45:天凛の裏切り?
◇
意識が途切れる寸前に思った少女の顔はどこか幼さが残っていて、怒っていて、普段見せない部分に愛着が持てそうな。そんな子のことが思い浮かんだ。
「死ねぇええ!」
その子とは違うが、こっちの子はえらく物騒なことと同時に重くて硬いものが振り上げられた。二葉といったか。
その子が狂気に満ちた様子でブンブン危ないものを振りまわしているんだが。俺の頭や頭や頭など致命傷になる部分を中心に。
「……はぁ、はぁ」
その狂気が呼吸を整えている頃、虫の息になっていた俺は意識なんて既に吹っ飛んでいたという。
●
ちょっとした考え方の違いで三人になってしまったが、それほど大きな問題、でもない。
問題なのは、次の勝負形式“心・体”がペナルティ付きで科されたことだった。
簡単にいうと、“心”の方は最初の勝負と同じクイズで、精神面を試すことが目的。
“体”の方は行ってみないとわからないと言われ。
分担して、俺はクイズ、柚木&紫がもう一つのことへ行くことになった。
連れてこられたのは桧林の屋敷で、多分倉庫のようなところだろう。
門のようなところをくぐり、最初に対応していた三人組のかわりに男が二人、案内役として出てきた。口数も少なく、ただ言われた通りのことをするような奴らだが、これといった特徴もない奴らは乱暴にここまで俺たち三人を連れてきて、色々な説明をしてくれた。
俺たちは勝負に一度負けた。
それは相当に取り返しのつかないことだったらしい。
普通ならそこで制裁がくわえられるらしいが、例の三人組と一緒に消えた天凛のおかげで救済処置が得られた。
天凛の方から勝手に向こう側に着いたのに不思議なことだ。
それは今回の勝負にペナルティーとしてプラスされた。
これも簡単にいってしまえば、勝負の結末を知るには絶対に勝負に勝たなければならない、そうゆうものだ。
今回のクイズについて三人が一緒に聞いたときの感想だが、クイズの内容は単純な二択問題だった。
この倉庫からさらに山の方へ行くと、雪が積もった場所がある。
その場所に簡素なつくりの建物が二つ。その二つのうち一つに解答者は連れて行かれる。
ここへ連れてこられる最中も目隠しをされ、どれだけ歩かされたのかも、どっちが北なのかもわからない状態だ。
そこからあるルールのもと脱出出来れば勝ち、出来なければ、ペナルティーが科せられる。
第二問
『ここは雪山の山頂。一歩外へ出れば猛吹雪に襲われ五分と持たず凍死してしまうだろう。
ここから脱出して助かるには対極の位置にある二つの扉のどちらかを通ってもう一つの小屋まで行かなくてはならない。
その小屋には食料や防寒具、助かるための全てがそこにある。
そこへいくにはどう急いでも三分以上かかる。
生き残るためには、正しい扉から抜け出すしかない。
どちらが正しい扉なのか分かるように二つの扉のわきに一人ずつ、“首を縦に振って同意を示すもの”、“首を横に振って間違いを教えてくれるもの”がいる。
そのどちらかに一つだけ質問が出来る。
ただしそのどちらかは正しい反応をするが、もう片方は全く反対の反応をする。
つまりは正直ものと嘘付き、それがその二人の特性だ』
ただし、間違った出口から出た先に待っているのは極寒の雪景色か、もしくは底の見えない崖かわからない。
そして、扉も氷のように固まってしまい勢いよく突撃しない限り開くことはない。
そう聞こえた気がした。
★
倉庫を出て、しばらく歩いて着いた先はあのとき見たポスターに記されていた場所のようだ。
それほど興味があったわけじゃないけど、それほど音楽業界に興味のない私でも知っている人の名前がいくつかあった。
こんな辺境の地の名もない、のど自慢大会にプロの人が出るのはずるいだろう。
そもそも、何かの宣伝か特別ゲストと考えるのが普通かな。
なんにせよ、その人たち相手にのど自慢大会に入賞しなくては話ならいのは体力を使いそうだ。
『村の活性化のための、のど自慢大会で入賞せよ』
これの話に乗らなければよくないことが待っている。
あそこに残った先輩もよくないことがありそうだ。
隣で発声練習する奏がやる気に満ちあるれているからしばらく見守ることにした。
「どーれーみーふぁーそーらーしどー。ド、ド、ドー。……ド、ド、ドー」
音階を崩壊させた発声とともに、暴れ出した動物をなだめさせるようなことをしている子がいた。かわった♪の羅列に興味を示したリオンが私の服の下から出ようとする。
「ちょっと、なにそれっ!」
やばい! 落ちた!
「朱音がなにか産んだっ!」
「そんなことしてない!」
「じゃあ、何よそれ? 猫――――にみえるけど実はライオンね。そう思うわっ」
よくわかったね!
それは気付いたのに、人からライオンが生まれることは気付かないんだ!
「蛙の子はカエル! 朱音の子はラ、ライオンっ!」
「……ああ、うざい。ほら順番! 行ってきなよ!」
のど自慢大会はあらかじめ出場が決まっていた人以外はくじ引きで順番が決められている。
一ケタの順番になった奏は早くも出番だった。
少し混乱気味の奏だけど、どうにか落ち着きを取り戻して、また「ド―ドー」言いながら会場へと向かって行く。
会場ではカラオケ店などであるという採点システムと数名の審査員、観客が点数をつけるというものだった。
機械の方は音程が合っていること。
声量が十分なこと、などを採点するんだと思う。
会場の方から三分くらいで奏が帰ってきた。
控室のモニターから歌っているときの様子などが見みることができる。もちろんそこで他の人の点数などを知ることが出来て…………できるのだ。
見ていても聞いていても斬新な大会の一幕となった奏の歌は。
それこそ淡白にいってしまえば、カラオケ初心者の中学生が音楽プレイヤー片手に自信満々に行ったカラオケでとても残念なことになってしまったような。
点数でいえばそこそこあったものの、それがどこから出た点数なのか私は考えたくない。
自信満々に、「歌いきったっ!」という感じで戻ってきた奏に控室にいた一同が、そのときの空気に耐えきれなくなって拍手を送ったことを私は一生忘れないだろう。
待ち時間とともに順番が過ぎてゆき、ゲストで呼ばれているような人たち、コマーシャルやテレビ番組で見るようなプロの歌手たちに順番が回る三人ほど前に私の順番は回ってきた。
そつのない歌で予選を突破しよう。
そう思っていたけど、そういえば予選なんてないな。
優勝じゃなくて入賞でいいし、がんばろう。
自分の歌を歌ってもしょうがないと思い、私の前の人が歌ったものをまねて歌ってみる。
音程は前の人がそこそこ良い点を取っていたからはずれていないだろう。
歌詞は一回聴けば覚える。
だって私の将来の夢は女優なのだから。
それが人のモノマネでも、私が思ったことを加えて伝えられるように演じる。
それが私、紫朱音が自分を客観的にしか見ていなかったころから。リオンや他の沢山人と出会ってから少しだけ変わった事だと思う。
――
私も奏もカラオケには行ったことがなかったから採点マシーンがどうゆうものなのかよく知らないけど、音程が九十点、声量が八十八点、ビブラートや他のもそれなりで、審査員からは八十点、観客からも同じ点数をもらってプロ抜きなら三番目くらいに位置取った。
この大会は歌った人がそこで得た点数を採用していて、納得いかなければ先に歌った人が人をはさんでもう一度歌うことが許されている。
場合によっては何度も歌うこともできる。
その後のプロの歌はやはりここまで歌った誰よりも心へ響く素晴らしい音色を奏でていた。
私は発声練習や舞台での緊張をほぐすために音楽活動をしているけど、ちゃんと劇団にも通って演技の練習もしている。
目指している目標が違うのだから、力を出せる事も違うというものだ。
そう思うことにしてその人たちの歌声を聴いていると、奏が不吉なことを言いだした。
「あれ? 入賞って、これだと優勝と準優勝の人しか入賞にならないわ。参加賞は全員出るみたいだけど、タオル一枚――――賞金がでて賞をもらえるのは優勝者と準優勝者、審査員特別賞の三つだけ」
いまのままだと入賞に何も引っかからず、直前の人の歌真似をして審査員や観客に点数を下げられただけの紫朱音になってしまう。
「このままだと先輩はダメかな?」
「じゃあ、もう一度歌ってくる。今度は少しだけ本気で」
「え! さっきの本気じゃなかったのっ!」
ふふん、と鼻で笑っているけど、余裕なんてなかった。
これから先は、プロの人が連続で歌ってくる。
それが順位に影響しないのがせめてもの救いだが、どう考えても比べられてしまうだろう。
始めから全力を出さないからこうなるんだ、と奏に怒られるのが怖くて見栄を張った。
そもそも私は選曲以外、手なんて抜いていなかったというのに。
この問題は一問目と比べると相当難しいです。
深く考えず小説の方を楽しんでください。これは小細工なしに難問でした。