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35 お母さまとの別れは日常への道

『あら、もう時間みたい!!じゃあ一生さようなら!!天国で会いましょう!!あ、そうそうあなたの霊力はもうないからねー!!』

「はいー!?」


 どうやらわたくしの霊力は、先程の僅かな時間でお母さまに奪われてしまったらしい。………ま、いっか。お母さまとこれ以上関わって、イメージを壊すよりはマシな気がする。


「じゃあ、わたくしが死んじゃうまでご機嫌よう。お母さま」

『えぇ、またね。わたくしの可愛いディア』


 そういうと、わたくしはライアンのお部屋、現世に送り込まれていた。ライアンはベッドで眠っている。


「………………やっぱりお母さまって不思議な人」


 わたくしの目にはもう精霊が写っていない。いつもわたくしの頭を叩いていたお馬鹿ちゃんがいないのは不思議な気分だ。まぁ、周りから見ればわたくしの変化など分からないだろう。だって、わたくしは“ヒトナラザルモノ”をいないものとして扱っていたから。

 20分くらいライアンのベッドサイドでぼーっとしていると、唐突にライアンのお部屋の扉が開いた。


「ディア!!」

「………いかがなさったの?お義母さま」

「お、お姉ちゃんがきて、えっとそれで、ディアのお母さまがお姉ちゃんで、お姉ちゃんがお母さまで?うん?分かんなくなっちゃった!!」


 どうやらお母さまはお義母さまの元にも訪れたようだ。今現在お母さまは、わたくしから奪った霊力で自由気ままに過ごしているらしい。


「知っているわ。お母さまはわたくしの元にも来たもの。あ、ライアン魔力を使いすぎて倒れちゃったから、あとお願いね。明日からお義母さまのご実家で体術というか、暗殺術の訓練を受けるのでしょう?しっかりと休ませてあげてね」


 わたくしはひらりと手を振ってライアンのお部屋を出た。


「お嬢さま!!なんで唐突に消えたのです!!」

「“ヒトナラザルモノ”」


 メアリーの悲鳴にぽつりと返す。すると、メアリーは目に見えて怯えた。彼女は“ヒトナラザルモノ”が大の苦手だ。これ以上は踏み込んでこないだろう。


「さあ、戻りましょう。第12の作戦も失敗しちゃったわ」

「どんな作戦ですか?」

「んー、魔法における無茶振り」

「あー、成る程。で?彼、何を成功させたのですか?」


 メアリーの問いかけに、わたくしは唇の前に人差し指を置きながら答える。


「《世界最高峰の魔法科学~禁術の世界にようこそ~》の解読と魔法の成功」


 メアリーは息を呑んで固まった。


「………わたくしはもう、要らない子ね」


 わたくしの声は誰にもとらえられずに消えていった。


▫︎◇▫︎


 次の日のお昼前、わたくしはライアンのお見送りのために玄関へと赴いていた。今日から彼は本格的な暗殺者としての能力を得るための訓練を受けるらしい。これが決まる前に、わたくしはもちろん反対した。公爵家の人間なのだから必要ないだろうって。けれども彼は、


『俺は守りたいものを守れるように強くなりたい。だから、俺は修行を受ける』


 そう覚悟の決まった目で言ってきたのだ。彼がこれ以上全てにおいて優秀になってしまったら、わたくしは公爵家の跡取りとしての資格を失ってしまう。けれど、彼はそんな簡単なこともおそらく分かっていない。


「じゃあ、行ってきます」

「ーーーいってらっしゃい」


 だから、本当はこんなこと言いたくない。だって不必要なことを学びに行かせるのはわたくしにとって危険だから。


「ねえ、ディア。いってらっしゃいのキスは?」

「? そんなものを送る必要があるの?」

「うん、あるよ」

「分かったわ」


 わたくしは人を見送ったことがない。だから、どうやってお見送りしたら良いのか分からない。ライアンは賢いから、彼の言うことならば正しいだろうと思い、わたくしは彼の頬にチュッとキスを落とした。

 次の瞬間、ライアンの顔が、というか耳まで真っ赤に染まった。


「!?」

「どうしたの?必要なのでしょう?」


 ライアンは口をぱくぱくさせた後、すっと横を向いて出発していった。


「ふふふっ、あはははは!!」

「? メアリー、わたくし何か間違ったかしら?」

「いいえ、ま、間違って………おりません」


 お義母さまの爆笑を不可思議に思ったわたくしは、メアリーに質問したが、メアリーも苦しげな表情をしている。わたくしはどこかで何かを間違ってしまっているらしい。


「………分からないわね。メアリー、正直に言いなさい」

「ぶふっ、無理です。私がお坊っちゃまに絞められます。お許しを」


 メアリーは爆笑している。真面目に聞いたことが、どうやらツボに入ってしまったらしい。わたくしは不機嫌に微笑んだまま眉を顰め、それからも週に1回のライアンのお出かけの時にはお見送りに頬にキスをするようになった。1回だけお父さまが来た時には、お父さまにぶんぶん身体を揺さぶられて正直に話すと、舌打ちをされた。わたくしはやっぱりどこか間違っているらしい。



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