21 わたくしのクッキング
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Side. クラウディア
わたくしは厨房に到着すると、ドレスの袖をまくり、ふりふりの真っ白なエプロンを身につけた。ちなみに、真っ白なエプロンはライアンからのプレゼントとしてもらった。自分よりも女子力の高いライアンは、わたくしのために布地から選んで手縫いで仕上げてくれたらしい。エプロンには薔薇と菫が銀糸で刺繍されていて、丁寧な縫い目と相まってオーダーメイド品のようだ。いや、実際わたくしの身体に合わせて作っているのだから、オーダーメイドなのかしら?
「じゃあ、作るわよ!!」
わたくしは材料を適切な量に測り、そして順番通りに混ぜて型に突っ込んでいく。卵に牛乳に小麦粉、他にもパンには色々なものが使われていて、代用品なんかも本には記載されている。わたくしは干し葡萄をパン生地に練り込みながら、今回はうまく行きそうだとほくそ笑む。
だが、焼き上げた次の瞬間、パンがおかしなことになった。真っ黒になってボロボロと崩れ始めたのだ。そして、破片がスライムのようにぷるぷると震え始める。
「う、うげえええぇぇぇぇぇ………。な、何よ、これ!?」
わたくしの口から、情けのない悲鳴が上がってしまう。
「ディア、ーーーディアの手料理が食べられると聞いたんだが………、」
「………えぇ、食べられるわ。食べられるものなら食べてみなさいな」
わたくしはそういうと、泣くのを必死に我慢して厨房のお外に出た。どこが間違っていたのか、綺麗さっぱり分からない。材料も、材料の量も、作り方も、手順も、どれも間違っていないはずだ。間違いかけた時にはその都度メアリーが声をかけてくれたから、間違えようもない。
「あぁー………、わたくしはなんでこんなに上手にできないのかしら?」
ぎゅっとうずくまって悲鳴のような声をあげると、メアリーがぽんぽんとわたくし肩を叩いた。慰められているのに、貶されている気がするのは何故だろうか。わたくしは、はあーっと大きな溜め息をこぼして料理本を抱きしめた。
「クラウディアお嬢さま、さっさと帰ることをおすすめいたします。もう少しでおぼっちゃまの苦鳴が聞こえてくるでしょうから」
「………食べさせなかったらよかったかしら?」
「いいえ、喜びを全うさせてあげてください」
メアリーの言葉に、わたくしはもうどうしようもないくらいに眉を寄せた。
「………パンクズを持ってきたわ。メアリー、わたくしと一緒に食べてみましょう」
「………………はい」
パンクズをぽいっと食べると、うぐうううぅぅぅーっとえげつない味がお口の中に広がって、ごっくんと飲み込むと、喉が焼けるようにひりついた。胃にえげつない痛みが広がってあまりの痛みにうずくまってしまう。
「うあ、あ、………、」
「………………、」
「うえ、あ、う、あ、」
えずいていると、涙目で喉元を押さえているメアリーが背中をさすってくれた。
「と、トイレ………」
うめく言うと、メアリーがわたくしのことを担いでトイレへと連れて行った。そして、吐き戻してなお痛む喉を抑えて、わたくしは調薬室へと向かった。胃薬と回復薬を調合するためだ。このままでは、わたくしの人間の食べ物とは到底思えないお料理によって、わたくしとメアリー、ライアンが死亡してしまうわ。
わたくしはぱぱっと手早く調合すると、一気に滑っとした液体を口の中に流し込んだ。正直に言ってあまり美味しいものではないが、お薬だから仕方がない。わたくし特製のお薬は非売品・特別用にしなければいけないほどに効き目が良すぎる。よって、わたくしは何かあるたびに、必要な量のお薬を、必要になるたびに調合するようにしているのだ。
「メアリー、これを飲むのと、ライアンのところに持っていくように。胃薬と回復薬を混ぜ合わせたものよ。この胃荒れが多分少しは治るわ」
「………分かりました」
躊躇いなくわたくしの作ったお薬をお口の中に流し込んだメアリーは、相変わらず美しい出立ちでライアンがいるであろう厨房へと向かった。これでちょっとでもライアンのお腹の調子がマシになればいい。わたくしはそう願いながら、お薬のせいで起こってしまった眠気に争わず、ゆっくりと瞼を落とした。ゆりかごのような陽だまりの中での睡眠は心地よくて、わたくしは自室に戻らず、調合室で意識を落としてもらった。
あぁ、後でメアリーに怒られてしまうわね………。
意識が落ちる寸前に思ったのは、怒るとちょっとだけ怖い侍女に怒られてしまうという危惧だったが、そう思っても、わたくしは眠気に抗うことができなかった。




