03:ハロウィンでした
「03:ハロウィンでした」
やけに騒々しい隣の教室はさておき、お化け屋敷のようにどんよりした我がクラスはどうしたものか。だらけているわけでもテスト前と言うわけでも、成績開示ってわけでもなくて沈んでいる。
初めは正体不明のハロウィンの雰囲気を探して他のクラス同様に仮装や菓子を楽しんでいた。その次に仮想空間での狩りが始まり、手持ちのパンドラバッテリーが力尽きる。セーブせずに中断され、残された狩り仲間が窮地のピンチに陥りゲームオーバー的なPSPな男たち。
正直そっちはどうでもいい。
本題は学校外の変態にお世話になっている女子の方だ。
「だいじょうぶ? 顔色も悪いし、やっぱり今日の所は帰っとく?」
みはてが被害者の一人を気遣い、そして次の一人のところへ跳び跳びに気遣いを振りまいている。被害者とは神出鬼没のハロウィン風衣装の男に襲われている女子たちのことだ。このところ毎日のように被害者が増えている。それもこのクラスの女子だけという異常な事態だ。
「斗貴はどう思う? となりのクラスの人間に聞いてもしょうがないが、どうしてこのクラスの女子だけを狙えるんだ。学校単位なら制服でわかりそうなものだが」
「偶然ってわけじゃないな。三日連続なのが気に食わないんだろ、生は」
それだけじゃないけどな。こうゆう場合の解決法は囮を使って犯人を誘い出すのが定石になるから、それが嫌なんだ。双子妹の玉梓みはてなら無茶をして――。
「私が囮になるから今夜中に捕まえて」
と提案してくる。
おっとりした性格の割に行動派のみはてはすぐ行動に移す。双子の兄が気付かぬうちに夜は訪れた。
上着なしでは相当寒いなかを学生服だけで玉梓みはては夜道を歩き、その後ろを少し離れて俺はついていく。本当は斗貴も一緒にくるはずだったが、クラスの方で問題が発生したためきていない。夜道の女子高生の後をつけるとその問題が悪化するそうだ。
みはての歩くスピードが少しだけ早くなる。そして道を直角に曲がり俺の視界から消えた所で、不審な人影が視界に入ってきた。
「……でたな」
犯人に気付かれないように早足でそいつに近づく。だが小走りになっているそいつとの距離は広がっていくばかりだ。二人の人影を離れた所で見失い、道を曲がるとすぐのところで玉梓が片手を握られて捕まっていた。
間違いなくこいつが犯人だと確信し、走ってそいつのもとへ駆ける。
だが次第にその足はゆっくりしたものへなる。ある変化に気付いたからだ。
当の捕まっている玉梓はかわいらしくキャーと悲鳴を上げるわけでも、無理に抵抗するわけでもなく言い捨てる。
「俺にようか、かぼちゃ頭の変態さんよぉ?」
手をつかむ男の小さな悲鳴が上がる。
かつらを使ってみはてと同じくらいの髪を持ち、容姿は双子のため美人なのは標準装備、すこしだけ背が高くて、腕っ節はめっぽう強い、口調は乱暴なジャイアンタイプの玉梓彼方がそこにいた。みはての兄だ。
その場で異変に気付かない犯人は、拳を振り上げる姿に悲鳴を上げて、彼方の振り向きざまの左ストレートが男の顔面にめり込んだ。
俺が近寄ったころには全てが終わっていた。
「ととっ、大惨事だなこりゃ」
「手加減した方だぜ。みはてと俺がすり替わったことにこいつが気付かなかったからな」
「しょうがないだろ。双子のお前ら――彼方とみはてを見た目で区別できるのは俺くらいだ」
「へえ、大した自身だね。ちなみに今は女装する男子学生という設定で女子の制服を着てるんだが、案外悪くないな。明日からはこれで登校してみるかな」
「やめてくれ。いろいろアウトだ」
「どうしてだ?」
「どうしてもだ! それに本気でお前らの判別ができなくなりかねない」
「面白そうじゃん」「面白くねえ!」
この程度の小さい出来事は割と普通に思ってしまう。
そう、生弓矢は思っている。
***
過去よりもまず先を見る。
積極的で前向きな生徒のいる学校の生徒たちは今日も元気に進化していく。
住む世界はみな同じ、生きる形は多種多様。