31 俺は追い出される
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Side. ライアン
ディアこと俺の婚約者クラウディアの不興を買って、猛スピードで走っている4頭立ての馬車から投げ出されるようにして強制的に手ひどく追い出された俺は、一瞬受け身も取らずに呆然としてしまった。おかげさまで、とてつもなく情けない格好でべしゃっと地面に這いつくばってしまった。なんともまあ最悪なことだ。
俺はゆっくりと起き上がって、そして自分の身体を見下ろした。なんと、俺はそんな落ち方をしてなお無傷だった。驚かずにはいられなくて、それでも俺は冷静なふうを装って周囲を見回した。そしてゆっくりと辺りを見渡す。
草むらだった。周囲は見事なまでにクッション性のある草が蔓延る草むらだった。
なんともまあ優しいことだ。適当なところで適当に投げたと思っていたのに、彼女は落とすところにまで気を使っていたらしい。
「あぁー、本当に敵わない………」
俺は呟くとゆっくりと緩慢な仕草で立ち上がる。ディアのおかげで身体は無傷にして、心がボロボロにされてしまった。自嘲の笑みをこぼした俺はゆっくりと思考を回転させて夏休みの予定を立て直す。
ディアは俺にこう言った。
『そう!100万年早いわ!!とっとと修行を積んで出直してきなさいっ!!ということで、《豪炎たる我が炎よ、我が敵を戒めとなりて拘束したまえ、『火焔』》!!』
『ふんっ!夏休みが終わるまで絶対に、帰ってきちゃダメなんだからね!!』
と。つまり、俺は夏休み中修行に修行、訓練に訓練を重ねて、美しく、神々しく、そしてなによりも慈悲深い聖女のような、愛しの婚約者クラウディアに、なんとしてでも相応しくならないといけないらしい。俺は自嘲の笑みを深めて頭をグシャっと掻いた。
「………真っ黒に染まった手を持つ俺に、どう相応しくなれというんだ………………」
拠り所のない声は、どこまでも静寂しか持ち合わせていない夜闇に吸い込まれて、そして星屑にすらなることなく消えていった。
虚しくなったとしても、俺は裏社会に生きる人間。表でいくらディアに相応しくなったとしても、俺が本当の意味でディアには相応しくなれる機会は、一生訪れないだろう。
悲しくなったとしても、俺は泣けなかった。
自分のために流す涙など、汗と泥と血に塗れた訓練で何処かに行ってしまっていた。




