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ランダムワーク+10分間のエース  作者: 橘西名
ランダムワーク
43/81

41:探偵と獅子

タイトル考えちゅー



 紫朱音、高校一年女子、帰宅部、得意な教科やスポーツは特になし。

 いつからか外で発声練習していることが噂になって、周りにはそれを知った人たちが増え始めた。

 それを知られたせいか、遅刻していることを厳しく言われなくなって面倒の少ない生活を送っていた。ストリートミュージックに行くときの仲間はちょうど別のクラスになったため、妙な慣れ合いは必要ないものだ。


 私の過去を聞いてくる人はそういない。

 一緒に音楽活動している同じ中学だった“れい”と“るる”は、よくわからないけど勝手についてきた二人で……憧れに似たようなものを感じたことがある。でもこの二人がどうゆう関係や思いで本当についてきてくれているのかは知らない。

 元々三年間は一緒の時間を過ごしたからなのか、あえてお互いのことを知ろうとしなかったというのもあるかもしれない。

 ちなみにそのときのクラスメイトはミサイル好きで口癖が


「ミサイル?」


 の奴や


「ムラサキならこんなもんだろ」


 これは仕事仲間なので無下にできないが、とにかくいい加減な男とだけ言っておく。他に


「わたしの憧れはムラサキさんです!」


 これは規格外のペットにまたがる小柄な女の子、などなど、思い返してみてもまともな連中でなかったなと思う。

 などと落ち着いて昔のことを思い出している様は、死に直面した一瞬に走馬灯を思い出しているようであったりなかったり。


 つまり、よく伝わらないと思うけど。


 結構ピンチな状況に私はいるということ。





 ★

 遠目に狼らしき影を見て「ああ、いつのまにか私は夢の世界へ行っていたのね」とお姫さま風に声に出してみても、誰も反応しない。斜め後ろで熟睡中の奏と運転手の人も。

 妄想は趣味ではないけど、少し昔のことを思い出そうとしたとき車のドアに何かを当ててくる音がした。


「自分でドアを開けられないほど両手いっぱいに買い物に行ってきてバカなんですか先輩方は? あ……別に大丈夫か、敬意を払うような先輩はいなかったし。いまですね、ちょっと自分の行動を省みたんですけど省みる必要なんて何もなかったですね」


 よく確認もせずにワゴンのスライドドアを全開に開くと、そこには唾液を大口からこぼす銀の毛皮を被った怪物が一匹、私をどうにかしようと息を荒くしていた。


 むろん、そんなことは許さない。


「ちょっとあんた! 勝手に人様の車に上がってくるんじゃない!」


 犬科? 狼科? いやいや、そんなことはどうでもいいけど、狼もどきになに言ってんの私?

 こんなところ誰かに見られたら、あれだね。…………死のう。


「だめだよ~。冗談でも、人が死ぬのは悲しいことだから~」


 勘違いしたことを起きかけの奏が震えた声で――――あー、それもどうでもいい!


「声を出すんじゃない柚木奏! すぐそこにいる、えっとお婆さんとか丸飲みしちゃうくらい大口の奴の気を引くようなことを寝ぼけてするな!」


 赤頭巾に出てくるババアとかね!


「い、いや……やめて」なんてかわいい声は演技でなきゃ出せないから、この状況で私が勢い余ってやってしまうことは相当バカなことに違いなかった。


「野獣のように息を上げて気持ち悪いわね」

 相手は野獣だ。

「風が入ってきて寒いから! 閉めて! ……言葉が通じないわけないだろ!」

 だから相手は野獣だ!

「わたしはライオンよ!」

 私は人間ですよ。

「違った! ライオンを飼ってるから! その子は今日いないけど強いんだから! 知ってる?」

 知るはずがない。

「あれ? 意外と私、襲われてなくて平気じゃねと思っているところにベタベタした鼻をこすりつけてくるな! きもいっ! うざいっ!」

 襲われていないはずがない。





 ○

 後輩が何かに襲われているとは知らず、親友がまたアホ発言しているということも知らず俺と天凛は知らない人の家に上がっていた。

 この経緯を話すと長くなるんだが、


『天凛が誰かとぶつかって、転びそうになり手を着いたときに捻ったらしく、診療所を探していた。そしたらこの村に診療所はなくて、専属医がいそうな大きな屋敷に勝手に上がらしてもらった』


 というわけだ。意外と短くまとまったな。


「というわけだ……じゃないわよ。勝手に誰とも知らない人の家に上がり込んで『医者はいないのか?』なんていうバカが探偵さんをやっているなんてこの世も末ね」

「ふくれっ面の天凛の姿なんて誰にも見せられないよな~」

「##――な、なにをバカなことをクウの親友じゃあるまい……いえ、アレはそんなセリフははかないわね。殴るわよ?」

「大丈夫か? 熱でもあるんじゃないのか――」

「ひっ――――」

「ちょっと俺の手を天凛の額にあてただけなのにかわいい悲鳴を上げるんじゃねえよ~」


 断わっておくが、俺と天凛はそういう間がらじゃない。

 斗貴と仲のよくない方の後輩が見たら罵倒の限りを尽くしてきそうだが、これにはちゃんと理由がある。俺はこんなキモイ奴じゃない!

 その理由の相手は、俺たちの後ろから監視するように隙のない視線を送り、わざわざ医者まで用意して天凛の手当てをしてくれるこの家の主だ。

 その家の主になんとなく自分たちをさらけ出すのが嫌だったし、手持ちの札を理由もなく見せるのは得にならないと思ったからだ。


「そこでだな天凛、もう少しこのまま演技を続けようと思うんだが、大丈夫か? 本気で体調も悪そうに見えてきたんだが」

「……結構よ。そんな無粋な質問を次いったら、精神崩壊させてやるわ」


 小声でささやき合った俺たちの会話は、演技でしていた甘い言葉を掛け合うわけじゃなく本音で言い合えるいい機会だった。ただ天凛はかわいさのかけらも感じさせない言葉をぶつけてきたことだけはびっくりした。


 俺たちがいるのは、この家で言う客間のようなところで間違いないだろう。

 大きな椅子もあれば、そこに何をおくのだろうと考えてしまうような長すぎる机、この家の主が好きなのか猟でとらえたそのままに吊るしあげられた獣、猟銃。

 一層作りのしっかりした椅子に腰かける主が、脇にいる二人のボディーガードに何か伝えてから、そっと俺たちのところへ近寄ってきた。


「かわいらしい彼女さんの怪我は大したことなかった? ならいいのだけど。それじゃあ――」


 俺はある契約を交わした。

 口約束だからそう強固なものでもないんだが、手当てを無条件でしてもらったからには、契約と言う名のお願いくらいは聞いてやらないと開口一番に“探偵”と言った俺の面目が保たれない。

 探偵といきなりバラしたのは天凛だがな。


「私たち、いえ、この村に纏わりつく邪悪な化け物について話を聞いてくれる?」

「そのまえに申し訳ないんですが、連れがこの村の入り口で待っているんで一言いってきてもいいですか?」

「大丈夫じゃない?」

「どうしてですか?」

「すぐにわかる」


 一端、俺と天凛はワゴンのある場所まで戻っていいことになった。

 俺たちの後をつけてくる人の姿も見当たらない。

 そして、今日出会った二人の異なる人間が言った言葉の意味を俺たちはもうすぐ知ることになる。

 たいへん面倒な話だ。





 ★

 私はワゴンから脱出して、森の中へ逃げ込んでいた。

 ワゴンの中に残っていた奏を庇うように開いたドアから外に出て、外に出る動作の途中で開いていたドアも閉めた。

 奏のように天性の運動音痴でなければこれくらいは容易に出来る。

 いや、紫朱音がそう呼ばれない場所で数日過ごした経験から、このようなことができたのかもしれない。

 そこは落ちれば地獄絵真っ逆さまの空の上にある場所で、別に天国とかでもない場所。

 紫が違うムラサキとして生きた、誰も信じないような話の続きだ。


「ああ、もうっ、面倒くさいなあ!」


 いつの間にか私は獣たちに囲まれていた。

 一匹が肢体の一部ずつ持ち帰っても、獲物の体が足りないほどの数が集まってきている。


 きっと村から離れるように逃げたのがまずかったのだ。

 変に気を使って、村の人に迷惑をかけないようにしたのがまずかったのかな。


「うるさい黙れ! うざいうざいうざい!」


 台風か何かの影響で倒れた大木の上に一時的に避難しているが、人より数倍脚力の優れた野生の獣ならタイミングさえ合ってしまえば簡単にここまでくることが出来るだろう。


 ただ泣き叫ぶしか出来ないのが普通の、奏のような子がする最後の手段なんだろうけど、私にはもう少しだけ“手段”は残されていた。

 本当に最後の最後の手段だ。

 ムカつくけど。


『ムラサキならこんなもんだろ』


 そんなことを言う奴が“あるいみ卒業記念”にくれたもの。


「ここに小さな紙切れがあります。大きさはメモ帳くらい。何も書かれていないまっさらな紙。破ることも片手で難なく出来るほど脆い」


 言葉なんて分かるはずのない相手に言葉を投げかけた。


「私に本当はペットなんていないけど相棒がいるのよね。さっきいったとおり大きな獅子」


 言葉が通じる相手であればハッタリが聞くように、動物界でも効く方法を私は取る。

 それは少しだけファンタジーでかなりデンジャーな奴を呼び出すことになる。


「この紙ってね、強く握ることで効果をなすスイッチのようなものなんだ。――――――獣でもわかりやすいようにしてあげるから、――――感じ取ってよ!!」


 メモ帳程度の紙きれを握ると、太陽の光が私の肩のあたりで屈折した。その光が肩を中心にさらにプリズムのような乱反射をしたかと思うと、そのときには獅子が姿を現していた。

 獅子の体は光を体内に取り込み力へ変えるクリスタル、その風貌は百獣の王と呼ぶにふさわしき……ライオンのはずなのだが、陽のあたりが木々の葉に邪魔されて足りなかったのかその姿は子ライオンのように幼い姿。

 私自身初めて見るその姿に驚いていたが、急な光の明滅に驚いた獣たちの姿はその場からなくなっていた。


「あんた光があんまり当たらないとこだとこんなちまっこいの? まあ、何かと危ない橋を渡りそうだし、出したからにはしばらくよろしく、クリスっ」


 奏や他の人に見せないような浮わついた声で話しかけるその子の名前は


『天空の青獅子――クリスタル・オブ・リオン』


 大層な名前で、今はちっちゃな子猫姿。


 どっかで今もさまよっている空の上の鮮やかな友達と過ごした日々を思い返すような一抹だ。


インフルエンザで一週間ほどダメな感じでしたが復活しかけたので(作品に関係ないリアルな情報で申し訳ない)。



どうやらメインはクウと紫になりそうですが、次回紫に異常事態が……!

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