28 期末テストの結果
そんな状況でズルがしたいと叫ぶのは、王女としていただけない。わたくしは、彼女にまた地獄のマナーレッスンを受けてもらうことを固く決意した。ライアンに頼んで、お薬をの材料もあらかじめ大量に用意してもらうことも忘れないわたくしは、にっこりとティアラローズさまに笑いかける。
「ティアラローズさま、地獄のマナーレッスンを受けるお心は固まったかしら?」
「へ?」
「うふふっ、またティアラローズさまと一緒にお泊まり会ができるなんて、わたくし嬉しいわ」
顎に手を当ててうふふっと微笑むと、ティアラローズさまは真っ青な顔をして回れ右をした。そんなティアラローズさまに向けて、わたくしはくるんと指を回した。
(《『火焔』》)
すると、熱くない炎が現れてティアラローズさまを縛める細い鎖となった。ティアラローズさまはふぎゃー!!と悲鳴を上げて、じたばたと鎖から逃げようとするが、決して逃げることはできまない。当たり前だ。わたくしの魔法は、火系の中でも最高位のものだ。逃れられるのはライアンぐらいのものだろう。
「お義母さまにもちゃんとお願いしなくちゃね」
▫︎◇▫︎
1週間後、屍と化したティアラローズが、期末テストでマナーの試験で赤点を回避したのは言うまでもなく、わたくしとライアンが全教科満点で同率1位を取ったのはいうまでもないことだ。
「あら、ティアラローズさまが3番なのね。意外だわ」
期末テストの順位表の前に立ったわたくしは、わたくしとライアンの下に名前を残しているティアラローズさまに驚いた。
「そうだな。というか、王女殿下はマナー以外全て満点だ。一切勉強せずにこれだけの点数が取れるとは、さすがとしか言いようがない」
「そうね。1週間マナー以外のお勉強をする暇なかったものね。というか、逆にどうやったらマナーがあれだけ身につかないのかが、綺麗さっぱり分からなかったわ」
わたくしはある意味感心しながら、順位の表を見つめ直す。
ティアラローズさまに1点負けて4位となった王太子殿下が、隣で順位表を見ながら泣きそうな顔になってしまっているのを見なかったことにしながら、わたくしはくるりと踵を返す。
「さあ、帰りましょう。ライアン」
▫︎◇▫︎
夏休み、それは1学期を努力した生徒にのみ与えられるご褒美長期休暇であり、夏の社交シーズンを運んでくる最悪の時期でもある。わたくしは公爵令嬢ということもあって、堅苦しい夜会やこれまた堅苦しいパーティーなどに参加しなくてはならない。由緒あるものばかりでつまらない夜会やパーティーは、正直にいって、わたくしにとっては要らなくて面倒くさい物事だ。
「クラウディア嬢、私に一夜の夢を与えてはいただけませんか?」
ほら、まただ。
浮名の名高い公爵令息が、わたくしに向けて深々と頭を下げている。わたくしは堂々と眉間に皺を寄せて、お揃いのお洋服を身につけているライアンの腕をキュッと引いた。婚約者になった彼は、わたくしの面倒臭いと思っている部分を、今期の夜会では全部お片付けしてくれている。
「我が婚約者を口説くとは、ローズバート筆頭公爵家たる我が家への宣戦布告か?ウキーナ公爵令息」
「………………」
「うふふふふっ、あまり火遊びが過ぎると、お兄さまに見限られるわよ、ウキーナ公爵令息。それと、わたくしはあなたに名前を呼ぶ許可をやったつもりはなくってよ。それでは、ご機嫌よう。いい夜をお過ごしくださいませ」
ライアンの腕にわざとらしく枝垂れかかりながら、わたくしはうざったいウキーナ公爵令息の前から立ち去る。
他人に比べると、圧倒的にたゆんとしているお胸への、ウキーナ公爵令息を筆頭とした大量の視線に反吐が出るのを必死に我慢して、わたくしはライアンに休憩室へと連れて行ってもらう。最近の夜会は気持ちが悪くて仕方がない。年齢不相応に身体が発達しているのは重々承知だが、あからさまに連れて出ようとされると、流石に気分が悪い。それに、男からの視線も、お父さまやライアン以外の全てが煩わしい。ライアンがずっと庇ってくれているのが唯一の救いと言っても、過言ではないレベルだ。
「………助かっているわ、ライアン。今日も悪いわね」
「気にするな。………だが、ウキーナ公爵令息を潰す許可をくれると助かる」
「………死なない程度にしてちょうだい。死なれると、目覚めが悪いわ」
これからボコられてしまうであろう自業自得なウキーナ公爵令息に、わたくしは心の中であっかんべーをした。




