27:妖精のいる世界01
俺は今、怪奇現象の最中にいる……いや、別に認めたわけじゃないぞ。
つまり、図書館にいたはずなのに、日下部の持つ本の中に吸い込まれて、そのまま別の場所に吐き出された。その場所は一度も来たことがない。来たことがあるはずのない一軒家の誰かの家だ。
「よぉー!」
そしてもうワンアクション。
なぜかここに、あの場にいなかった人がいる。
「酒を持ってこい、斗貴!」
「遥さん、飲みすぎ。それにここ知らない人の家だから」
あと、奏もいる。なんとか奏が遥をなだめてくれるので、俺に実害はないが、俺たちは知らない人の家にいた。
三人とも制服姿(遥は会社の制服)で、ベランダのような場所に座り込んでいる。
家の人に気づかれれば、いいわけの出来ない場所にいるのだが……。
遠くを見るとすっかり夜になっている。
空には星がちりばめていて、ぴょこっと視界に他のものが入ってくる。
夏になると出てくる虫とかそうゆうのじゃなくて、人間の女の子の顔が視界の端にある。
「どちら様ですか?」
「……あ、怪しいものじゃないんだ」
怪しい奴の定型文だ。
横から一番怪しい奴が「斗貴斗貴」うるさいから、俺の名前だけバレバレだし。
「天然記念物さんですか?」
上から覗き込む女子が変なことを言っているが、悪い印象はなさそうだ。
まだいけると思った。
「渡り鳥が迷い込んできたんですか?」
「そうゆうことにしてくれ。詳しく話すと、それはもう長いことになってしまうんだ」
「そうですか……」
よっし、このままいけそうだ。
上からのぞいてくる女の子は、里佳と同じくらいにみえるけどきっと小学生。
世界中の少女がみんな見た目と食い違っているとは思いたくないぜ。
「そんなわけないですよね。不法侵入者三名さんが、何ようで? いえ、侵入することで目的の一部を果たしているなら、ここは『きゃぁぁぁ』と叫んだ方がいいんでしょうか?」
誰も助けにきそうもない悲鳴だった。
空を見上げるような形で会話していると、後ろの扉が突然開いた。
「――また、この時間になると外に出て…………って、誰ですか?」
「上の子にも言ったんだが、怪しいものじゃないんだ!」
驚いた分大きな声になってしまった。そのせいでベランダに出てきた少年が剣を構えた。
どこから出したのか謎だが、こちらも余裕がない。
こんなところで見ず知らずの子供に刺されるデッドエンドなんて嫌すぎる。
「おーい、斗貴たちも中に入れよー」
「そうそう、斗貴っていうのは俺の名前で……別に自分が天然記念物っていってたわけでなく……て、あれ? この声は――結城!」
ドッキリが成功しました! みたいな顔で結城が家の中からこっちを見ていて。
さも演技していたみたいに物騒なものをしまう少年。
そして上から、まあ誰なのかは想像ついていたけどね、っと漏らす少女。
俺たちは、はたして当たりなのだろうか。
当たりはずれを考えてみると、やはり物語の主人公とか、ヒロインのそばにいるのが当たりだろう。
主人公が死ぬ物語や、致命傷を受けることなんて多分ないだろうし、ヒロインが死ぬのは……悲劇のヒロインとか一瞬、頭に浮かんだが忘れることにする。
とにかく、日下部が言ったようにこの世界の人間に聞いてみるのが先決だ。
「私は結城。世界一のストライカーを目指す高校生だ!」
「どうもご丁寧に、私の名前は『田村由依』――狙撃手です」
「僕の名前は『中原真人』――剣士です」
「えっと、高校生『雨宮斗貴』とあほの子『奏』と酔っ払い『遥』だ」
『あほの子?』
理不尽な紹介に奏が暴れているが無視だ。
実は、疑われることなく家に迎えられていた結城が、変なことを吹きこんでいたから俺たちは親しまれたのだ。だから、事実を正確に伝えなくてはならない。
隣で「事実じゃないわよっ!」とうるさいが、お前にかまっている暇はない!
最初は何を話そうか迷ったこともある。
――さっきのひと騒動があって、いまの間までのほんの数分だけど、真剣に考えた。
俺らが何をしに来たのかは分かっていることだし、秘密にしろとも言われていない。
ここが外れじゃなければ、本当に必要な第一声はこれでいいはずだ。
「俺たちは、この世界を改変しに来た。だから協力してくれ」
この言葉を聞いた二人の登場人物が、俺、奏、遥、結城の四人に対してどう思ったのか。そして、この後に俺たちを待ち構える出来事がどんなものなのか。
まだ分からないことだらけだ。
いや、残念ながら斗貴たちの組は当たりの家じゃなく――どちらかといえばはずれの家。
選択肢を見誤ればすぐにでも退場してしまう立場だと知るのは、
そう遠くない。
次は、一気に残りのメンバーの紹介