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32 ドタバタしない穏やかな朝

▫︎◇▫︎


 1ヶ月後、わたくしは朝からライアンのために用意した誕生日プレゼントをぎゅっと抱きしめて、うずうずうろうろ忙しなく動き回っていた。


「お嬢さま、落ち着いてください。というか、もういじめは諦めたのですか?ここ1ヶ月、新しい案が思いついていないではありませんか」

「うぐっ、ことごとくかわされた挙句、負け戦を喰らってしまっただけかしら!!」


 そう、わたくしはここ1ヶ月それなりに頑張ったのだ。頑張ろうとしたのだ。紅茶の淹れ方を学ぶ過程でできた激まず茶を出したり(わたくしも一緒に飲んだ)、お菓子の作り方を学ぶ過程でできた歪だったり、激まず(甘いはずなのに辛い)だったり、そもそも苦くて形を留めていなかったり、………変な空気というか気体を吐き始めた生き物?みたいなものを一緒に食べたり、あとあと、えげつない真緑や真紫のぐつぐつしている料理を出したり、そこそこの回数と量のお料理関連の嫌がらせをした(お父さまにも出した)。それなのにも関わらず、お義母さまは、


『あら、これは駄目。そこそこ高い毒性を持っているから、耐性をつけないと食べてはダーメ。ほら、貸しなさい』


 と言って取り上げてわたくしの分も嬉しそうに食べた、というか、流し込んだ。ライアンは………、………………通常の味覚を持っていたこともあり、何度も何度も泡を吐いて気絶することとなった。時には何故か毒に苦しんで寝込んだ。毒性のあるものは一切料理に使っていないのだが、何が起きてこうなってしまったのだろうか。


「まあ、お嬢さまの激まず料理でもあの人たちにとっては懐かしくあり、普通であり、嬉しくあるのでしょう。結局やっぱり、お嬢さまにいじめは向いていないのですよ」

「………………」


 相変わらず辛辣なメアリーを睨んだ後、わたくしはそうっと立ち上がって鏡の前で身だしなみを確認した。今日はお義母さまの提案で8時まで朝お仕事が必要な人間を除く皆お部屋で過ごすことになったのだ。だから、今日はやっぱりいつも通り朝早くに目覚めたわたくしは時間を弄んでしまっている。


「ねえメアリー、やっぱり、」

「変ではありませんよ。お綺麗です」

「うぐっ、」


 今日はいつもと違うテイストのお洋服を身につけている。ちょっと深めの水色の可愛らしい幼い感じのデザインのお洋服だ。リボンやフリルがいっぱいついていて、ライアンがわたくしの誕生日にくれたネックレスに合うお洋服にしている。

 ネックレスは最近毎日つけているから、つけている方がナチュラルになってしまっている。


 カチ、カチ、カチカチ、カチカチカチ、カチカチカチカチ………………。


「なった!!」

「はい、では行きますか?」

「えぇ、」


 大きな振り子時計の前に張り付いてじっと下に付いている振り子の揺れる様子を眺めていたわたくしは、8時になった瞬間に顔を上げてメアリーに笑いかける。


 部屋に着くと、そこにはもうお義母さまもいらっしゃっていた。


「おはよう、ディア。それがライアンへのプレゼント?」

「えぇ、お義母さまは………」

「ふふふ、開けてからのお楽しみよ。あなたと同じで」

「むぅ、」


 わたくしはそう言いながらも、ライアンのお部屋に早く行きたいと思っていた。プレゼントをもらった時の彼の顔が早く見たくて仕方がないのだ。


「行きますよ」

「えぇ、お願い」


 コンコンコン!!


「ライアン、おはよう。クラウディアよ」

「………おはよう。入っていいよ」

「失礼するわ」


 気だるげな少しだけ女性に比べて低い声は、どんなに高価な楽器よりも圧倒的に美しくて、耳が勝手に彼の声を拾おうと躍起になる。


「お誕生日おめでとう、ライアン。これ、プレゼント」

「おはよう、ライアン。私からはこれを」


 ライアンは少しだけびっくりしたように目を瞬かせた後、嬉しそうにわたくしたちのプレゼントを受け取った。ワクワクと不安、相反するような感情によって、背中にじとりと嫌な汗が滲む。


 ガサゴソ、ガサガサ、ごそごそ、


「わあ!!」

「ど、どうかな?」


 出てきたのは、わたくしの瞳の色とライアンの髪の色をイメージして買った、バイカラーサファイアでできているカフスボタンだ。バイカラーサファイアはそこそこ希少価値が高いし、カフスボタンは雪の結晶と薔薇が折り重なるようなデザインにしていて,デザインだけ見れば、ネックレスと対になるようにしている。


「っ、ら、らいあん?」


 わたくしはびっくりそた。何故なら次の瞬間、ライアンの目からぽろりと1筋の涙がこぼれたのだ。


「や、ややや、やっぱり返して。ごめんなさい。嫌、だったわよね。わたくしなんかがごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


 思わず声が震えてしまう。


「え?」


 手を伸ばして返してもらおうとすると、ライアンが必死に取られまいと抵抗を始めたのだ。


「嫌!これはもう俺のだ!!俺のお宝を取らないでくれっ!!」

「ふぇ?」


 わたくしの口から令嬢らしからぬ声が漏れたのは不可抗力だ。

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