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9 試験終了

 わたくしはそっと息をついて、燃え盛っている教室に眉を寄せた。自分でやっておいてなんだが、この教室は流石にやばい気がする。


「ライアン、………教室の火を消してちょうだい」

「………………分かったよ。俺も納得したから、ちゃんと魔法を排除するよ」


 先生の腕に張り付いている氷の蔦を解放したライアンは、ついでにわたくしのせいで燃え盛っている床に氷魔法を放った。美しい魔法はわたくしの炎をいとも簡単に飲み込んでいく。爽快的な風景に息を吐くと、後ろからこちらを覗いているたくさんの生徒の視線に気がついた。


「みなさま、怯えなくても大丈夫ですよ。彼は………、………わたくしたちを試しただけですから」

「おっ!?意外じゃん!!ちゃんと気づける生徒がいて俺は嬉しいぞー!王家を守ることこそが平民やら貴族やらの務めだ。今のデスゲームは、ここで命を張って前に出てたやつが合格。守れなかったやつが不合格っていう簡単な試験だ。分かったか?」

『………』


 生徒たちは皆涙目で教師を睨みつけた。当然だろう。正直に言ってわたくしもとても怖かったし、これがクラス最初の試験だとか冗談じゃないと思っている。ライアンに至ってはものすごい殺気を放っている。


「おいおい、そんなに怒んなよ。ローズバードの坊主よー。そんなに大事な姉ちゃんが傷つきかけたことが嫌だったのか?まあ、大事な女が傷つけられかけて怒らないっつーのは異常かー!にゃははははっ!!」

「殺っ、むぐっ、」


 不穏な単語を呟こうとした義弟の口をいち早く塞いだわたくしは、ライアンはずるずると引きずって元の席に戻っていった。

 先生からだいぶ離れた席に着席したところで、わたくしはライアンの口から手を離す。


「ぷはっ、………ディア。なんで止めるんだ」

「何でもクソもへったくれもないわ。教師相手に、しかも王家からの斡旋された教師を相手に殺すという発言はいただけないわ。ローズバードの家名に泥を塗る真似は許さないとわたくしは常々言っているはずよ」

「………俺は家名よりもディアが大事だ」


 ライアンが甘えるようにわたくしに擦り寄ってくる。が、わたくしは彼の身体をわたくしからベリッと剥がして、彼のことを睨みつける。


「わたくしはわたくしの命よりも、長きにわたり受け継がれている、ローズバード家の由緒正しき家名の方が大事よ。分かったのならば、わたくしの大事なものをあなたが守りなさい」


 ライアンはぐっとくちびるを噛み締めて泣きそうな顔で破顔する。けれど、彼が笑ったことに気がついたのはわたくしくらいだろう。だって、彼の表情はとても分かりにくい。


「ディアの大事なものを俺も守って良いの?」


 苦しさと悔しさの混ざった声には、苦々しさが漏れ出ている。こんなに簡単に感情を漏らすとは、公爵家の子息失格ね。


「………そう言っているわ」

「じゃあ、ディアの背中を俺にちょーだい」

「さあ?あなた次第ね。大事なものを全部守れるかは、あなた次第よ。まずは、家名を守ることを最優先になさい」

「嫌だよ。そんなの」

「じゃあ、背中はあげないわ」


 わたくしはにししっと笑う。わたくしにとって、()()()()家名の方が大事。だから、わたくしの最も守るたいものを守るという彼は、ローズバード公爵家を守ってもらわないと困るのだ。


「………ディアは意地悪だ」

「そうね。わたくしは意地悪でいじめっ子なの。知ってるでしょう?義弟くん」


 ライアンは苦々しい表情をしてそっぽを向く。すると、背中に軽い衝撃が走った。


「ごわがっだよー!!」


 ………鼻水ジュルジュル涙ベトベト王女っていうのは、なんと滑稽なのでしょうね。庇護欲をそそる可愛いお顔立ちなのだから、もっと愛らしくしんみりと泣けばいいものを………。


「ティアラローズさま、進言するわね」

「?」


 ………今、わたくしの制服ドレスの裾で鼻水を拭かなかったかしら?


「はあー、ティアラローズさま」

「は、ふぁい!!」

「まず初めに、公の場で泣いてはいけないわ。王女たるもの、人前では常に凛とした態度でいること。これは、貴族でいる限りずーっと必要なことよ。自分は降格されるだろうからと甘く見てはダメ。常に凛とするように、気を張っていなさい」

「………」


 すっと目線を外して逃げようとするティアラローズさまの顎をくいっとわたくしの方に向け、わたくしはにーっこりと微笑む。ティアラローズさまが数分前に抱きついてきた瞬間から今まで、楽に10個以上をも上回る進言しなければならないことがある。わたくしはティアラローズさまのお守り役兼、教育係なのだ。徹底的に根性を叩き直す必要があるゆえ、一切の手抜きはなしだ。

 わたくしはわたくしに怒られる未来に恐れて震えているティアラローズさまの顎ひ人差し指を添えながら、どれから進言しようかと頭を回転させた。



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