45 わたくしの決意
わたくしが強くなれないことは、もうずっと前から分かっていたことだ。わたくしはこれ以上強くなれない。伸びなくなった身長に、つかなくなった筋肉。剣術も体術も弓術も、最近は一向に上手くならない。
見捨てられて当然なのに、先生たちは未だにわたくしがもっと強くなると信じて疑わない。今までは他の子供たちよりも高い身長や、多い筋肉、優れた視力のみに頼った戦闘をしていたのだから、当然の結果だ。わたくしは他の子供たちよりも優秀。だから、大人になっても優秀。そんな思考の中に置かれているから、成長期が止まってしまったわたくしのことを、未だに先生方は期待して見守ってくれている。
期待が重たい。
期待が辛い。
期待がしんどい。
どんなに心の中に言葉を並べても、そんな言葉は口の中には出すことが許されない。けれど、お義母さまは気がついているのだろう。だから、お義母さまはわたくしに期待するかのような言葉を並べない。
「………私が見てあげるからには、今の2倍強くしてあげるわ。けれど、ライアンの2分の1くらいだけれどね」
「………じゃあ、4倍強くなってみせるわ。天下のローズバード筆頭公爵家の本家筋のわたくしが、義弟如きに負けるなんて許されないもの」
わたくしに対して、初めて期待しているというような言葉を並べるお義母さまに、わたくしは勝気に笑ってみせる。ライアンをお迎えに行くのならば、ライアンよりも圧倒的に強くなっていなくてはならない。
わたくし、これでも負けず嫌いだもの。
彼よりも圧倒的に強くなって、しっかりとお迎えに行かなくちゃ、気が済まないわ。
「それじゃあ、よろしくお願いするわね、お義母さま。わたくし、午前中・午後の訓練で、今よりももっともっと強くなってくるから、覚悟しておいてくださいまし」
「えぇ、期待しているわ。私の可愛い可愛い娘、ディア」
「うふふっ、びっくりさせてあげるんだから」
少しおどけて肩をすくめると、お義母さまはふんわりと微笑んだ。絶対強者の自信に満ちた瞳。わたくしもいずれは、あのような瞳をすることができるようになる日が来るのだろうか。残念ながら、今のわたくしでは、“強者”の“きょ”の字さえも出てきていないのが現状だが。
わたくしの目標は、お父さまにお義母さま、そしてメアリーになりそうね。
ライアンはわたくしよりもずっと強いけれど、癪だから、絶対に入れてあげない。
▫︎◇▫︎
午後、やっとお義母さまと一緒に訓練をする時間がやってきた。午前中と昼過ぎの訓練で、病み上がりということもあり、もうだいぶくたくただが、贅沢も言っていられない。あの、お義母さまと訓練できるのだ。両手を上げて喜ぶべきことだろう。
わたくしは魔法で炎のナイフを作り出すと、お義母さまに向けて構える。
「………ディア、普通のナイフを握りなさい。魔法を使わない戦闘にも慣れておきなさい」
「分かったわ」
すっと魔法を解除して手近にあったナイフを構えると、わたくしはなんの躊躇いもなく身体をふわっと持ち上げるかのように加速させる。猫っ毛の赤髪が風に揺れて、炎のような残像を残す。
「はあッ!!」
ーーーキイイイィィィン!!
歯が滑る音とともに、体が滑らされてしまい、わたくしは軽く遠くに飛ばされてしまう。
「チッ、」
躊躇いなく舌打ちをして、もう1度今度は後ろから斬りかかると、お義母さまはクルンと回転をしてキックを繰り出してくる。避けることもできなくて、『かはっ!!』という空気を吐き出す音を出しながら、わたくしの身体は宙に弧を描きながら吹き飛んでいく。いくら平均体重がないとは言えども、ここまで軽々と吹き飛ばされるわけがない。わたくしはくちびるを噛み締めながら、お義母さまの動きをじっと見つめる。
1歩踏み出すだけでも、圧倒的な強者の気配が染み出しているお義母さまは、穏やかな微笑みを決して崩さない。それなのにも関わらず、気配は剣呑でいて残忍なのだから、本能的な恐怖はどんどんどんどん煽られてしまう。
「………弱い、遅い、鈍い。
それがあなたの本気?
嘘でしょう。
全力で切り掛かってきなさい、ディア。敵は、相手の動きが鈍いからといって放っておいてはくれないわ」
ーーーシャンっ、
軽く向けられたナイフの剣先が、わたくしの身体を縛り付ける。
動けない。
たったそれだけのことが屈辱的で、許せなくて、わたくしは殺気に満ちているであろう視線をお義母さまに向けた。
「ーーーそう。その目よ、ディア。強くありなさい。それが、その強さが、あなたをライアンのところに導いてくれるわ」
わたくしはお義母さまに向けて全速力で走った。
たった1撃のナイフを届けるために。




