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16 わたくしは逃げる

 彼がいきなり立ち止まった。


「? さっさと歩きなさい」

「いや、その。………、ディアの身体の柔らかい感触がダイレクトに………」

「? ………ーーーひぎゃにゃっ!?」


 またもやというか、先程よりも圧倒的に潰れた胸の形に、わたくしは耳まで赤く染め上げて大きな悲鳴をあげてしまう。


「う、あ、や、い、………いやあああぁぁぁ!!」


 バコンっ!!


 彼の腕から思いっきり逃げ出して彼を殴ったわたくしは、保健室に向かって全力疾走した。ある程度鍛えているわたくしは、結構な距離を走っても息が上がることが決してない。

 保健室に着くと、医療に関わる部屋特有の強いお酒(アルコール)の匂いに頭がくらくらしてしまう。


「あら、どうしましたの?」


 !?

 いきなり後ろから話しかけられて少しだけびっくりしてしまう。


「制服が汚れてしまったので、教師からここで着替えるように申しつかりましたの」

「そうなのですわね。入っていらっしゃい。すぐに制服を用意いたしますわ」


 わたくしは保健の先生についてお部屋に入った。

 なんというか、よくあるロマン小説の定番の場面、走って逃げるヒロインの息が上がって息すら乱れていないかっこいいヒーローに捕まるという展開がないことにわたくしはちょっとだけ、何故かちょーっとだけガッカリしながらも、生徒のために用意されているソファーにゆっくりと腰を下ろした。


「………ライアンのばか」

「ん?どうしましたの?」

「なんでもございませんわ。それよりも、制服を借りることは可能そうですか?」

「問題ありませんわ。ただ………、そのご立派なものがきゅっと収まるブラウスがあるかどうかは微妙ですわね」


 先生の困ったような声と視線をうけて、わたくしは自分の身体を抱き締める。とりあえず、今必要なのは鼻水と涙のついていない清潔な制服だ。もしパツパツでも、それは背に腹に変えられないため、仕方がないだろう。


「もう帰宅だけだから、パツパツでも構いませんわ」

「分かりましたわ。これをどうぞ」


 明らかに胸元がきつそうだが、丈はぴったりそうなブラウスと、腰回りがゆるっゆるそうなスカートを受け取ったわたくしは、奥の更衣室に入った。


 結果から言うと、予測通り、胸元のボタンはぱっつんぱっつんで今にも弾け飛びそうなことになり、スカートはズルズルと滑り落ちてしまう、あられもない姿となった。


「あら、セクシー、じゃなくて、やっぱり大変なことになりましたわね………」

「でぃ、ディア!?」


 先生の隣に立っているいつのまにか保健室にやってきていたライアンが、素っ頓狂な悲鳴をあげる。公爵子息としてあるまじき姿に、わたくしは苦言を呈そうとするが、彼にバサッとジャケットを羽織らされてそれどころではなくなってしまった。いや、なんで自分の制服を着せるの!?


「せ、先生。新品ならば男ものでもいいので、とりあえず胸元がどうにかなるサイズのシャツを用意してください」

「そうね。これは………お色気が半端なくて、狼と共同のこの学園では絶対に表を歩かせちゃいけないコーデね。とーっても似合っているから勿体無いのだけれど………」

「ダメです!!」

「そうよねー」


 先生はそう言いながら、ダボっとしたとても大きなシャツと丈のすごく短い腰回りだけ合いそうなスカートを手渡してきた。………これをわたくしに着ろと言うのではないわよね?


「ほら、さっさと着替えなさい。その格好は流石にやばいわ」

「………この服もやばいと思うのですが………」

「今のコーデよりはマシなはずよ!!」


 わたくしは渋々更衣室に入って制服を着直した。結果から言うと、なんだか不思議なコーデとなった。上はダボっとしているのに、下はシュッと身体のラインを出すような格好となり、妙に調和してしまっているのだ。変だけど変じゃない違和感に苛まれながらとりあえず、わたくしは更衣室の外に出た。スカートが短くて足がスースーする。


「あぁ、よかった。ローズバード公爵家のお嬢様だからちゃんとストッキングを履いているだろうって思って渡したのですけれど、もし履いていなかったら、大変なことになっていましたわ」

「………ガーターベルトが見えないギリギリのラインですけれどね」

「大丈夫よ。だって膝上と言っても、そんなに短くありませんもの。見苦しいどころか、スタイルの良さと相まって美しく見えますわ」

「………とっても複雑な気分ですわ」


 わたくしは普段ならば絶対に着ない長さのスカートを触りながら、思いっきり苦笑した。このくらいの丈のスカートを履くのは幼少期以来な気がする。貴族の娘ははしたないとされてロング丈のスカート以外の着用が認められていないから、本当にこういう機会以外には身につけられない。



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