれよ。


――得意なこと:……………………

 特にないな。だがそれだと俺のアイデンティティがなくなってしまう。ここは自己紹介をするつもりで考えて。


――得意なこと:自転車でフラフラすること

 いや、これだと自称自宅警備員、ニートの兄と変わらないな。

 次はこれだ。


――得意なこと:素敵な景色を見に自転車にまたがって遠くまで行き新しい出会いとともに自分を成長させていくようなそんな感じの

 な、なんだそれは!


「で、将来の相手は?」

「それは重要なのか?」


――将来の相手:↓(天凛)以外


「褒め言葉として受け取っておくわ」

「そうだな。俺の将来の相手は怪奇現象だから。お(あまり)以外ということは、お前は怪奇現象と呼ばれるような変人じゃないってことだもんな。ふっ、とかなんとか思っていたんだろ! そのぐらいもうお見通しなんだよ! いつまでも俺をただの雨宮と思うなよ!」


「まあ、本物って分かればそれで」


「そう、か?」


 張り合いがなくて、逆に気持ち悪い。いや、でも気になっている相手と喧嘩中ならしょうがないのかもしれないな。きっと歩く気違いのような青天の霹靂(へきれき)女でも素直なときはあるのだ。


「それにしてもここはどこなのかしら。ふと気付いたらここにいたわ」

「お前も俺と同じなのか。あの三姉妹に会ったのか?」

「三姉妹? いえ、変な三人組には会った覚えはあるけど、姉妹と呼べる関係の人達には会った覚えはないわ。あなたの会った三姉妹はどんな人だったの?」

「いや、それが、どうして『三姉妹』という言葉が出てきたのかも分からないんだ。なんとなく会った覚えはあるんだけど――いや、むしろ殺されるくらいバイオレンスな事された気もするけど思い出せないんだ」

「役立たず」

「どうしたんだよ、お前らしくもない。こんなにまともな会話が出来るなんて、この間のクリスマスを経て全く思いもしなかったぜ。お前の本当の学校にいる幼馴染はなかなかいいキャラしていたからな。あの中ならお前も十分普通に入ると思ったくらいだ」

「……そう」


 普段はマシンガントークのように異次元を口にする月花天凛なのだが、このときは別のことに気を回していて、それに精一杯の片思い中の少女のようであった。

 こうゆうときしっかりしなければならないのが男の務めというものだろう。

 俺は自力で立ち上がり、後ろ姿のまま動こうとしない天凛の手を取った。


「ほら行くぞ。こんなところにいたら凍えちまう。それに吹目を探さないとな」

「どうして?」

「そんな不思議そうな顔するなよ。お前はあいつがいれば元気出るだろ。しょぼくれたお前は別人みたいで気持ち悪いからな。早く探さないとな!」


 照れた感じに顔を隠すそいつの反応が新鮮過ぎて、おもわずこちらも反対側に顔を背けた。

 表情が見えないように顔を隠した天凛は変わらず「……そう」とだけいって手をつないだまま山を下りていく。

 こんな感じにか弱くなった子に対して

『俺が付いてる』

 そんな台詞を平然と言ってのけるような奴がいたら、そいつはその子にとってのヒーローに違いない。

 俺にはその権利はなさそうだが、誰にも運命のパートナーってものはあるもんだ。

 それがまだ出会ってない相手であったとしても死ぬまでには出会っているだろう。


 会話もせず山を下りていくと、元いた村に似た場所へ戻ることが出来た。全体的に建物が古くなっているのは目の錯覚だと考えたい。


「いったいこれに何の意味が合ったのか」

「どうゆうことだ? そう言えばお前も『気がつくと、あそこにいた』というのだったんだろ」

「そう、私は桧林家に言葉巧みに潜入して内側からこれを解決させようとした。そしたらいつの間にかあんなところにいたのよ」

「くればやしけって……家に行ったのにそこの三姉妹には会わなかったんだな。あんな小さな家なのにおかしいな」

「……まあいいわ。それで、事の発端や事情は分かったのだけど、解決方法がハッキリとは捉えられなくて――それで家を出てクウたちがいるところへ向かおうとしたらあんたところに」

「教えてくれよ。分かったんだろ?」

「難しい話じゃないから、きっと大丈夫ね……いいわ、話しましょう」


 天凛の一人語りが始まる。


「そもそも桧林家というのはこの村の地主のような立場の家だった。だがそれは遠い昔のことで、いまは村の集まりで少しだけ権力を持っているような一族にすぎない。そんな桧林一家に悲劇が起ったのよ。

 それは一家心中を図ったかのような大火事だった」


 何の前触れもなくそれは起こっていて、桧林の家を丸ごと飲み込んだ炎は、その家と、その中に住む一家全員を殺した。

 それからしばらくして赤い服を着た少女が現れた。

 その少女が怖かった。

 すごくこわかった。


「――以上が、新しく建て直された桧林の家にあった当時を書き示した書物の中身よ」

「よしっ、途中から日記みたいな内容だったことは突っ込まないぞー」

「別にボケたわけじゃないし。突っ込まれても困るわ。あまりん困っちゃうわ」

「調子がもどってきたみたいで安心した――とはいわねえよ! さっきまでのアレはなに? またからかってたのか!」

「……そんな……頑張っていつもに戻そうとしたのにそんなこというの?」

「はいはい、来たね。いつもの感情を押し殺して無表情のまま恐ろしいこと言うシリーズ! でも今回はちょっと間違ってない感じがして心がズキズキ痛いよ!」

「……ちょっと、胸を貸してくれる?」


 今、何といった?


「……ほら、不安な女の子を抱きしめる感じで腕を開いて」


 なんとおっしゃいました?


「ほら、御開帳!」


 それは違う! と俺が言いきる前に天凛は体を沈めて胸板に顔をうずめるように迫ってくる。

 手のひらを、体を沿うように動かししばらく――何もしない時間が過ぎた。


「…………………………………………もういい」

「…………………………………………そうか」


 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうし――。


「別にどうもしないわよ。相手の中身をハッキリと見るときはいつもこうしているんだから」


「……えっと、俺はどうすればいいんだ。こう、ギュッとお前を抱きしめた方がいいのか」


「止めてよ! 気持ち悪い! あなたみたいな平凡な顔して中身も平凡な男になんの興味もないわよ! 離れて――どうすればいいのか分からないならとにかく私から離れなさい!!」

「……はい」


 先走った思考をした俺が悪いのか。

 それとも容赦なく蔑んでくるこいつが悪いのか。

 いや俺が悪いね。しょうがないよね。だって俺、心が揺れたもん。


「そんなにしょぼくれないの! 男の子でしょ!」

「お前にそんな呼ばれ方をしたのは初めてだ!」

「男の娘の方が良かった? あなたじゃ無理でしょう?」

「何を言っているのかさっぱり分からないが、きっと俺はバカにされているんだろ、そうなんだろ! どんだけお前は本調子に戻ったんだよ! この数分間に何があったんだよ!」

「あなたの心の中を覗いた」

「さらっとすごいこと言ったな!」

「だって重要なこと忘れていて役に立たないじゃない?」

「さらっとすごいこと言ったな!」

「それに、欠けていたピースはこれで全て揃ったわ」

「さらっとすごいこと言ったな!」

「あなたに言っていなかったことと、あなたが忘れていたこと。それらを合わせてようやく答えが分かるなんて一体だれが仕組んだのかしら」

「さらっとすごいこと言ったな!」

「壊れたのね。まあ別にかまいやしないけど」

「かまえよ! そこはかまっとけよ! お前のクラスメートが人格崩壊しそうなら止めろよ!」

「人格崩壊してないじゃない」

「するかああぁああああ!」


 深呼吸して、落ち着いて、人格崩壊しそうだったかわいそうな俺が冷静になってから天凛はピースの完成図を説明してくれた。


「まず私のことをお前と呼ぶな。親しみをこめて『あまり』か『あまりん』と呼びなさい」

「はいはい」


 進行は速やかに。尺はもう余っていないからな。


「ではまず、さっき話した桧林家は良くできた嘘話。いえ、対してうまくない話だったけどね!」

「はいはい」


 この後は改行ごとに俺の「はいはい」を想像で補間して欲しい。


「あの家は村の人達に恐れられていたの。化け物だから!


 やっていたことは……私と比べれば大したことなかったけど、人の心を読むことが出来たのよ。それが恐れられて、家ごと焼かれた。


 その生き残った一人が赤い服を着た少女として、呪いのように村人を襲っているということね。


 ファンタジーね。




 とでも言うと思った? そんな無駄に時間を使うような会話は必要ないの。私は無駄が嫌いだから!」


「さっさといえよ――無駄な時間がいまあったよ、確かにあったよ!」


 そしてようやくまともに話してくれた天凛の話を聞いて、雪山に戻ることになった。

 どうしてもそこへ行ってやらなければならないことがあるから戻るのだ。

 あとは伝えてやらなきゃいけない言葉もあるらしいからな。

 まあ、俺が天凛から聞いたことは全員揃ったときに話すとしようか。


次で終わることが出来るのでしょうか?


いやいや出来ないでしょう。


後二本で終わらせれたらいいと思います!





……失礼しました。ということでそろそろ桧林家の真相と、斗貴と空が再び会いまみえて奏と朱音が最後の再会を果たす感じの展開に持って行って連載が終了する感じですね。

まだまだ続きますよ~~

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