39 わたくしは夢うつつ
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Side. クラウディア
もこもことしたベッドに気だるくて重くて動かない身体を預けたわたくしは、今日も夢うつつの世界で周囲の状況を知ることとなる。もういい加減に、目を開けたいのに、重すぎる瞼はやっぱり閉じたまま開くことはない。
『………クラウディア、休めとは言ったがこんなに休んでいいとは言っていない………!!そろそろ目を覚ましてくれ、クラウディア………!!』
夢うつつのお父さまというのは、わたくしにとって甘美で過保護で、わたくしのことをとっても可愛がってくれていて、想像以上の存在となってしまっている。
こんなの、目覚めてしまえば現実を見て叩き落とされるだけだとわかっているのに、わたくしはその都合のいい夢を捨てきれなくて、今日も今日とてお父さまの紡ぐ、わたくしへの甘い言葉に耳を傾けてしまう。
『………ディア、いい加減に目を覚さなければ、お花が枯れてしまうわよ。あなたが気を失ってから、お花の元気がないの。早くお世話してあげてちょうだい』
お義母さまはいつもと変わらなくて、わたくしの求める『お母さま像』がお義母さまにピッタリと当てはまっていることが窺える。義母なのにすごいことだ。わたくしが求める全てに応えているだなんて、わたくしはちょっとだけ感激してしまう。お義母さまは気が利きすぎる人なような気もしていたけれど、本当に気が利きすぎていたようだ。
『………クラウディアお嬢さま、早く目覚めてくださらないと、私の生活から潤いと彩りが消えてしまいます。またぎゃーすぎゃーすと言って、一緒に戯れ合いましょう、クラウディアお嬢さま。お願いです。目覚めてください』
いつもに比べればとっても塩らしいメアリーだが、言葉は相変わらず辛辣だ。言っていることが、地味にひどい。わたくしはメアリーとぎゃーすぎゃーすと戯れている気は一切ないのだが、なんだか不思議なことだ。それに、ぽたぽたと冷たいものが腕に落ちてきている気がする。
メアリーが泣くなんてこと絶対にありえない気がするのに、わたくしはまるで彼女が泣くことを求めているかのようだ。妙にリアルな夢うつつは、まだ終わってくれない。
でも、それでいい。
だって、ここはとっても居心地がいいから。
身体はいくら辛くとも、心はお花畑にいるかのように鮮やかで、羽になったかのように軽い。
わたくしは正直に言って、ここから出たくないと思っていた。
夢ならば、目覚めないという選択肢など存在していないだろう
わたくしは怠惰で面倒くさがりな一面のわたくしをこらっ!と叱りながら、彼の声が聞こえる瞬間を待つ。
『………クラウディア、今日はクロエが大事にしていたものが物置の奥から出てきたんだ。掃除とはいいものだな。目が覚めたら、一緒に昔のものでも探してみよう。………だから、早く目覚めてくれ、クラウディア』
(ふふふっ、お父さまがお掃除って似合わなすぎるわ。もっとにあった趣味を見つけなくては、公爵家の名折れですわよ?)
弱々しいお父さまのお口から溢れた言葉が面白くてわたくしが笑っても、実際に声が出るということは起きず、わたくしはただただ心の中でおしゃべりし続けるということしかできない。
どんなに楽しいジョークを言っても、おふざけを言っても、真面目なことを言っても、わたくしの言葉が誰にも届くことはない。
人に話しを聞いてもらえないという経験は初めてに近くて、わたくしはちょっぴり寂しくなってしまう。
『………ディア、今日は大きな向日葵が立派に咲いたのよ。小さいものを1本切ってきたから、飾っておくわね。お花たちはみんな、あなたが目覚めて笑顔のお花を咲かせるのを待っているわ。もちろん、私もね』
今にも泣きそうなお母さまから紡がれる内容は、わたくしにとって魅力的なお話で、明るい黄色のお日さまのようなお日さまが見てみたい気分になる。
(あらまあ、わたくしをそんなに待っていても、何も始まらないわ。わたくしを待つのではなく、わたくしがいない状況で最高のものを作り出すというのが、素晴らしいこと。ちゃんと分かっていて?お義母さまのガーデニング技術は十分素晴らしいのだから、あとは自信を持つことが大事だわ。それに、わたくしのことをそんなにおだてても、なんにも出てこなくってよ)
けれど、素直ではないわたくしは、心の中でさえも、刺々しい口調でお義母さまを責めることしかできない。素直になれない自分にイライラとしながらも、わたくしは結局最後まで刺々しいことを言うことしかできなかった。
相変わらず、わたくしはダメな子だ。




