48:振り返ってみるとみんな同じだった(斗貴&桧林シスターズ)
熱く語る前になってしまった……
◇
俺は自分が誰なのか――ここがどこなのか分からない状態だった。
どうしてこうなってしまったのか本当に分からなかったが、頭がズキズキ痛むのは気のせいではないだろう。
頭部を触ってみても血がつかないのが不思議なくらいだ。
「はぁ、はぁ――――こいつ意外としぶといなぁ」
おそらく姉妹だろう。
その姉の方が息を切らせながら撲殺事件の凶器のようなものを抱えている。
それで殴られたら相当いたそうだ。
「――――こんどこそ」
「によー、ダメー!」
妹の必死の制止を振り切って、姉は凶器を振り下ろした。
……鈍い音がして、姉の方がもう一度振り上げたところへ。
「そのくらいにしてあげれば」
頭一つ背の高い女性が姉の行動を阻止した。
凶器を頭上に上げた腕を掴み、その凶器を取り上げる。
「ようやく会えたのだもの。ここで消えてしまっては残念でなくて?」
「帰ってきてたの? 一枝姉さん」
「かずうぇー」
その女性は『桧林一枝』。
好きな服装は赤色ならなんでも。
趣味はなまった感じで話すことだった。
一枝と二葉、三茶、斗貴の四人は四角いテーブルの周りにそれぞれ腰かけた。
一人は記憶喪失。もう一人は「かずうぇー」、「によー」、「さんた」と楽しげなリズムで話す少女だ。
二葉はロリコンにとどめを刺せなかったことを一枝に問い詰めるが、一枝はそれに答えず斗貴に話しかけていた。
「あの場にいた中であなたが選ばれたのは正直意外でしたが、意外という点では意外でないわ」
「えっと、その。自分が誰なのかもわからないのになんですが、難しいことは言わないでください。どうやら俺は難しい話は良くわからないみたいです」
「正直な子は嫌いではないわ。なら、話が単純になるように契約をしましょう」
契約という言葉に二葉がピクッと反応する。
「どうしてこんな奴に契約を……」
「こんな奴じゃないでしょう?」
「でも……こいつの名前。まだ聞いてない」
「……どうでもいいことよ」
「サンタは知ってるよ~、雨宮斗貴っていうんだよ~」
「なんだか俺って名前だけはかっこいいんだな!」
自分の名前だけ思い出して契約の話に戻る。
「雨宮と桧林の間に契約を結びます。
この村にかかった呪いにあなたの友達は巻き込まれてしまった。
その呪いは、数十年前の村と家との対立による悲劇の一面にすぎない。ですがそれは一過性の行きすぎたものになってしまった。
現実には存在しないものと、それをセーブするいくつもの制約があるゲームの中の世界のようなもの。
いまからあなたと、もう一人の助っ人の二人でその世界から友達を連れて抜け出さなければならない。
これはそうゆう契約。
村に取りついた呪いを解き放ち。
あなたが望む結末によって全てを終わらせる。
必要なものは実力や特殊な能力などではなく、ときとして運であり、熱意・友情・奇跡のなせる力であろう」
それを聞いた俺がどう思っていたのか、なんとなくわかるだろう。
難しい話は雨宮の頭を素通りしていくのだ。
「そして、あなたの行く先で赤い服の女の子――名前が『桧林一枝』という子に出会ったら伝えてあげて。
『あなたは本当は誰を殺したかったの?』とね」
俺が変な声を出して場を混沌に陥れる前に、二葉という子が手を差し出してきた。
それを取れといっているようだが、立ち上がって手を差し出すもんだから、座ったままだとギリギリ手が届かない。
立ち上がって、俺はその手を取ると急に世界がぐにゃりと曲がりだす。
「別にロリコンに全てを託すわけじゃないけど。一枝姉さんの契約を無駄にすることは許さないから。
それに、これを使うと使われた人は記憶やいろいろをこっちにこぼしてしまうから。
雨宮はバカっぽいから言っておくと、ここで聞いたことや知ったことをそのままもって過去に行くことはできない。だから重要なことだけ覚えとけ!
この変態ロリコンバカ面男!!」
酷い言われようの俺。
数分前の何も言われてない俺。
頭に恐ろしい攻撃を食らう前の俺。
トイレを探していた俺。
時間が巻き戻されていくような夢を見る。
そう、それは夢で現実じゃない。
俺は自分が雨宮斗貴であることを思い出してある地点に戻される。
仲間がいるあの村へ。