30 わたくしは追い出す
プンスカと頬を膨らませていたら、ライアンがすくっと起き上がって、わたくしの頬を優しくするりと撫でた。わたくしは一瞬ドキッとしてしまい、ぷいっと視線を窓の外に映そうとするが、カーテンが締め切られていてお外の様子が全く見えない。わたくしはムウッと眉を寄せて困り果てた。
「ーーー俺はディアの婚約者だ。義弟ではない」
「………あなたはわたくしの可愛い可愛い義弟。それは何があろうとも変わらない事実よ」
わたくしはそれだけは譲れないとばかりに、ふるふると首を横に振った。事実、わたくしがライアンの義弟という立場を手放したくないというのもある。わたくしはぎゅっと手を握り込んで、ライアンを睨みつける。
「あなたはわたくしのとっても可愛い義弟よ」
ライアンは少しだけ目を見開いて、そして久しぶりに、というか本当に数回しか呼ばれたことない呼び方で、わたくしのことを恭しく呼びかけた。
「お姉さま、いや、………姉上かな?」
「ーーー………………、」
いつも彼はわたくしの名前に特別な響きを織り交ぜていた。けれど、ここまで顕著にそうしてはいなかった。だからだろうか、わたくしはものすごく動揺してしまった。なんともまあ屈辱的なことだ。わたくしはぎゅっと目を瞑って、ごんっごんっと馬車の壁に頭を打ち付けた。
「ライアンのくせに!ライアンのくせにぃ!!」
「あ、姉上………!?」
「ーーーわたくしの心を掻き乱すなんて、許さないんだからぁ!!」
ありったけの声で叫んで、そしてごつんっ!!と大きく額を馬車に打ち付けると、ライアンがオロオロとし始める。なんとなくそれが心地よくて、わたくしはぷくうぅーっと頬を膨らませたままちょっとだけご機嫌な気分になってしまう。そして、即刻嫌がらせを思いついて実行に移した。
「そう!100万年早いわ!!とっとと修行を積んで出直してきなさいっ!!ということで、《豪炎たる我が炎よ、我が敵を戒めとなりて拘束したまえ、『火焔』》!!」
わたくしはそう叫んで義弟にして、最低最悪?なことに何を血迷ったのか婚約者になったライアンを魔法で拘束し、わたくし自ら開け放った馬車の扉から魔法を操ってライアンを外に放り出してやった。
「でぃ、ディア!?」
「ふんっ!夏休みが終わるまで絶対に、帰ってきちゃダメなんだからね!!」




