29:妖精のいる世界03
『脱日常系!』
無駄な部屋のない家の中。
子供部屋に全員詰め込んで寝ている。
今この部屋の中には、男女含めて六人。窓の方に女性陣四名、扉側に男二名。一階のリビングで俺なんかは寝てもよかったんだが、奏の奴がどうしてもっていうから……。
「外で寝れば!」
……独り言で冗談を言うと外で寝ることになるからやめよう。
忘れているだろうが、他人から見た雨宮斗貴の癖は独り言。本人はいたって独り言をしている風には思っていないからたちが悪いの?
「――インドの夜は寒いんだ」
部屋から声は聞こえない。独り言をしゃべっているようではないか。
「昼間の気温が体温以上なんて当たり前の夜も、極寒って言えるくらいには冷えるんだ。まじでやばいんだぜ」
虫の声すら聞こえてこない。隣の家のテレビの音がすごく賑やかだ。
「ベランダは狭いよな」
なんか白い粉が落ちている。ああ、それにしても隣の家のテレビは賑やかだ。今が何時なのか考えてほしい。
――えっと、十時過ぎだったか。
「そういや毛布もないな。……朝になったら俺は屍になっているやもしれん。なんてこった! それじゃあゲームオーバーじゃないか!」
テレビの音がやんだ。
ようやく気付いたかアホウめ。騒音問題は現代ではかなり問題なんだ。それこそ騒音を防ぐために何千万とお金を掛けることだってある。
「そういえば……昔々あるところに騒音おばさんという非常にうるさくて面白いおばさんがいました。そのおばさんは――」
「何、語り始めているの?」
後ろを見ると制服姿のまま――変なものでも見るような奏が窓ガラスの向こう側にいる。
あいつの目には何が映っているんだ? まさか、見えてはいけないものとかそうゆう類のものなのか?
「気持ち悪い。そのまま外で朝まで過ごせばいいじゃない」
「え、いや……中に入れていただけると非常に感謝します」
「心にもないわね。そもそも、どうしてあんただけ外にいるのか分かっているの?」
「それは…………夜風に涼む男のロマンを感じようと思って」
「一度、ただの屍のようになってみればいいんじゃない?」
「このままいくとそうなるな」
「気付いてないと思うけど、この家に向かって何かが近づいてきてるから。レーダー的に」
「おう、結城も起きていたか。なんとか奏を説得してくれよ」
「狭くなるから嫌だ」
「そこをなんとか! 新しいジャージ買ってやるから!」
「ジャージ好きみたいにいわないで! あ、そうだ。今こっちに近づいてきてる奴倒してきてよ」
「ちょっとコンビニでアイス買ってきてよ――みたいにいうなよ。俺はスーパーマンみたいにフラッとそうゆうことできないから」
『え、なに?』
奏と結城が一緒になってどうでもいい顔をしている。絶対こいつらまともに話す気はないな。俺は外にいるが、決して外に出られるわけでもない。靴は玄関にあるし、ここは二階だし。
「で、その敵の数値は?」
「栽培マンと同じくらい。ほら弱い」
「奏、よーく聞けよ。あいつらは意外と強い! 普通の人じゃ勝てないからな!」
「知ってる」
確信犯か――――!
「それいけ、斗貴―」
「元気百倍、雨宮―」
「パン工場のジャ○おじさん風に言われても……」
散歩がてら栽培マン退治に行くことになりました。
御供は眠気がそもそもなかった奏と、この世界の子供が一人。
「栽培マン見たいです」
元気よく起きてくれた女の子がてとてとついてきてくれている。
えーと名前は田村――――名字が違う?
俺はこの世界のルールなんて忘れていた。
「なんでお前だけ名字が違うんだ?」
「親がいませんから」
「ちょっと、斗貴……むやみな詮索は」
「殺されちゃいましたから、怖い人たちに。でも――」
何かが来た。
地面は揺れ、よろけそうになる奏の体を支える。
少女は小さな手に銃器のようなものを持ち出し、俺はやわらかいものを抱きしめる。
どこがどうやわらかいというより、手の中のぬくもりを想像してしまって――しまって、いや、なんでもないが……。
「でも、そんな気持ちを忘れないでいられる今を大切にしたいですから。どんな奴が来ても私たちは精一杯の力で乗り切ります」
もみもみ。
「最低だわ。年齢が倍くらい違う子がいいこと言っているのに、なに手をにぎにぎしてるの? もうあんたが囮になっちゃいなよ」
「囮という名の犠牲ですね」
ぐにぐに。
「こうすると握力が上がるらしいんだ」
むにむに。
何か来た、その前でもね、無視される。
「よしこいやぁああああ!!」
「前見ろって。俺だから、お・れ」
「おれおれおれ詐欺だなっ」
「一回多いから」
「その声は!?」
「ようやく――ってか前見ろって、地面ばかり見るな」
「もしかして俺の知り合いに栽培マンが!?」
そのとき、俺の後頭部に何かの衝撃が!
「調子に乗るんじゃないよ、十代のガキどもが……夜型のシスターさんは短気だからね」
「おい、空。このおばさんはお前の知り合いか」
「いろいろ斗貴に言いたいことはあるが、とりあえず――――分かってやってたな」
「すみません。もうしません、許してください親友様」
「神に祈るんなら許さないよ」
シスターいう奴が言っちゃいけないことを言っている気がするが、どうやら結城センサーはハズレみたいだな。俺らの前に現れたのは無害な親友とおそらくこの世界のシスター。やたらジャンキーな女だな。
「お互いに言いたいことはあるだろうが、これでようやくほぼ全員の場所が分かった。本題なんだが、俺らがやることは結構大変なことになるかもしれない」
「斗貴の親友さんと……おばさん?」
「だからおばさんじゃない」
そして、よくわからないおばさんと少女を置いて、三人で少しだけ話をする。たいしたことを空は言わなかったが、この数時間で何か掴んだらしい。空のペアになったのは朧らしいが、担当の女は外国人でシスター。もしかしたら、日本ではこんにゃくを食べればペラペラになれるっしょと本気で言いそうなシスター。その服が黒っぽいんで、良く見ていないとどこにいるのか分からなくなってしまうな。
「じゃあ俺はもう少し調べてからまた来るぜ」
「こっちはそれまでゲームオーバーにならないように楽していればいいんだな」
「それはだめじゃない。ヘタレてるわ、斗貴」
「あの――」
あー、忘れていた。ここには三人で来ていたんだ。
「栽培マンはどこですか!」
あーー、忘れてなかったんだ。
すごいウキウキしてるよ。いっそのこと空のことをそう呼んじゃおうか。いや、また怒られそうだな。
「なあ、斗貴」
「なんだよ」
親友が真面目な顔で言う。
「絶対死ぬなよ」
ゲームは、終わってしまっては面白くない。面白いことも時間がたてば忘れてしまうから、出来るだけ長く楽しもうってことだな。
そうじゃなくても俺は一番長く続けるつもりだけどな。
立ち位置が主人公でない斗貴は……。
ちなみに今回オリジナルキャラの登場は考え中です。
シスターはエルデ四年後の世界でも出てくる重要キャラもとい外国からきた唯一のキャラなので。
オリ(ここだけで)になるとしたら、空の探偵の師匠か、むしろその敵とかなんとか。