43 わたくしはわかっていない
ぷんすぷんすとわたくしが怒ってみせると、メアリーは困ったように微笑んだ。お母さまが生きていらっしゃったら、こんな感じだったのだろうか。わたくしは呆然と彼女のことを見つめながら、抱っこをねだる。
「………クラウディアお嬢さま、落ち着いて聞いてくださいね」
涙を拭いたメアリーが、わたくしに言い聞かせるかのように話し始める。
「クラウディアお嬢さまのお勉強は、今年いっぱい禁止となりました。もちろん、学園へ行くこともです」
「………?」
意味が分からないと言うようにわたくしが首を傾げれば、メアリーが鎮痛な面持ちで言葉を紡ぎ続ける。
「そして、ライアンお坊っちゃまの居場所が分からなくなりました。奥さまの情報網を持ってしても、発見不可能になってしまったそうです。もう、………生きているのかすらも、分かりません」
何を言っているのか分かっているはずなのに、分かりたくない。そんな気持ちのせいで、わたくしは何が起こっているのかさっぱり内容を理解することができない。
「クラウディアお嬢さま、今は元気にならなくてはいけません。………何が起ころうとも、今は元気であることが重要なのです」
「?」
▫︎◇▫︎
それから数週間、わたくしはメアリーになされるがまま、お世話され続けた。その間、お父さまやお義母さま、その他色々な人がわたくしの元へ訪れてきた。王太子殿下に、ティアラローズさま、他にも天敵公爵令嬢や、比較的仲の良い伯爵令嬢、みんな今の魂の抜けてしまったわたくしを見てから、泣きながら帰っていった。けれど、こんなにもたくさんの人が来てくれているのに、わたくしの元に、肝心の彼は、彼だけは訪れてくれない。
「メアリー、………ライアンは?」
「クラウディアお嬢さま、ですからライアンお坊っちゃまは………」
「いつ来てくれるの………?」
こてんと首を傾げると、メアリーがぐっとくちびるを噛み締めた。泣きそうなのを堪えている彼女なんて、とても珍しい。
「早く元気になって下さい、クラウディアお嬢さま。元気になったら、ライアンお坊っちゃまを一緒に探しに行きましょう」
「さがす?」
わたくしは未だに夢うつつ。
世界のことを、今起こっていることを、何も理解できていなかった。
▫︎◇▫︎
1ヶ月後、流石に本調子に戻ってきたわたくしは、朝からお散歩をしていた。体調を崩す前の日課を復帰することにしたのだ。
「はあー!!」
息を吐き出せば真っ白に染まる銀世界。
時の流れとは早いもので、もう冬がやってきてしまっていた。
この時期になれば、もうわたくしは夢うつつから抜け出し、ライアンの身に起こったことをしっかりと理解していた。最初はとても取り乱したし、人知れず静かに泣いた。けれど、そうしていても何もならないと理解してからの、状況を理解してから数日後のわたくしの行動は、とても早かった。
『メアリー!わたくしのおズボンとブラウスを出しなさい!!訓練に復帰するわ!!』
昨日からではあるが、言うや否や、わたくしは体力を取り戻すために魔法、剣術、体術、弓術の訓練を再開した。お父さまはわたくしに『お勉強を今年いっぱい禁止』と命じただけで、訓練は禁止していなかったからだ。最初は渋面を作って許して下さらなかったお父さまも、わたくしが命じられたとおりお勉強はしないからと満面の笑みを浮かべると、すぐに引いてくれた。
わたくしの笑みは、そんなに怖いのかしら?
「………今日は1時間後に、1時間ランニング、その後に剣術のお稽古を2時間、お昼休憩30分を挟んだら、2時間弓のお稽古で、お着替えに10分休憩をとって、最後に2時間の魔法のお稽古。そうしたらあとは自由時間だから、2時間暗殺術のお稽古をお義母さまにつけてもらおうかしら?」
「良いわよ」
後ろからいきなり声がして、わたくしはびゃっと飛び上がった。
「ふぎゃっ!?」
「うふふっ、気配を消されたくらいで気取れなくなるようじゃダメよ?私の気配ぐらいならば、簡単に読んで見せなくっちゃ」
「………うぅー、精進するわ」
スパルタお義母さまからの言葉にしおしおと頷いたわたくしは、ぎゅっとワンピースの裾を握りしめた。
「どのくらいでわたくしは元の体力に戻れるかしら?」
「う~ん、ざっと見積もって、うちの愚息を迎えに行けるレベルまでと言ったら、早くて2ヶ月と言ったところかしら?春の始めあたりね」
わたくしはぎゅっと眉間の皺を深くした。
「もっと速く、ライアン探しにいけないかしら?」




