35:好きだとか! 嫌いだとか! 6
好きだとか! 嫌いだとか! 6
次の日の朝、俺と奏は喧嘩した。
他人からは見えない体の奏が家を飛び出していき、親について問い詰めようとした俺がなぜか榊にしばかれている。
「貴様はアホか……?」
「実態がないのに……とりついた相手に手を出すなよ」
「あれだけわざとらしくヒントを与えたのに……しかも奏に気付かれないようにしてやったのに――――もう、本当にバカな子。呪い殺してやろうか?」
「冗談に聞こえないのでマジで止めてください!」
「まあいい、すぐに奏を見つけきなさい! 奏はそんなに離れた場所に行けはしないから」
「えー、喧嘩中なんですけど……」
「貴様はゲーセンにたむろする女子中学生か……」
言われている言葉の意味は分かっているから、すぐに奏を探しに家を出た。
♪
バカだ。あいつは本当にバカでヘタレで使えない奴。
嫌な奴、嫌な奴、嫌な奴。
あれこれ考えていたら、昔来たことのある河川敷に来ていた。
「――誰?」
川の方から声がした。
まさか魚か?
心霊現象みたいな自分はお魚さんとお話しましょうねってことなのか?
と、我を忘れて考えていると、目の前をきれいな人が通り過ぎた。
「気のせいね。誰もいないし、匂わない」
その人は川の方から来て、辺りをきょろきょろ見てから、あたしの近くに腰を下ろした。
あたしの姿は斗貴にしか見えないはずだから、この人は気付かずにここに座って、何かを勝手にしゃべりだした。
「久しぶりに聞いた名前ね。――いえ、前に会ったことがある、というわけではないけど、それなりに有名な人物で、それなりに世の中に浸透しているでしょう――あの証明は」
よく見れば携帯電話で誰かと話しているようだ。
もちろん、あたしの姿が見えているなんて考えてもいないけど。
「偶然にも、あの男が証明を解くきっかけがここにあって、私たちの関係もここから始まった――運命を感じてしまわない? ――え、話し方が他人行儀で気持ち悪い? そばにいる誰かに遠慮して普通にしゃべれないなら後でかけ直せ?」
電話を持つ手をぷるぷる震わせながら、一息ついて、その人は電話を切った。
「誰が他人行儀よ。……空の奴、調子に乗って」
電子音が響いて、その女性が電話に出た。
「なに? 反省しましたごめんなさい? ……プライドがないわね……」
その人は嬉しそうに電話に出ていた。
見えていないからといって、このままそばで立ち聞きしているのは良くないと思う。
でもこんなに楽しそうに電話をしている人のそばにいるとどこか安心してしまう。
「どうやらその男はある女の子とここで出会ったらしいのよ――え? 昨日のテレビは見たかって? 見るわけないでしょう。私の家にテレビなんてないし、むしろ電気すら通ってないわよ」
この人の生活水準が気になったが、その男のことを思い出していた。
「今でこそ有名な凡人が、たった一度の証明に成功したことに疑問を持っている人がいる。そうゆう話――面白いところなんてなんにもない」
『天凛はいつもそうだな。こっちの考えていることは全部分かっているのに、天凛の考えていることは何も分からないよ』
「じゃあ、推理しなさいよ。名探偵って呼ばれているんでしょ?」
『一年以上前の話だ。それに……、天凛みたいに始めから事件の真相を見透かしたような超能力を俺は持ってないからな。よく見て分かっていこうと思うよ』
「誰のことを?」
その人が電話を切って、再び川の方へ消えていったあとに斗貴が走ってくるのが見えた。
どこで転んだのか知らないけど、泥だらけの斗貴の姿をみて怒っていたことなんてすっかり忘れてしまった。
一つ思い出したことがある。
あたしはバスに乗ってこの町に来ようとした。
この町はあたしの故郷だ。それに他に何かあった気がする。
持ち物はそれほど置くなかったはずだけど、何か大事なものがあった気もするし、なかった気もする。
あやふやになっていることがそれとどう関係してくるかわからないけど、頭の片隅で何かがなくなっている気がするんだ。
その欠落が、斗貴なんて奴に頼ってしまった理由なのかもしれない。
あと、さっきの人は誰だったんだろ?
進展なし!
重要な人物の登場もなし
失礼しました――――ちなみに、今回出てきたのは、
『水木空』と
『月華天凛』でした。
改名というよりは、現在構想中の空と天凛とひよりの話の方での名前です。
それではまたよろしくお願いします。