26:本の世界に飛び込んで
『本の世界に飛び込んで』
梅雨の時期、家の中にいることが多くなった。
学校へ行こうとも、休み時間は友達と楽しく談話して、放課後は図書室へ向かう。
文学部にも入部しているが、活動は放任されているので部室より図書室の方が落ち着く。
最上級生になり、いろいろやらなくてはならないことをしなくて済むからだ。
たまには、内気で――普段は文庫本を片手に持っているような女の子が、みんなの輪の中心にいるのもいい。
ちょっとした冒険をみんなでしてみたい。
“みんな”というのは、いつかの彼らのことで。
正直、それからの面識はない。
わたしなんか、『自己紹介した――ああ、あの子ね……レベルなのだろう。
日下部朝陽――太陽の光の下で、のびのび育ってほしいと願ってつけられた名前らしいけど、本人は暗い部屋の中で至近距離の読書中。
体を動かすことは登下校以上になく不健康――もちろん、積りにつもって視力も悪い。
そんな私の得意なことは本を読むこと。
今回はその特技で変わったことをしてみる――――――それは世界の改変ともいう。
みんなは、一か所に集まっていた。
部活の合宿や休学、停学中の面々まで集まって、去年の騒がしかった奴らがほぼ集合している。
理由は、図書委員長の日下部から呼び出しがあったからだ。
『もしもあなたたちの目の前で人がみんな死んでいたら。
もしもあなたの信頼している人が、すべてを裏切るような行いをしたなら。
もしも住む世界が滅びてしまったら。
もしも友が敵として待ち構えているなら。
――どうしますか?
答えのわかるものは…………私の所まで来なさい』
死者を前にして、どうふるまうかの答えを知る“斗貴、奏、里佳”の三人。
裏切りや信頼の答えを知る“空、天凛”の二人。
滅びる運命にある世界を知る“弓矢、彼方、未果、そして朱音”の四人。
三年間、ずっと敵だったやつらを知っている“神谷、宗次、瞬”の三人。
それと、あと何人かの“みんな”が、日下部の怪奇放送を聞いて集合している。
「不特定多数の人間から、今回のイベントに必要な者の人選をするのはとても大変なことです。それでも、個々がそれぞれの見てきた世界を持っているから、こうしてこの場に何人も集まってくれました」
「斗貴、この人だれ?」
「俺もよく知らないんだけど、確か図書委員長だったはずだ。奏は一度もあってないはず」
天凛と空は長机の端から口を出す。
「偉そうね!」
「お前が言うな!」
「ちょっと――あなたの親友の将来の相手を見物に来ただけなのに、怒らないでよ!」
「俺の親友をどんな評価してんだよ!」
斗貴は「あっ、あれね……」とぶつぶつ言っている。
奏はその隣でよくわからない顔をする。
「ところで、部活の練習を中断して集まった俺らになにようだ? 日下部さん」
神谷がユニフォーム姿で日下部に一番近い席にふんぞり返り。その横に、宗次、瞬と続く。
能力的にはこの三人が一番高いかもしれないが、この三人が一番なのは、普通な生活をしているところだろう。
普通に毎日野球の練習をして、試合にも普通に勝つ。
今のところ負けたことがないから、夏の甲子園も二連覇。
――――ちょっとは普通じゃないかもしれない。
日下部は、みんなが図書室にある一つの机の周りに座るのを確認してから語りだす。
ここに想定範囲内のメンバーが集まっている。その確認が大切だった。
「今から世界の改変に向かいます」
「やばい人!?」
「落ち着け、奏! こうゆう奴もクラスに一人はいるもんなんだ!」
「でも、でもでもー。やばい人はやばいよ!?」
「お前も相当やばくない?」
「二名の漫才師は置いといて、まじめな話かつ面白いゲームの話です。
今ここに一冊の本に相当する文字があります。
それは完結した物語を作っています。
そして、その話の結末を今から変えに行きます。このメンバーで」
漫才師の親友、吹目空は少し考えて、言いたいことをまとめた。
「手段は?」
「製本したこの文章の中に入ることで、その世界を書き換えます」
「具体的な方法がわからない」
「ロジックを伴わない言葉を吹目君は納得できなくとも、そうゆうものです」
「じゃあ、目的は……どうして一度完結した物語を上書きするようなことをする必要がある? 一度終わったものなら、その作品にもいい部分や魅力的な部分があったはずだ。なぜそれを作りかえるような乱暴をする?」
「家系が探偵――本人は去年の夏くらいから、ある素敵女の子との出会いによってその道を行くことになる」
「おい、天凛」
「なんでしょう?」
「あのな、勝手に地の文を会話文にしないでくれません? そしてましめな会話をつぶさないで」
「夫婦漫才は置いといて、私が作りかえる物語は、いわゆるバッド(デッド)エンドであるから、幸福な結末を期待して、このゲームを思いつきました。
基本小さな子供たちがバトルして、人が死ぬ話です。
そのためのアイテムとして、簡易スカウタ○を作ってみました」
「そのスカ○ターを使って何みんだよ」
「それはきっと能力が怪奇現象の女の子を見つけるためね!」
「見えねえよ! それに、そろそろ忘れろよ、それっ!」
「弱いボケをスルーされて、少し胸が痛みますが、ルールを提示しておきます。
まず、これから行く世界は、大人より子供の方が強いことが多々あります。
その理由の一つに、子供しか持てないある能力があり、その数値を見るのがこの装置の出番です。マックスは999までで、参考までに柚木さんを見てみると……0……死んでますね」
「死んでないよ! 私、生きてるよ!」
「さあそれは何の伏線なのでしょうか?
それはさておき、現代人がどんなに頑張っても勝てない戦車なんかは、この値が約600――武術の達人が約250と考えれば、マックスが999でも十分なのがわかります。
――――ちなみにその世界で一番強い人は戦闘力が1050くらいでしたが、死んでいます」
「今、さりげなく戦車より人の方が強かったよ!」
奏と日下部が絶妙なすれ違いを見せながら話は核心へ続いていく。
そして、そろそろゲームを開始しないと、空気になっているその他大勢が寝そうなのも非常にまずいことだ。
「これから行く世界で、簡単にいえば登場人物それぞれに、二人一組で一緒に行動してもらいます。ですがその世界のもともとの住人でない私たちは、認識されないことがあります。
例えば、登場人物の一人にくっついて学校に登校しても、不信がられません。
そして、今から行く物語の概要を説明すると、何人か本気で寝てしまいそうなので、その世界の人に聴けるように、ある細工があります。それは、登場人物が、私たちが本当に知りたい情報について嘘をつかない、ということです。
例えば、好きなのに本当の気持ちを表に出さないツンデレやろーも、『大好き!』っていいます。むしろ、『一緒にいようね――グサッ』って感じで永遠の幸せを――――」
「病んでるー! ヤンデレだー!」
「一番大事なルールを忘れてましたが、もし、登場人物が死んだり、私たちが死ぬと。その関連項目すべてが世界から消えてしまいます。
例えば、いまここでヤンデレ化した私が斗貴さんを刺殺すると、斗貴さんを好きな奏さんも、斗貴さんを知っているだけの女の子に変わります」
「……いろいろ文句あるけど、ここは流すわ」
「つまり、世界を劇的に変えたいなら、自ら命を絶つのも一手、ということです」
それでは、ゲームスタート! ……物語は唐突に始まる。
――そして、日下部はいろいろルールを言い忘れたことを忘れて、本当にゲームスタート。目指す世界は、この作者が書いているもう一つの世界。
ちなみに「エルデ」と呼ばれる世界にいる人は、このメンバーにはいないのがルール。
そんな当たり前の前置きをして、それぞれが担当の子供のところへ、日下部の本の続きを目撃する力で送り込まれる。
本日連続投稿――連続で投稿しても物語の全容が明らかにならないのはそこはかとなく……じれったい?
一部の数字は日下部オリジナル。どこかの数字と違うかもしれませんがお気になさらず。