17 ライアンは赤くなる
わたくしはすっとライアンに視線を向けて簡単なポーズをとってみる。
「どうかしら?」
ライアンは顔を真っ赤にして口をぱくぱくとし始めた。お子ちゃまな義弟くんには、ちょっと刺激の強いコーデだったかしら。わたくしはここでまた意地悪を思いついて、するりと艶めかしくスカートをふれてみた。途端にライアンの顔の赤さが急激に増す。
うふふっ、可愛い義弟だこと。
ぽたぽたぽた、
そう思いながらも、ガーターベルトをちらりと見えるように足を動かした次の瞬間、ライアンのお鼻から真っ赤な液体が溢れ出した。鼻血だ。
「ローズバード公爵令嬢、やめてあげなさい。まだ初心な可愛いらしい男の子には刺激が強すぎたみたいだから」
「そうですわね。………先生、ティッシュをご用意くださいませ」
「えぇ、もう渡していますわ」
言うや否や、ライアンの手にはティッシュペーパーが握らされていた。ティッシュは次々と真っ赤に染まっていく。
「………ローズバード公爵令息の制服も用意しないといけないようね………」
「ご迷惑をおかけしますわ」
元凶たるわたくしは、悪びれもせずに先生に微笑む。先生は呆れ顔で溜め息をついたが、奥からライアン用の制服も出してきてくださった。
「ディア、………お願いだから、上を羽織ってくれ」
「上?」
「そうですわね。意地悪なお姉さまのお綺麗なお身体を隠す上着がないと、健全でピュアな男子の鼻血は止まりませんわよね」
先生は意地悪そうに言ってから、ロング丈のコート風の制服の上着を出してきた。この学園は、制服の改造が自由だ。よって、みんな結構制服をいじっているのだが………、保健室の制服は何故こうも全部改造制服しかないのだろうか。ロング丈のジャケットなんて普通の制服ではあり得ないはずだ。
「先生。………趣味が変わってるって言われませんか?」
「言われたことありませんわ。あぁ、でも、よくとってもいいアイデアを持っているって言われますわ」
「そ、そうですか」
わたくしは思いっきり溜め息をつきたいのを必死に我慢して、上着を羽織ってくるっとターンした。
「どうかしら?ライアン」
「………ディアは何を着ても可愛いよ」
「むうっ、似合ってないの」
「………最高に似合ってるから、これ以上俺を煽らないでくれる?」
よく分からないことを言ったライアンは、帰るまで一切口を聞いてくれなかった。
ちなみに、わたくしが着たこの不思議な改造制服は、これから数年間学園内で流行る改造制服となったのだった。
▫︎◇▫︎
帰宅後、わたくしは今盛大に悩み込んでいた。そう、ライアンとお義母さまへの『いじめ大作戦』の内容についてだ。
「ねえメアリー、何かいい案ないかしら?」
「………言っておきますけれど、クラウディアお嬢さまほどにこの世にいじめを苦手とする人は存在していないかと存じます」
「むうっ、それでもよ!!元王女の頭をキリッと働かせてちゃっちゃといい案出してちょうだい」
わたくしの侍女メアリーこと、元王女、マーガレット・クロスハートが王女だと分かったのは今から4年前の出来事だ。
▫︎◇▫︎
4年前のある日、わたくしは王城に出向いていた。
当時のわたくしは一応王太子殿下の筆頭婚約者候補で、その日は王太子殿下へご挨拶に行かなくてはならなかったのだ。
「ねえメアリー、今日のあなたとっても変よ?どうしたの?」
「いえ、その………。とても、懐かしい気がするのです」
「懐かしい?」
王城に侍女として連れ込んだメアリーは、キョロキョロしながらしきりに首を傾げていた。そして、えいっと言いながら唐突に壁を押したのだ。
がこっ、
嫌な音と共に、わたくしは地下室に続く転移門を通じて地下室に転移した。明らかに、今彼女が押した壁の一部は王家のみが知る有事の時専用の隠し通路の脱出ボタンというやつだ。
わたくしの背中に嫌な汗がたらたら流れる。当然の流れだ。というか、何故メアリーが隠し通路の緊急脱出ボタンの位置を知っているのかというのも、ものすごく大きな謎だ。
だが、今はこの空間からの脱出が最優先事項だ。わたくしは、うーんと考え込んでいる諸悪の根源のメアリーを放って、きょろきょろと辺りを見回す。見た感じ見事に脱出経路が分からない。詰みというやつだ。
「メアリー、そのポンコツな頭を働かせてわたくしをお外に出しなさい」
「………分からないんです。お兄さまがいらっしゃれば分かると思うのですが………」
こてんと幼い仕草で首を傾げるメアリーが、わたくしは初めて憎いと思ってしまった。わたくし、ここを無事に出られたとして生きていられるのでしょうか。王家の隠し通路を知って生き残れるとは、到底思えないのだけれど………。見事なまでの万事急須ね。




