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33 2つ目のプレゼント

「ライアン、言葉が足りないわ。ちゃんと情け無いことに言葉が出なかった挙句泣いてしまって、そして取られそうになって必死になっているって言いなさい」

「母上っ!!!!」


 ライアンの声に、わたくしはほっと息を吐いた。嫌で泣いたわけでは無いとわかれば十分だ。


「でぃ、ディア、ありがとう。とっても嬉しい。………よければだが、よければだが俺の袖口に付けてはくれないだろうか?」

「? いいよ」


 わたくしは赤い顔をしているライアンの側により、よく見るとわたくしのドレスと同じ生地の使われているベストの下に着ているシャツの袖口に不器用にカフスボタンを止めた。使い方は本の知識として知っていたが、使ったのは初めてということもあり、とっても苦戦してしまった。ライアンとお義母さまの可愛らしいものを見るかのような視線が痛いし、辛い。


「でき、た………」


 5分くらいの格闘の末、どうにかこうにかつけたカフスボタンはなんだか不恰好だ。


「………ごめん」

「いいや、嬉しいよ。ありがとう、ディア」

「ん」


 最近一気に身長が伸びてわたくしよりも身長が高くなったライアンが、わたくしの頭をぽんぽんと撫でた。だが、本当のいじめ大作戦を含むライアンのお誕生日はここからが本番だ。このいじめ大作戦はメアリーには教えていない。何故ならわたくしが怒られてしまうからだ。

 実は、わたくしはもう1つライアンにお誕生日プレゼントとしてわたくしのお下がりを渡そうと思っている。それは今メアリーが持っているが、今渡しておくべきだろう。


「あともう1つ。メアリー」

「はいはい、お嬢さま。少しお待ちを

 《冥々たる闇の守護神よ、我が異界の地から我が荷を取り出したまえ、『収納(ストレージ)』》」


 わたくしがメアリーに預けている理由はただ1つ、彼女が空間魔法を得意としているからだ。彼女に預けておけば、盗難防止になる。


「どうぞ」

「ありがとう、ディア。これは?」

「《世界最高峰の魔法科学~禁術の世界にようこそ~》という、見ての通り古い書物よ。

 わたくしはもう全部暗記できたから譲ってあげるわ。聞いての通り禁術の教本よ。とっても貴重で危険なものだから、取り扱い注意よ。わたくしの愛読書なの」


 そう言って手渡したのは、禁書に分類される超絶危険な魔法集だ。魔法言語が使われていてとっても難解で、読み切るのに数年、いや、数十年以上かかるのが普通の品物だ。かくいうわたくしも、1ヶ月かかってしまった。

「じゃあ、わたくしからの宿題。1ヶ月以内に全て理解して読み切って、1つでもいいから魔法を実現させてみて」


 これがわたくしが愛読書をライアンに譲ってまでしたかったいじめだ。

 題して、第12の作戦、『無茶振りをしてみよう!!』だ。このいじめに関しては結構な量のストックを蓄えている。夜な夜なベッドの中で悩み続けたのだから、自信もある。


「分かった。必ず成功させる」

「せいぜい頑張ることね」


 わたくしは真摯な瞳からすっと視線を逸らした。何故なら居心地が悪くなったからだ。だって、わたくしは絶対にできないことを言っているのだもの。彼は今まで最低限の教育しか受けていないのだから、わたくしが渡した本は魔法言語が難しすぎるのだ。

 できるはずがない。

 そう、絶対にできないはずだ。

 だから、大丈夫。

 わたくしはふぅっと息を吐き出してひらりとライアンの部屋から出た。顔が熱くて熱くて仕方がない。


「お嬢さま、いい加減素直になったらどうですか?」

「ーーー何を言っているのかしら、メアリー」


▫︎◇▫︎


 1ヶ月後、わたくしの想像と願いは見事にぶち壊されることとなった。


「ディア、来て来て!!俺、ちゃんとできるようになったんだ!ほら!!」

「分かったから、ちゃんと行くから。ちょっと待ってっ!!」

「あ、ごめん」


 息が切れ切れになっているわたくしを見たライアンは、慌てて歩くペースを戻してくれた。いつも冷静沈着な彼には珍しく、心が浮き足立ってしまっている。


「じゃあ、いくぞ!

 《全てを凍てつかせる氷の守護神よ、我願いを叶え、氷華に包まれし麗しの世界を作りたまえ、『(クリエイト)』》!!」


 彼の声に合わせて、魔法訓練場が氷の世界に包まれた。美しいキラキラとした氷柱の下がった華奢な氷の樹が現れ、たくさんの氷の薔薇と氷のすみれ、そして、模範的な形の美しい大粒の雪の結晶がちらちらと舞い散り、空にはありえないほどに鮮やかなオーロラが現れている。これはわたくしも使える魔法だ。確か教本の37ページから40ページまでに載っている。想像力に左右される魔法で、想像力が豊かなほど美しい幻想が浮かび上がる。つまり、わたくしよりもライアンの方が想像力豊かということだ。

 地味にムカつくし、癪に触る。

 わたくしは暫し、美しい空間を心ゆくまで楽しんだ。


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