24 変人だらけ
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数時間後、わたくしは学園へとライアンにエスコートされて登校していた。
ライアンは普通にご機嫌そうに歩いている。わたくしには彼の機嫌が良い理由がさっぱり分からなくて困惑してしまうが、理由を尋ねることは癪だからできない。わたくしは、大きく溜め息を吐きたいのを必死になって我慢して、そして彼にされるがままに動く。
「………ディア?どうかしたのか?」
「なんでもないわ。ただ、あの変な奴らしかいない教室へと向かうのが憂鬱なだけ」
「………そう、なのか………」
わたくしはほうっと溜め息を吐いた。
「えぇ、」
「あら?ミス・ローズバード、ひどいじゃないの。あたしが変人だなんて」
「ご機嫌よう、先生。わたくし、一言もあなたが変人だとは言っていませんわ。変人と言われたと思うのでしたら、あなたがご自分を変人だと思っている証拠ですわ」
「そ、そうーー」
にこっと笑って毒を吐いてしまったわたくしは、堂々と溜め息を吐きたいのを我慢して、教室へと向かう。教室には、あの“デスゲーム”とやらをやらかしてくれた教師がいる。わたくしがガラッと扉を開けると、教師はにへらと感情の読めない笑みを浮かべて机に突っ伏している。
本当に、得体がしれなくて不愉快だ。
「ご機嫌よう、スバル先生」
「おう、ゴキゲンヨー」
………怒っても良いかしら?なんというか、この教師と話していると1~10までイライラしてくるのよね………。この教師から3年間学び続けるって、わたくし最後までキレずにいられるかしら?自信のないわたくしはライアンと席につきながらぐうっと顔を歪める。
「おはよう、クラウディア嬢」
「………ご機嫌よう、王太子殿下。ティアラローズさま」
「おっはよー!!クラウディアさま!!」
「………挨拶はしっかりなさることね。第1印象は挨拶の出来栄えからくるわ。しっかりなさい」
ピシャリと言うと、ティアラローズさまの表情がぷくーっと歪む。愛らしい顔が台無しだが、不服そうなのも愛らしいのだから、それは彼女の良いところだろう。男ウケが良さそうで何よりだ。
「ティアラローズさま、もう1度挨拶をどうぞ」
「ご、ご機嫌よう?」
首をかしげる仕草は愛らしいですが、今はそんなこと求めていません。わたくしは厳しい表情を作ると、ぴっと彼女を指さした。
「もっとはっきり」
「うぐっ、は、恥ずい………」
うずくまった彼女にほとほと呆れて、わたくしは彼女のことを咎めるかの如く、ピシャリと自分の手に扇子を叩きつける。
ーーーぱしっ、
良い音が鳴った途端に、ティアラローズさまがビクッと立ち上がって麗しい笑みを浮かべる。なんとなく胡散臭くて、可愛げがない。ド下手な素人の演劇を見ている気分だ。わたくしははあーっと大げさに溜め息を吐いて、彼女へと視線を向ける。
「ご機嫌麗しゅう」
「ご、ご機嫌、う、麗しゅう?」
「………………」
なんと言う救いようのなさだろうか。わたくしは思わず額を押さえてうめき声を上げたい気分になってしまう。だが、貴族令嬢としての矜持をめいいっぱいに働かせて笑みを深めるにとどめた。
「ティアラローズさま、本日の放課後、わたくしのお家にお越しくださいませ。みっちりと挨拶を仕込んで差し上げるわ」
「ひえっ!」
情けのない悲鳴はマイナスポイントだ。
だが、ここで叱責してももっと縮み込んでしまうのが関の山だ。わたくしは一瞬考え込んでから、ふわっと優しい笑みを心がけて微笑む。
「そうね………、言うなればお泊まり会。ティアラローズさまは、わたくしと一緒にお泊まり会をしたくないの?」
「え!?お泊まり会!?女子会!?いく!!行きます!!今からレッツゴー!!」
「………わたくしは放課後と言ったはずよ。席につきなさい」
冷たくピシャリと言うと、ティアラローズさまが雨に濡れて縮んだトイプードルみたいに沈み込んだ。わたくしはそんな姿を困った顔で見下ろして、今夜は寝られなさそうだと、ぼーっと考え込むのであった。
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放課後、ティアラローズさまはわたくしの誘いに応じて、我が家へとやってきた。
「ようこそ、ティアラローズさま。今日は挨拶についてビシバシしごいていくから、覚悟なさいましね?」
にこっと貴婦人としての笑みを浮かべると、ティアラローズさまの笑みが凍りついた。そして、回れ右をして帰ろうとし始める。それもこれも、全てわたくしの想像の範囲内だ。わたくしがトントンと手を叩くと、わたくしの部下たちがささっと揃った動きでティアラローズさまを捕縛する。
「さあ、ティアラローズさま、楽しい楽しいレッスンのお時間よ」




