23 朝のお散歩
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Side. クラウディア
ーーーちゅんちゅんちゅん、
愛らしい小鳥の声に起こされたわたくしは、ぎゅーっと背伸びをして寝台から起き上がった。心地の良い音に伸びをすると、喉が少しだけ痛かった。
わたくしは昨日のこの世のものと思ってはいけない食べ物を思い出して苦々しい顔をして、次の瞬間にはぶんぶんと顔を振ってしたり顔を作ってみる。
「ふふふっ、今回こそ、ライアンをちゃーんと虐められたかしら?」
あぁ、でも、お腹を壊してしまっていないか心配だわ。胃薬と回復薬を調合したとしても、あれだけのものだったら、下手したらお腹を下して喉が枯れてしまっているかも。
そう思うと良心がズキンと痛んで、うぅーっと寝台の上でうずくまってしまう。
ーーーコンコンコン、
「お嬢さま、お散歩の時間ですよ」
「はあい、」
いつも通り適当な服を着て、お義母さまライアンと一緒にお散歩へと向かう。日常と化してしまったお散歩は味気ないけれど、それでも朝のお散歩は心も身体もリセットされる。
ライアンはいつも通りのすまし顔だ。あれだけの劇物を食べておいて、あれだけの平然とした態度をとっている義弟兼婚約者に、わたくしはもう呆れてしまう。これならばまだ、罵られて罵倒された方がマシだ。それか、どうやったらあんな激物が出来上がるのか問いただしてくれた方が、心も休まる。
「はあー、」
お散歩中に不意に漏らした溜め息に、お義母さまとライアンが立ち止まり、疾風のスピードでわたくしの方を見る。ひっく、とわたくしが頬を引き攣らせるのも無理がないくらいに、2人は無表情でわたくしの身体に触れて体調を確認してくる。この出来事は、過去にも数回あった出来事だ。初めてやられた時には、魔法をぶっ放して抵抗してお義母さまにお怪我をさせてしまったのはいい思い出だ。
「平熱だし、お熱はないわね………」
「怪我もありません」
「そうね、ならば心の問題かしら?ライアン、あなたの告白が重荷になっているのではなくて?」
「うぐっ、」
実の息子に厳しいお義母さまは、ライアンにガミガミと文句を言い始めた。なんというか、わたくしとライアンの立場が逆な気がするのは何故だろうか。
お義母さまは基本、ライアンにものすごく厳しい。
「ディア、ライアンが嫌なことをしてきたらすぐにいうのよ?私が徹底的にフルボッコにしておくから!!」
「………分かったわ。お気遣いありがとう」
わたくしはそうじゃないと言いたいのを必死に我慢して、にこっと笑った。今日はもう興醒めだ。わたくしはお散歩をやめて自室へと戻る。自室に戻ると、メアリーが黙々とわたくしのもこもこふわふわの髪を香油で落ち着かせ、くるくると縛り上げていく。安定した実力に惚れ惚れしていると、メアリーはキュッとリボンでわたくしの髪を複雑なハーフアップにまとめ上げてリボンんで飾り、わたくしをぱぱっと制服へと着替えさせた。毎度思うが、順番が逆ではないだろうか。わたくしは髪が崩れることを心配しながら、制服に大人しく着替えさせてもらう。面倒くさいことこの上ないが、一応着替えさせるというのも彼女のお仕事の1つだ。贅沢は言えないだろう。
「ーーー完成いたしました」
「そう、ありがとう。では、朝食へ行ってくるわ」
「行ってらっしゃいませ」
昨日のパン作り中に行った嫌がらせ、ライアンの朝食が全て苦手なものになるトリックがどうなるのか楽しみにしながら、わたくしはライアンのお部屋へと向かい、そして玉砕した。
「ディア、このぱんおいしいでふ、もぐもぐ、このスープも、存外甘くておいひい」
ライアンは、喋りながらパクパクと元嫌いなものたちを口の中に入れ、そしてごっくんと飲み込んだ。心なしか、目もキラキラと輝いている。なんというか、いじめ大作戦を失敗しても、心にダメージを受けなくなってしまっているわたくしがいることに、わたくしは呆然としてしまう。
「そ、そう………」
わたくしは今日もまたライアンのお部屋をちょっとでも汚すために、もぐもぐボロボロと強敵クロワッサンといちごタルトをパクパク食べる。途中で味に飽きてくるのが難点だが、それも飲み物やスープで誤魔化してしまう。そうすれば、この2つはいつまでも食べていられる。わたくしは黙々と作業をするように食事をし、今日もしっかりと掃除されたキレイピカピカなライアンのお部屋に、たくさんのパンクズを落とした。我ながらいい出来だ。
だが、そのパンクズがライアンによって拾われ、宝箱に仕舞われているという秘密を知らないまま、わたくしは平和に食事を行い続けるのだった。




