10:夢
他の連載と関係のないところで続くお話なのでもう少し年内に頑張ります。
「10:夢」
窓を開けていると少し肌寒く感じる教室。机の上に広げられたノートへ向かってせっせと何かをしているみはてが見えた。
えらく熱中してそれに取り組んでいるように見える。
そんな様子を俺が見ているのだから、それは課題に追われた様子ではない。課題なら俺もせっせと机に向かっているはずだからだ。
なら、何故、と思ってしまう。
これでも一年来の仲になる双子のことは何となくわかっているつもりだ。
すっかり女装する男子学生が板に着いた女子制服を着こなす彼方と、のほほんと毎日を過ごしていて守ってあげたくなるような女の子第一位のみはて。
二人の見た目は容姿だけ見れば全く同じもの、体格も大きく違うわけじゃなく区別が難しい。
イメージは、みはての方が彼方よりとっかかりやすそうに見えるけど意外と男子との接点はあまりなく、どちらかと言えば一人でいることが多い。
彼方は、ほらあれだ。
周りの環境など気にせず独自の感性で伸び伸びと生きている。
授業ではあまり使うことのないA4のノートに向かうみはてに彼方が近づく。
「何やってんの、みはて? 完全犯罪でも考えてるのか」
そうそう、彼方は妹に対して言葉が優しくなる。はたから見れば長年の姉妹(?)間の会話のようにも取れる。
破天荒な彼方の言葉はこの際スルーしておこう。
「かなちゃんはいっつも物騒なことを言うよね。女の子の格好をしているなら責任もって中身もそうならなきゃ、かなちゃんに期待している男の子たちがかわいそうだよ」
誰もそんなことに期待していない。いや、こいつが男で、女やってることさえ知らなければ幸せなのか? 少なくとも俺は幸せになれそうにないけどな。
「それで、何やってるん。私も教えてほしいわぁ」
「――へただね。なにそれ、関西弁? それとも狂った?」
ああ、そうだそうだ。みはては思ったことをそのまま口にするし、嘘もつかない。その矛先を向けられた数多くの純情な男どもが玉砕されているところを何度か見かけたことがある。
モテるけど男友達が極端に少ないのは、そこなのかもしれない。
「……いうな。この場で死んでしまいそうです、すみませんでしたって気分になる」
「うふふ。かわいいなぁ~、かなちゃんはもう~」
視線をはずしてみる。
「それで、みはては何してるんだ?」
「私がかいてるものを見てみる? 見ればすぐにわかると思うよ」
彼方が覗きこんで、みはてがそれを上から見ている。
見方によってはアレな体勢になるスカートが短めの男……。
「分かんないけど?」
浅くため息をつき、耳打ちをする。
納得、と言う顔になって二人はどこかへ立ち去っていった。
結局、何をしていたのか俺は知らない。
知らない方がきっと幸せ――そうゆう双子だ。
***
過去よりもまず先を見ていこう。
積極的で前向きな生徒のいる学校の生徒たちは今日も元気だ。
住む世界はみな同じ、生きる形は多種多様。
こうしていることはごくごく自然なこと。
仲間が増えればできることや、世界は無限大に広がっていくもの。
その身に秘める夢は計り知れないのだから。