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10 わたくしは怒っている

「じゃあ次の進言に行くわね。ティアラローズさま、ハンカチは何処にあるのかしら?」

「え、えーっとー、そのー、お、お家?」


 わたくしの背中には今炎の竜巻が吹き荒れて雷が鳴り響いている気がする。いや、普通に考えて当たり前だろう。何故王女ともあろう高貴なお方がハンカチすらも持っていないのだ。その前に、何故今もわたくしの制服ドレスのスカートでぐずぐず涙を拭いているのだ!!


「ティアラローズさま?ハンカチ・ティッシュをポケットに常備するというのは人間として当たり前だと、わたくしそう思っているの。ティアラローズさま、あなたさまは違うかしら?」

「………クラウディアさまが、衛生チェックカードを配る保健室の先生に見える………」


 ティアラローズさまはわたくしの質問に答えず、変なことを口走っている。怒っているというか、進言しているわたくしの目の前で現実逃避とはいい度胸ね。


「ティアラローズさま?聞いていらっしゃるの?」

「あ、ふぁい!!」

「うふふっ、よかったわー。もう1度同じ内容で叱るというか、叱る内容を追加せずに済んで」


 なおも『うふふふふーっ、』と笑っていると、ティアラローズさまが『ひいぃっ、』と情けのない悲鳴をあげる。せっかく人が進言してあげているのに、なんていう悲鳴をあげるのだ。失礼にも程がある。


「じゃあ、次の進言をするわね?」

「………………」


 ティアラローズさまの無言を肯定と受け取ったわたくしは、満面の微笑みをもってして話を続ける。


「ティアラローズさま、あなた今どこで鼻水と涙を拭いているのかしら?」

「ふぇ?」


 あ、これ気づいていないわね?

 わたくしは怒鳴りそうになるのを青筋を立てたまま笑顔で耐え抜き、ティアラローズさまに向けてハンカチを差し出す。水色のハンカチは新しくおろしたものだが、もう使えなくなってしまいそうだ。どうせなら、刺繍の練習用で使ったぐちゃぐちゃハンカチを持ってくるのだった。


「あ、ありがどうございまずっ、」


 鼻水をわたくしのハンカチでちーんとかんだティアラローズさまは、そのハンカチで顔の涙を拭く。………普通順番が逆じゃないかしら?鼻水ハンカチで顔って普通拭きたくないわよね?


「落ち着いたかしら?」

「は、はい」

「じゃあ、もう1度聞くわね。ハンカチを渡されるまで、あなたはどこで鼻水と涙を拭いていたのかしら?」

「………………………」


 ティアラローズさまがわたくしの制服ドレスのスカートを見て、そしてすうっとスカートから視線を見事なまでに綺麗に外した。………あなた、今がっつりとわたくしの惨状と化しているスカートを見たわよね?


「ティアラローズさま?」

「ご、ごごごっ、ごめんなさーい!!」


 慌てたティアラローズさまは、自分の鼻水と涙でぐっじゅぐじゅになったわたくしのハンカチで、わたくしの制服ドレスのスカートを拭い始めた。当然ながら、スカートはグジュグジュハンカチのせいで惨状が悪化する。


「あわわっ、ショーン、私、どうしよう!?神々しいクラウディアさまのドレス汚しちゃったよー!!」


 わんわんとまたもや泣き始めたティアラローズさまは、王太子殿下に向けて助けを求める。


「………はあー、ティアラローズ!!君は問題を起こさないという簡単なことすらできないのか!?」

「ひいぃっ、」

「悲鳴をあげている場合か!?というか!そのぐずぐず顔でまたクラウディアに抱き付いたら、まーたスカートの惨状が悪化するだろうが!!」

「あうぅー、」


 幼子のように泣きじゃくるティアラローズさまは、今はわたくしの腰に抱きついている。お陰様で、下半身だけだった惨状が上半身にまで及び初めてしまっている。あぁ、最悪だ。


「ティアラローズ!クラウディアから離れろ!!私がライアンに殺される!!」


 うちの義弟はとってもいい子だ。多少、否、相当歪んでいるが、王太子殿下を殺すほどには歪んでいない。………はずだ。わたくしは今日いきなりずっと気がついていなかった恋心を告白されてしまったくらいには彼のことを理解していなくて、ライアンの本性をあまり分かっていないかもしれないが、ここ数年彼を義弟としていじめ抜いてきたのだ。分別がある性格をしていることくらいはちゃんと理解している。


「恐れながら王太子殿下、俺に対して失礼なことを言わないでいただきたいですね。俺にはあなたを決して殺せませんよ。だって仕えるべき『王太子殿下』ですから」

「………つまり廃嫡されれば殺すと?」

「お戯れを。優秀な王太子殿下が廃嫡されるわけないじゃないですか」


 ………わたくし、彼の評価を間違っていたかしら。多分、もしかして、もしかしなくとも、王太子殿下がもしも廃嫡されれば、彼は王太子殿下に刃を向けてしまうということよね?

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