25 礼儀作法について
わたくしの声に、ティアラローズさまは白目をむいて気を失ってしまった。なんと言うことだろうか、貴婦人たるもの、こんなことで気を失ってはいけないのに、最も簡単に気を失ってしまうとは、しっかりと教育し直す必要がありそうだ。
そもそも彼女がこうなってしまったのは、娘に甘い隣国の国王夫妻の責任だ。赤子の頃から天才気質で、お勉強に関する知識が生まれつき考えられないほどに飛び抜けているがゆえに、それに特化した育て方を行い、それ以外の分野を全て無視してしまったことが原因だ。彼女にはなんの責任もない………とは言えないが、甘やかされすぎるのも良くない。わたくしぐらいはビシバシしなければならないのだ。
彼女に必要なのは貴婦人としての品格に、淑女教育、そして美しい話術だ。ひとまず、今のような平民チックな喋り方は即刻矯正させなければならない。こう言うことは早めにしておくに限るのだ。善は急げというやつである。
「ディア、ティアラローズ殿下が目覚めたよ」
「あら、ありがとう、ライアン。今日は女子会を行うから、絶対にわたくしのお部屋へ来てはダメよ?もし、お約束を破ったら、即刻お父さまにご報告するわ」
「うげっ、」
どうやらお父さまには頭が上がらないライアンに、わたくしは美しい微笑みを浮かべて釘を刺す。彼の苦々しい表情に、わたくしはちょっと嬉しくなる。彼はわたくしがいじめようとして行うことには平然としているのにも関わらず、わたくしが普通にしようとすることにはとても苦々しい表情をすることが多いのだ。わたくしは、ちょっとだけ、そう、ちょーっとだけ、それがとても気に入らない。どうせなら、わたくしの嫌がらせで苦々しい表情をしてわたくしの勝ちだと認めてほしい。彼には常々、辛酸を舐めさせられてきているのだから。
わたくしはそっと溜め息をつくと、お義母さまとメアリーがいるわたくしの自室へと向かう。今日、2人にはわたくしと一緒に、ティアラローズさまの教育を行うようにお願いをしていたのだ。
お義母さまは暗部の人間を輩出する家系の人間とあって、どこへでも潜入できるように礼儀作法がそこんじょそこらの王族では叶わないレベルだし、メアリーは元王女マーガレットとして、誘拐後はずっとお母さまの侍女をしていたことから、考えられないレベルに礼儀作法は完璧だ。
わたくしは2人にビシバシ厳しくしごかれた過去を思い出して、思わず苦々しい表情をしてしまうが、そんな表情をしていてはまたしても扱かれてしまうと、頬を叩いて気合を入れ直した。多分、わたくしは今日2人にティアラローズさまと一緒に、思いっきり厳しくしごかれてしまうだろう。だがそれも愛の鞭だ。受け入れるというのが礼儀だろう。
ーーーコンコンコン、
「入ってきなさい」
「失礼するわ」
お義母さまのノックに対するお返事にお返事をして、わたくしが自室へと入ると、わたくしのお部屋にはぐずぐずと泣いているティアラローズさまがいらっしゃった。背中に定規が突っ込まれ、頭には本が5冊載っている。なんともまあ辛そうなことだ。
わたくしは明日の我が身だと思いながらも、着々と自分の背中に突っ込まれるティアラローズさまよりも軽く2倍近くは長い定規に、遠い目をした。この調子でいったら、頭の上の本は10冊だろうか。
ーーーずし………、
案の定、わたくしの頭にすごい重みが乗った。鏡の前にゆっくり歩いていくと、頭の上には………、にー、しー、ろー、はー、とー。はい。10冊乗った。
「お、重い………」
「あら、ディア、何か言ったかしら?」
「いえ………、なにも」
それから3時間、わたくしは、いいえ、わたくしたちはずっとお義母さまとメアリーに散々しごかれた。もう無理だというわたくしとティアラローズさまの言葉は全て無視され、ティアラローズさまが泣き喚きながら気が逸れるまで続けられた。
「ひっく、ひっく、いじゃいよー。ごわいよー」
「………赤子かしら?」
「じゅらいよー」
「ーーー何を言っているのか分からないわ。もっとはっきり喋りなさい」
2人になってベッドの中でモゾモゾと喋ると、お互いにくすくすと笑い合った。
「クラウディアさまでも、怒られたり、注意されたりするんですね」
「えぇ、当たり前じゃない。わたくしだって、ただの人間よ。怒られたり、叱られたり、失敗したりするのは当たり前。それでも、それを少なくするために努力を重ねているわ。だってわたくしは、筆頭公爵家、ローズバード公爵家の跡継ぎ娘だもの。お父さまのご期待に添えるようにしなくちゃいけないわ。わたくしは、そのために生きているのだから」
そう、わたくしはお父さまに認められるために努力をしている。




