30:好きだとか! 嫌いだとか!(夏限定1)
おそらく
番外編に該当する本編という名の連載小説??
気分は最悪だ。
夏休み中盤に予定されていた旅行は仲間内でいつの間にか消滅していて、家族の連中はそれを知っているはずなのに俺を残して旅行に行ってしまった。
それはまだいい。まだいいのだが、家の机に置かれていた手紙は、
『ごめんね。家族四人の旅費が思った以上にかかってお金がありません。
朝はトースト用の食パンとバターがあります。
お昼はトースト用のパンとジャムがあります。
夜は……もうわかりますよね?
お金がないので自分でどうにかしてください。――以上です。
最後に、体には気をつけてください。
母親&父親代わりの自宅警備員たちより』
このような内容だった。
俺、雨宮家の四男“雨宮斗貴”は棄てられてしまったのかと勘違いをしそうになった。
それが今朝。それを引きずって現在も自転車をこぎながら高二の夏を駆け抜けるように学校の裏山まで来ている。山の中で気分転換を兼ねたサイクリングは車道を縦横無尽に突き進み、対向車が来ない限りはすごくいい気分だ。
途中で妙な曲がり方をしたガードレールとタイヤの跡が残る場所を通り過ぎるが、目先の興味より学生同士の旅行で浮いた旅費の使い方に思いを馳せるだけだった。
♪♪♪
母親と無職のニートズ(自宅警備員を名乗る厄介な兄たち)が憎しみしか生まない旅行に旅立って一夜明けたころ。
普段おきない時間に目がさえた俺は昨日食べきってしまった食パン以外に、食べられそうなものを探しに台所へ向かう。
冷蔵庫にありそうなものは味噌汁用の豆腐と油揚げ、後は野菜が少しあるはず。
米は昨夜研いだ覚えがないから炊かれているはずが無い。
考えてみても正解は何も浮かんでこなかった。
「もうしばらくお待ちくださーい」
「急げとはいわないが、わたしは朝飯前に動くのは嫌だ」
台所のほうから話し声が聞こえてくる。
この家に不釣合いな若い女の声と、母と正反対で声に棘のある感じの大人の女性の声。
軽い頭痛が襲ってきたが、とりあえず中に入ることにする。もしかしたら、転勤中の父親が作った新しい家族が向こうにいるのかもしれない。
それなら、向こうにいるのは二人目の母親と、俺の姉か妹のどちらか。個人的には妹のほうが嬉しいが、扉を開ければすぐにわかることだ。
そうだな。
まず中に親父がいれば――――問答無用に殴り飛ばす!
「このくそ親父! 母さんがいない間にサプライズ持って帰ってくるんじゃねえよ!」
ろくに連絡もよこさないで、突然帰ってきやがって!
まだ若くて、世間知らずな母さんは普段からふわふわしているけどな!
毎晩、夜空を見てあんたの帰りを待っているんだ!
おんなじ空を共有していると、きっとたぶん思っているんだあ!
「黙りなさいよ! うるさいよ! そこに直りなさい!」
意気込んで入った見慣れた風景に、
親父の姿は無かった。
夏休みが9月30日までありましたので、これからランダムワークの原点物語(斗貴&奏バージョン)を挟んで連載していきます
主にこの二人だけの短編を連載という形で短くまとめたものですが、しばらく続くと思います。