11 新たな先生
「ぐらうじあじゃまー!!」
………カオスだ。
もう収拾がつかない。わたくしの腰に抱きつきながら大泣きするティアラローズさまに、ティアラローズさまに釣られて泣きじゃくる大量のクラスメイトに、ライアンに殺されると怯える王太子殿下、そして殺気を出しながら軽く王太子殿下を睨みつけるライアン。この場を収めるべき教師は狂ったように爆笑していて、この場を収集する気が全くない。
「はあー、」
わたくしの無駄に当たる感に八つ当たりしたい気持ちでいっぱいのわたくしは、頭の中で、うざったくて仕方がない笑い転げているスバル先生の瓶底眼鏡をかち割ってやる。ついでに、ぎゅーっと紐で結びあげて天井に吊るしておくが、現実の笑い声と混じって脳内スバル先生も爆笑し始めて、逆にイライラが募り始めてしまった。えぇ、見事に逆効果だった。
ガラガラっ、教室の扉が開け放たれ、ボンっ・キュっ・ボンっのナイスバディな女性の教師がハイヒールの踵の音を鳴らして入ってきた。
パンっ!
そして、スバル先生の頬を思いっきり叩いた。いい感じの音が鳴って、スバル先生の身体が宙を舞う。おぉ、すごいわ。
「こんのっ、大馬鹿者おおおぉぉぉー!!お前のくだらない貴族嫌いで、未来を背負ってるお蝶よ花よと育てられた坊ちゃんやお嬢ちゃんを危険に晒すんじゃねーよ!!こんのっ!ボケナスがあああぁぁぁー!!」
「そ、ソフィア」
「あぁん?穢れた口であたしの名前を呼ぶんじゃねーよ。このクズが」
………見事なオレンジ色の髪に真っ青な瞳を持った、お口に難ありな過激っぽい感じの女性の教師はソフィア先生というらしい。
「えっと、その、できればこのカオスな教室を宥めてほしいのですが」
わたくしは勇気を出してソフィア先生に話しかける。先生はくるっと振り向いて麗しい笑みを浮かべる。
「あら、ごめん遊ばせ。このクズな生ゴミよりも、可愛い生徒たちの心の安寧を取り戻す方が先だったわね。あたしを現実に戻してくれてありがとう。ミス・ローズバード」
「い、いえ」
ソフィア先生もキャラが濃そうな予感がして、わたくしはそっと溜め息をこぼす。だが、どんなにおかしくても教師は教師だ。この騒ぎぐらいならばどうにか治めてくれるだろう。
わたくしはこの時、次の瞬間には期待が裏切られるとも知らずに、安堵していたのだった。
「すー、はー、お貴族さまのお坊っちゃまにお嬢さま、うちの馬鹿助が大っ変失礼いたしましたっ!!代わりにこのバカノロ助の幼馴染にして、同時に同期のあたしが誠心誠意必死こいて謝らせてもらうわ。本っ当にこのドクズがごめんなさいっ!!」
生徒たちはまたもや暗部の人間が教師として学校にいることに動揺し、そして不安がり始めた。当然の反応だと、わたくしは思う。というか、不安がらないわたくしやライアンの方が異常なのだ。
「あたし、お勉強や運動やハニートラップは得意だから、この馬鹿助の代わりとお詫びに、あなたたちにしっかりと顔や身体を武器にした闘い方を教えることにするわ。本っ当に、このボケナスが迷惑をかけたみたいでごめんなさい!!」
………顔と身体を使った戦い方って何!?それ、貴族のご子息ご令嬢に必要な教養!?分かんない。はっきりと言って色々分かんない。この教室には常識人が1人もいない訳!?それとも、おかしな感性を持っているのはわたくしの方なの!?
「ディアは聞かなくていい」
「………ーーー?」
こんがらがってきて足元がおぼつかなくなってきた頃、ライアンがわたくしを後ろから抱き込んだ。あら、胸板がとても分厚いわね。見た目はとても細身なのに意外だわ。じゃなくて!!なんで彼はわたくしのお耳を塞いで視界をハンカチで遮せてるの!?何が起こってるかわからないじゃない!!
周囲のざわめきと不安いっぱいの気配の漂う教室の中で、わたくしは役立たずの学級委員に成り下がってしまった。いや、まだわたくしは先生に指名されてしまっただけで、学級委員に正式に決まったわけではなかったわね。だから責任に感じる必要は………あるわね。だってわたくしはクロスハート王国筆頭公爵家、ローズバード公爵家の一人娘、クラウディア・ローズバードですもの。この空間の生徒を守る義務と責務があるわ。
「俺の可愛いディア、」
「ひゃっ、」
婚約者の低い麗しい声が耳元で聴こえて、くすぐったさにわたくしは思わず身をすくめる。
「無駄な抵抗をするようなら、このまま気絶させる。だから、大人しくしていろよ」
「っ、」
「いい子だ」
わたくしは声音から伝わってくるライアンの本気度にぐっとくちびるを噛み締めた。どうやらわたくしは、この教室で情けのないことに役立たずと成り下がってしまったらしい。




