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ランダムワーク+10分間のエース  作者: 橘西名
ランダムワーク
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42:この村のシステム

 朱音と天凛と吹目は互いに異なる思想を持ちながら、適当に話し始めた。


「先輩! 次は誰を探しに行くんですか! 決断力ない男はクズですよ!」

「……そうね。ゴミ屑ね」

「なあ天凛、俺たちの出会いはどんなだったか覚えているか?」


 少し噛み合っていないが、もうしばらく見てみよう。


「まずもう一人の先輩はどうでもいいですけど、奏とか……奏とかどこにいるんですか!」

「……そうね。朱音さんは奏ちゃんにデレているのね。このツンデレめっ」

「あれは夏の頃だったよな。俺はバイトでおじさんの探偵事務所を手伝って、そのときの被害者のなかにすごく手が奇麗な子がいたんだ」


 もうしばらく見てみよう。


「先輩の昔話なんて朝ご飯がフレークかパンかコメかってくらい私にはどうでもいいことです!」

「……そうね。私は食べない派だけど」

「その子の手を見て触ったとき、身体がビクンッて跳ねたんだ。全身に電流が走るってのはこういうのを言うんだと思ったね。だってな――」

「聞いてます? ねえ! 先輩! こっちのデカ女は『……そうね』と『余計な一言』しかいってないけど、吹目先輩は明らかに違う話していますよね!」

「待て後輩……次が重要なんだ。俺は無駄に意味のない話なんてしない。それはバカでヘタレていることが日常の九割の親友との違いだって俺は自分に誇りを持ちたいほど重要なんだ」

「……そうね。他人を尊敬できて初めて人は大きくなれたと実感できるものだものね」

「うわー、親友相手にひどー。男の友情完全崩壊ですね!」

「――ちょっと間が空いたけど、俺はその子の前で心臓の鼓動が激しくなるいっぽうで額に流れる汗の理由が何なのか始めは分からなかったんだ。……それを一言でいえば簡単なんだけどな、結構難しくてな実は、その子は――」

「その子のモデルは私ね」

「……そうですね。それは誰でも分かります。むしろそれすら分からない相手は先輩たちに対してもっと注意深くいるべきです」

「その子は――いや、その子のすぐ後ろに二メートルを超す軍服姿の外国人が機関銃を持って俺に念入りに照準を合わせている途中だったんだ」

「それはどこのホラーなんですか? 話が唐突過ぎて怖がるものも怖がれませんよ。それより奏を探しに行きましょう!」

「……そうね。事実は小説よりも奇なりとはいつしも頭をかすめてしまうわね」

「えっ、事実なんですか? それって、吹目先輩はバンッ、ドギャンッって撃ち殺されちゃったんですか? じゃあここにいる先輩は幽霊。なるほど、だから話が通じないんですね。そしてデカ女の方もオバケ。それなら納得ですね。話が通じるわけがありません」


 嘘話をする先輩二人に呆れた朱音は、二人の声が届かないところまで歩いて行ってしまった。

 その様子を見て、天凛と吹目は距離を縮めて小さな声で話し始めた。



「……そうね」

「いや、もうその返しはいいから。関係のない後輩はもう声の届く範囲にいないから普通に話してくれ」

「……そうね。あ、これは違うのよ。演技じゃなくて素でいってしまっただけ。それにしても、さっきの胡散臭い連中が言った通りの展開になったのは少々信じたくないわね。まさかワゴンの様子を見に戻ってみたら、ワゴンのあった場所にワゴンの姿はなく、それがあったであろう場所に焼け焦げた土が積もっていただけだった。あの短時間で自動車一台をその姿にするなんて出来るわけがないし、中に乗っていた人をどけて、それを実行する理由も分からない。それと同じく、人がいるのに下手に手を出すというのも考えにくいわ」

「それで、この場所から移動したんじゃないかと思って村を離れようとしたら後輩の一人に出会ってしまい、後輩が出くわした大変なことを聞いた。その話は、ワゴンで待っていたら突然、銀色の毛皮を被った獣たちに囲まれていて、村から離れようとすればするほどその数が多くなったという」

「つまり、この村は私たちを簡単に逃がしてくれないということね」

「それに、その動物が村の人間によって調教されているなら、それを武器に車を村のどこかへ移動させた可能性も出てくる」


 しかしそれも疑問点がいくつかあった。

 まず舗装された道路に止めていたわけではない車は、この場所へ止めたときの車輪の跡は残っているのにそこから移動したことを現す跡は残されていなかった。

 足跡はあれだけの人数が一度に降りたから、それが村に向かっているということ以外わからない。

 そこに動物の足跡は見つけられなかった。


「俺たちは誰を探しに村へ戻ればいいんだろうな? それをしっかり決めてから行かないと俺たちは後悔する気がする」

「無難に奏ちゃんかしら? 後輩の子が少しうるさいからというのもあるけど、今一人で一番危ないのは彼女だと思うわ」

「それもいいけど、俺は斗貴を探したい。あいつはなにかといるだけで役に立つからな」

「同意しかねるわね。それじゃあハーレムじゃなくなるじゃない?」

「他人から見てもハーレムじゃないだろ? 俺には危なっかしい女の子が二人いるだけにしか見えないぜ。あっ、そうだ――こんな状況になると思って持ってきたわけじゃないんだけど、こんな状況だから渡しておく。これがあった方が俺も安心できる」

「……そうね」


 後輩が近くに戻ってきていたのも気付かず、吹目が天凛に鉄の匂いのする三角定規のようなものを渡した。それを運悪く朱音が目撃した。


「こんなときに何を渡しているんですかぁっ!」


 後輩に気付いていた天凛は、戻ってきて早々にテンション高めな相手にそれを隠さずに見えるように握りしめた。

 三角定規の短い辺のところにあるグリップを握りしめるように。


「ふざけたことを抜かすな! それは三角定規でもないし、人に向けていいものでもありません! 銃口向けないでください!」


 三角定規の形によく似た、黒光りの拳銃が天凛の手のひらの上で朱音を狙っていた。


「おい、有名だろ? そんなに驚くなって」

「……そうね」

「――犯罪者、犯罪者? 犯罪者!」

「合法だ」

「……そうね。これの本当の持ち主なら」

「!」


 声にもならなくなった後輩を見て、次は吹目が村の方へ歩き出す。

 それについて行くよう、天凛も一時停止している朱音の手を引く。


「――みとめないみとめないみとめない」

「まずは斗貴だな。きっと斗貴も柚木も同じ場所にいる」

「……そうね(その可能性はゼロではないけど。限りなくゼロに近いでしょうね)」


 村の中へ足を一歩踏み入れただけで二人が最初に出会った連中の一人が不自然に近づいてきたので、拳銃片手に天凛が取り押さえてくれた。


「持っているだけで使わないんですね」

「まあ天凛のあれは髪飾りのようなものだからな。実際あれに実弾は込めてないだろうし、ちゃんとした訓練もあいつはやってるよ」

「訓練って……」


「あなたたちの黒幕は誰? 三秒以内に言わなければ右耳からぶち抜くわ。もちろん黙ることを決めたなら、そうそうにその息の根は止めるわ。アーユー、オーケイ?」


 通りの真ん中で大人を素手でなぎ倒す姿を遠目に、後輩が吹目のとなりで冷たい目をしていた。


「先輩、あれは法律にひっからないんですか?」

「見なかったことにしてくれ」

「すごく目立っていますけど」

「大丈夫だ。問題ない」

「……問題だらけじゃないですか、はぁ」


 天凛と折れた男が怪しげな会話をし、ひと段落ついたところで帰ってきた。


「あの男はもうダメね。聞きたい情報は持っていない。体力も常人並み、拷問に対する耐性も持っていない。張り合いのない相手をみると、間違えて殺してしまうことってない? あるわよね」

「それは困りますね」


 その声は三人の誰のものでもなかった。

 天凛は気付いていたようだが、生命の安全を保障されていないさっきの黒服でなく、営業スマイルで登場したそいつは丁寧口調で話しかけてきた。


「死体の処置はさすがに面倒ですよ」

「誰よあんたっ!」


 終始いつものテンションより十割増しの――もう別人じゃないのかというくらいの後輩がその男を指さすと、男の言葉を奪って天凛が答えた。


「私たちが接触した大きな家の使用人ね」

「そうなのか?」

「そのとおりです。戻ってくるのが遅いので、こちらから迎えに来たというわけなのですが、どうやら早くも契約も守ってくださったようでなによりです」

「じゃあ、戻りましょうか? 朱音さんもよろしくて。あー、関係ない話ですけど半透明のタテガミを持った子猫が最近女子高生の間ではやっているとかいないとか? リオンって名前だったかしら、ねえ? 朱音さんは知ってる?」

 さっき手を引いて朱音を村の中へ連れ込んだとき、こっそり相手の弱点を探っていた天凛は朱音を黙らせてあの屋敷へ戻ることに。吹目だけは素直な後輩に不思議がっていた。





 ○

 俺たちは再びあの屋敷に戻ることになった。

 そこである契約を結ぶ。


「実はいろいろとあったと思いますが、それはこちらから直接手を下したものではありません。それだけは信じていただきたい」


 営業スマイルの男がそのまま客間で話していた。


「あれは人間の所業ではなかったでしょう? 我々のお願いもそれにかかわった事になります。いうなれば、その元凶を一緒に退治していただきたいということです」

「相手が誰なのか分かっているんだな。ならこっちで行方不明中の奴を返してもらいたいから場所を教えてくれ。何の関係もない俺たちを捕虜にしても誰も徳はしないだろう」

「それはできません。いいえ、正確には出来ないのです。なぜなら、おそらくその人たちは村の中にいないから。いえいえ、この世界にいないからです」


 営業スマイルの男は奥の部屋から年表のような巻物を持ち出して、それを机の上に広げる。

 今から何十年も昔の西暦を指さして、男はこちらに笑顔を向けた。

 それが意味することなんて分かるわけがない。


「これが我々の予想です。あなた方と同じように外から来た身としては、今のところこのような結論に至っています。つまり、漂流教室強制版――この村に入るとなにかしらの原因で過去に飛ばされている。そういうことですね」


 どうやら、俺が探している相手は想像以上に遠くへ行ってしまったらしい。



予定では紫が高熱を出して倒れて村に縛られる予定でしたが、時間軸をずらして縛ることが出来たので予定変更です。


桧林家がそろそろ本格的に出てきそうです。

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