02:ハロウィンです
「02:ハロウィンです」
『学校で認められた行事としてハロウィンパーティーが開かれる』
学校長命令でそんなことが提案された。
個人で準備することと言えば、A4の代紙に輪郭だけしか書かれていないお面を自分なりにアレンジしてくることや、常識の範囲内で仮装してくることなど。仮装の方は、この学校からしておそらく大体の異常は許されるだろう。
そういえば漫画部に部費は新人賞に投稿して確保しろとか、元々陸上部の選手がサッカー部に助っ人として入り、国立の主役を奪って来いとか――多種の無理難題を学校長はいうな。一年も経てば慣れたモノだが、最初の一年はまさに奮闘と言わざるを得ない。そう思うわ。
さすれば、何気なく校内にいる不審人物も仮装と見るのが普通なのか。
名札が付いていない分、その判断が難しい。
「おい、金武宇様はどこにいる」
そいつは黒いローブに見えを包み表情をみてとることはできない。声色は女性のようだが機械的で同級生にはいないタイプだ。もし俺の知り合いであるならば、少なくとも吹目空に金武宇の居場所を聞きはしない。
「えーと、ひよりなら――」
「貴様! お嬢様を呼び捨てにするとは、今ここでその首根っこに風穴を開けてやろうか!」
モデルガンを構えて声を荒げる女性。しかたなく両手を上げて降参の体勢をとると銃だけは下げてくれた。
「まあいい、居場所を知っているならさっさと教えてくれ」
知っている限りでひよりのいそうなところを空はその女性に教えた。
一瞬の危機が過ぎた後、空はこの事を警察に通報しようか迷ったが、それに意味はないとなんとなく思った。今おとずれた人が金武宇ひよりの関係者なら、現警視総監の金武宇というひよりの父親と関係があるのかもしれない。わざわざ警察のトップの事情を下の警官に伝えても意味はないからだ。
「やべ、さっさとマスクを作らないと、平常点が二百点くらいマイナスされかねない。基本平常点だけの授業はやりがいがあるねえ」
とろとろと空はひよりもいる教室へ戻った。
開け放たれる全窓。空白の多い座席。機関銃タイプのモデルガンを天井に打ち付けプラスチックの小雨を降らせる黒い存在が周りからかなり浮いていた。
涼しいな――空は教室を見てそう思う。
「この教室は私が占領した。解放されたくば金武宇様を呼んで来い!」
まったくひよりの周りはどうしていつも過程がむちゃくちゃなんだ。
ひよりが将来本物の刺客に狙われた時や、事件に巻き込まれたときを考えるのは分かる。そのために親がこうゆうことをするのもすでに慣れている。が、しかしその結論へ至る過程のシナリオが適当というかお粗末というか、とにかく見ていて恥ずかしい。教室内でこの事を知っている奴らはすでに苦笑している。
「おいタコ。ひよりはまだ来てないから静かにしてろ」
「タコではない。お嬢様を狙う謎の美少女刺客その、……その十くらいです」
ため息すら出ない。「お嬢様」といいながらそれを殺しに来る人間なんていないし、そんなことになる奴は狂ったメイドに武器を持たせたときくらいだ。今回は本人もいないし、関わらないよう来た道を戻ろうとして何か小さいのにぶつかった。
「いたっ。デカイからって調子こかないでくれる」
背の低いことがコンプレックスの塊のような少女がその場にいた。
「バカ、静かにしろ」「なによ」
小さい体を強引に引っ張ってその場から引き離した。ひよこのようなこの少女、いや同級生は間違いなく謎の刺客美少女の狙う金武宇ひより本人だったからだ。あのタイミングはない。俺が自分でまきこまれるのを望んだようなタイミングだ。
「ちょっと男如きが何を! ……って、よくみれば吹目くんじゃないですかぁ。……強引に迫ってくるのもお手の物なのね、ふふふ」
こちらに気付き色のある声に変わったひよりは何故かうっとりしている。
こうなると父親仕込みの金武宇家の体術が一切使えなくなるため、俺が巻き込まれた場合、必ず俺がひよりを助けなくてはならない。えっと、もう通算十回目か。
「強引なのはお前の関係者の方だ! 高校生に笑われる刺客を送ってくるなと家で親父に伝えとけ! それはいい。とにかく今回は機関銃使いが教室を占拠するシチュだ。いつもどおり俺の指示でお前が相手のゼッケンを奪えば解決できる」
「ふーん。私のことが嫌いじゃないからまた助けてくれるのね。そうゆうあなた、好きなタイプ――」
「お前の好意は他の奴にくれてやれ」
空は一人でジャックされている教室へ戻った。
「謎のタコ、ちょっと話しておきたいことがある」
「謎なのは美少女が刺客であることです。タコではありません。さて、お話とはなんでしょう?」
「そうだな。これはこの教室にいるある男のことなんだが、そいつは不思議な力を持っているんだ」
「はい、それは大変興味深いですね。ちなみに私は意識を集中させればこの銃器で十分に人を殺せる自信があります」
「いや、それよりももっと恐ろしいぞ。この教室にいるそいつは魅惑のマッドアイをもっている。それに見られたものは女だろうが男だろうが気が狂ったようにそいつと共に時間を過ごし、気付かぬ間にそいつの家にいるんだ」
「そ、それはなんとも恐ろしい。お持ち帰りと言う奴ですか。そんなものとお嬢様が同じ学び舎にいることにぞっとしました」
体を抑え、肩を小さく震わせる刺客は少しだけ動揺してくれた。さて、最後の詰めだ。
「そいつの名は、天地に轟くヘタレにして女たらし、全国の雨宮さんから恨まれ続ける男――雨宮斗貴のことだあ!」「嘘つくな!」
――痛っ、舌噛んだ。話している最中に頭に突っ込みを入れるとこうなる。
「誰が、そんな最低――最悪な男だ! 俺はいたって普通な方だあ!」「わかってるわかってる」
この寸劇の最中にひよりはゼッケンを奪還。勝因は第三者の介入と、親友を売ったこと。いらぬ犠牲かもしれないが、親友の斗貴は最大限の働きをしてくれた。
「ハロウィンの寸劇にしては結構な刺客だったんじゃない。お父さんもよくやるわ」
「見事です。お嬢様」
「これからはもうちょっとマシな連中にしてくれ。張り合いがない。そして斗貴よ、ごめん」
***
過去よりもまず先を見る。
積極的で前向きな生徒のいる学校の生徒たちは今日も元気に進化していく。
住む世界はみな同じなのだ。
ハロウィン編続きます。
シーズンが少しずれてきました。