21:もしも――というのは、不可能なこと
後半の入り口部分。
『もしも――というのは、不可能なこと』
雨宮斗貴に停学一週間を言い渡す。
「理由を聞かせてください! 俺は何も悪いことをした覚えなんてありません!」
斗貴たちが教室へ戻って早々に教師のお叱りがあった。
なぜかふんぞり返った教師が斗貴にだけ罰を与えるという形だ。
「残念ながらお前に拒否権はないらしい。つい五分前に校長直々の判断だからな」
「どうして校長が出てくるんだよ! 俺はあんたが呼んで来いっていうから天凛を連れ戻しただけだ!」
「教師をあんた呼ばわりする生徒には罰が必要だよな……それに、誰もお前にそんなことは頼んでいないという事実!――はーっはっはっはー、お前の負けだー」
すごく楽しそうに生徒に説教する教師がそこにいる。
理不尽を顔いっぱいに表している斗貴も食い下がるわけにはいかない。
しばらく、絶対優勢の教師バーサス残念な感じになっている高校生がいた。
***
俺が戻るとそこは完全アウェーになっていた。
俺が今日していたことを整理してみよう。
そのいち――――休み時間、下級生が遊びに来て……もてあそばれた。
そのに―――――授業開始直後、天凛がいないことを運悪く気付き……教師にはめられる。
そのさん――――天凛さんと温かな会話をする……そして怪奇現象を体験。
そのよん――――怪奇現象そのものに驚愕の事実を告げられる!
その様子を思い返してみよう。
『……演技って、すごく疲れる』
『謀られた!?』
『将来あなたの彼女になる女の子が怪奇現象とは驚きね』
『何その、お前の彼女を想像しながら行動してみたらどうしようもない変な奴になってしまいましたよ、みたいな感じ!』
『わかってるぅ』
『わかりたくなかったわい!』
そのご―――――精魂使い果たして抜け殻となった俺は……勝手に教室へ戻っていく天凛について行くことになった。
以上、悲しいことがあっても決して泣かない俺は可哀そうだったという話。
結果として、同じ教室の友達からの援護射撃もなく停学一週間、すぐに帰れということになっている。
仕方なく帰ろうと荷物の準備をしていると、里佳が近づいてきてそっと肩に手を置いてくれる。女子高校生の平均身長から十近くも背の小さな里佳は、背伸びするような感じだ。非常に癒される自分がいることに気づく。
やっぱ俺が好きなのは少し控え目な身長かつ成長の女の子で、決して怪奇現象なんかじゃないんだ。
「お兄さんはおねえさまのことを嫌いになってしまいましたか?」
多少分かりづらいが俺と天凛のことだろう。
「俺が天凛のことを好きになる出来事は何もなかったな。かといって嫌いになることもない。逆に大事なものを奪われた気がするな」
「大人の話ですか? 桃色の思い出ですか? 学校での破廉恥行為ですか?」
「ん……?」
あれ、里佳が暴走気味だ。てっきり慰められるばかりだと思っていたのに意外な展開だ。
「校内でえっちぃ行為はいけないと思います」
「そんなことはしとらん」
「何をしたんですか!」
「俺が想像以上のことをしでかしたみたいな顔をしないでっ」
「怖い! お兄さんが怖い!」
「俺は今壮絶に今日を厄日だと思ってます!」
――帰ることにしました。
家は歩いて通えるくらいに近い。でも俺は自転車を使うね、楽だから。
最初は停学一週間なんて酷いと思ったけど、考えようによっては休みが増えたと考えられるんじゃないだろうか。
帰ったら自分の部屋でゆっくり寝てやるぜ。
「出ていけこのケダモノ!!」
ピシャッ、扉が閉められる。一瞬見えたのは母親の姿だった気がする。穏やかな人なんだけどなあ。蚊とか殺して涙を流す人なのになあ。
息子をケダモノ呼ばわりだもんなあ。
親の反抗期かもしれん。自然に入ってみる。
「ただいまー、母さん」
「わたしは息子の教育を間違えてしまいました……ごめんなさい」
親の涙軽っ。人生でそう何回も見るものじゃないだろ。
「泣かないでくれ! 頼むから! 近所に聞こえるから!」
「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……この世界にこんな出来そこないの息子を生んでごめんなさいっ!」
「あああぁぁああ、絶対聞こえてるからなー。俺の存在否定!」
「母さんをいじめるな!」
出てきたな、俺の兄。時代の波に器用に乗りながらニートやってる俺の兄。
母さんの涙声に反応して出てきたんだ。
「ややこしすぎるー。俺の家族がややこしすぎるー」
「ごめんなさい」
「斗貴、謝りなさい……母さんに謝りなさい!」
父親代わりでもある家のニート(兄)は説教垂れて、涙と鼻水で愚図愚図の母親。この二人がトップの家って……。
どうしてこの二人が騒いでいるのかといえば、少し前に学校から連絡があったからだ。俺の通う学校の生徒からだったらしい。それが誰なのか特定するのは難しいだろうが、ここではそれは関係ない。
電話の内容は、俺に対するあらぬ噂だったというわけだ。きっとな。主に――ごめんなさいを連呼してしまいそうになるくらいのことだったのだろう。それを聞いた母さんが、玄関で俺を見て早々泣き崩れてしまったのだ。
「「勘当だ!」」
その一言で俺は再び外へ出される。
弁解の余地はなく、完全にシャットアウト。
母さんは涙声で最後に一言残してくれた。
「……模造刀を振りまわして校内を駆け巡り、終いにはそれを凶器に女生徒を脅迫して……そうね、口に出してはならないようなことをする息子はいらないわ……」
本当に世間に対して申し訳なさそうな顔をして話している。
でもあえて俺は言っておこう。
この声が母さんや近所の人に聞こえなくともいい。
偶然通りかかったおじさんとかが聞いてくれるだけでもいい。
俺は叫んだ。
「誰だ、その悪意に満ちた電話をうちの純真な母親にリークしたバカ野郎は! 想像もしていない世界が広がっちゃってるからね! 俺の予想を軽く飛び越えていったよ! そりゃあ狂気に駆られてごめんなさいを連呼したくなるわぁっ!」
そしてこの日、俺は帰るべき家と学生の性分たる学校へ行くことを断ち切られた。
もしかしたらあの学校内に潜伏する、俺の将来の伴侶がすべての原因なのかもしれない。
――俺の将来の相手は怪奇現象。
嫌な未来を想像してしまった。
次回! 日常を描こうとしたらどんどん非日常になる恐怖!!
雨宮斗貴を人生の底辺においやった張本人が斗貴に助けの手を差し伸べる。
家もなく、金もなくただふらつく若者に――その道の人が助け船を出したのだ。
そして前ふりしたのだからちょんとでてくる――――模造刀!!
何に使うのかは考え中。以上!
これが予告というのは微妙です。今回消費しきれなかったことを書きなぐったにすぎませんでした。