32 わたくしは身悶える
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Side. クラウディア
次の日、昨晩の晴れやかな気分はどこに行ってしまったのか、わたくしは自分のことが情けなくなってしまって、柄にもなくぎゅっとお布団に寝っ転がって上かけに丸まってうぐーっと情けない呻き声を上げていた。
ーーーコンコンコン、
「クラウディアお嬢さま、もうお散歩のお時間をとっくに過ぎていらっしゃいますよ。さっさと扉を開けてください。そうしなければ、魔法でこじ開けますよー」
どこから入手したのか知らないが、あらかた事象を知っているメアリーが実力行使をチラつかせて脅してくるのをイラッとしながら、わたくしは声を上げた。扉を壊されるなど、たまったものではない。
「………事情を知っているのならば引き下がりなさい。明日にはちゃんとしておくわ」
「無理ですね。お嬢さまは表向き普通に振る舞っても、心の奥底ではいつまでも執念深く、ねちっこく、ずるずると引きずって、そしてボロボロになってなお握り込み続けるタイプの人間ですから」
わたくしはカチンとしながら、にこっと笑った。メアリーに見せつけてあげられないのが正直に言って残念だ。わたくしの怒りに染まった笑顔を見れば、大抵の人間は簡単に引き下がってくれるから。
「………なあに?その赤ちゃんがお気に入りのタオルを手放せないかのような言いようは」
「事実です」
「そう、それじゃあわたくしは赤子だと言いたいわけね。いいわよ~、売られた喧嘩は買う主義だもの。徹底的に嫌がらせしてあげるわ。手始めに、あなたのお給金を半額にしてあげるわ」
わたくしはこれ見よがしに満面の笑みを浮かべて、ベッドからずるずると起き出した。もちろん、お布団の上掛けは頭に被ったままだ。真っ白なネグリジェがするりと脛の辺りに落ちてくるのを感じながら、わたくしはメアリーとお話ししやすいように扉の前に向かう。
「………お嬢さまは本当に嫌がらせの才能がありませんね」
「………………」
相変わらず尊大な態度しかとってこないメイドに、わたくしは恨めしい視線を扉越しに向けて魔力を全力で練るのだった。
メアリーから一瞬だけ思いっきり引き攣るような気配がして、ちょっとだけ、そう、ほんのちょっとだけ満足してしまったのは、わたくしだけの秘密だ。
「あらあら失礼だこと。わたくしも、やる時にはやれるよ。ちゃんと、あなたに嫌がらせをすることぐらい簡単にできるわ」
ふんっと胸を張ると、わたくしはメアリーには見えないと分かっていながらも、ニコッと笑って見せた。だが、メアリーははあーっと大きくため息をついて、先程わたくしが言った嫌がらせに対する返答を口にする。
「私はお給金がなくなったところで、痛くも痒くもありません。今までの貯蓄で裕に一生遊んで暮らすことができますし、もしお金がなかったとしても、お兄さまに頼めばどうにかなります。なんて言ったって、私、王女ですし」
「あらあらまあまあ、お兄さまに頼りっきりになるだなんて、恥ずかしくないの?」
わざとらしく意地悪に言っても、メアリーの声音には一切恥じた様子もなく、涼しい顔をしているであろう声音でまたもやため息をついた。本当に、尊大すぎる態度しか取れないというのが玉に瑕な侍女だ。お母さまはなぜこんなにも尊大な侍女をずっと側に置き続けていたのだろうか。わたくしには、さっぱりお母さまの意図がちっとも読めなくて、さっぱりわからなくて、こんがらがってきてしまう。
「恥ずかしくありませんよ。私の持っているものを使うということの、何が悪いというのですか?」
「………悪くはないわ。悪くは」
「なら、恥ずかしいことなどないではないですか」
………あぁ言えばこう言う。そんな侍女の姿に、わたくしが頭を抱えたのは言うまでもない。本当に、彼女は何様なのだろうか、あぁ、王女さまだったわね。わたくしはむうっと顔を歪める。わたくしが不機嫌を通り越して、この不遜な唯我独尊のなんでもできる、スーパーハイパーな専属侍女に呆れ返っているのは、もういつものことだ。
「あら、そう。でも、出生が王女たるあなたではなかったら、お給金なしだなんて、とーっても困ることでしょう?」
わたくしが胸を張って堂々と言うと、メアリーは頭を抱えてじとっとわたくしのことを見てきた気がした。多分、今度は彼女の方が頭を抱えたいとでも言いたげな表情をしているのだろう。わたくしの方が物申したいはずなのにも関わらず、何故か彼女のほうが物申したげな表情をしてしまっているであろうことが予測できるのが、不可解なことこの上ない。わたくしはこてんと首を傾げた。




