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31 マトモでないお義母さま

「………お母さまはわたくしの事をなんと言っていたのですか?」

「ずっと会いたいと、早く会いたいと言っていた。クロエはお前そっくりだ。特に微笑みは違う点が見つけられんくらいにな」

「そう、ですか………」


 わたくしはもう話すつもりはないと言わんばかりに立ち去ったお父さまに向けて、深々と頭を下げた。少しでも心を開いてわたくしにお話を聞かせてくれたことが嬉しくて仕方がなかった。そして、お母さまに似ていると言われたことに、純粋に泣きそうになってしまった。お誕生日には流石に泣きじゃくりたくない。そう思ったわたくしは、目を服の袖でごしごし擦って未だに珍行動をとっているお義母さまとライアンの方に向かった。


「ほぅ、なんて美しい刃。切れ味。この針に毒を垂らしたらどんなに………、じゅるり」


 聞いてはいけないことを聞いた気がした。お義母さまが代々王家の影を輩出する子爵家の出身であり、変人一族の超絶優秀な末娘であることは知っていた。だが、彼女はマトモな分類の人間だと思っていた。


「母上は武器さえ持たせなければ()()()な分類だよ。母上の実家のご家族はもっと酷いから」

「そ、そう………」


 心を読んで話しかけて来たライアンも十分気配がしなかった。


「あなたたち親子ってとっても変ね」

「褒め言葉として受け取っとく」

「ひねくれ者はモテないわよ」

「それは困るな。俺、好きな子いるし」


 わたくしはびっくりしてライアンをまじまじと見つめた。この無愛想で1人大好きな彼が好きな子が誰なのかちょっぴり気になったのだ。


「へえー、誰?」

「…………秘密」


 ライアンはわたくしの唇にちょこんと人差し指を乗せて優しげな表情を作った。最近彼は、稀に、本当に稀にわたくしとお義母さまだけが分かるくらいに、微妙に表情を崩すようになった。

 左胸がズキリと痛んだ。わたくしはなにが起こったのか分からず僅かに首を傾げる。どうやら不整脈のようだ。不整脈は持っていなかったはずだが、また新しい病を発病したのだろうか。犬さんのアレルギーといい色々面倒くさい。


「ディア?」

「………なんでもないわ」

「そっか」


 わたくしたちはお義母さまの方に向かう。さりげなくエスコートしてくれるライアンの手が妙に頼もしかった。おそらくこれはお義母さまが怖いからだ。

 ライアンの世界1綺麗なお手々に触れたからでは決してない。


「お義母さま、ご満足したかしら?」

「え、ふぎゃにゃっ!?」

「え、」

「え?」


 わたくしがお義母さまに声をかけると、お義母さまは飛び上がり、びっくりして声を漏らすと、お義母さまも呆然と声を漏らした。え?何が起こっているの?


「………あなたの侍女もだけれど、あなたも気配がしないわね。さっき気配消してたでしょ」

「流石ね。えぇ、ちょっと試そうと思って」


 わたくしは完璧主義だ。気配もある程度消せるように体術の訓練は受けている。それでも、


「それでもあなたたちには、足元にも及ばないわ。次元が違う」


 そう、メアリーに基礎を教わっているからこそ分かる。わたくしには絶対に、どんな手を使っても勝てないと。いいえ、魔法を使えば勝率もないこともないかもしれない。でも、それは相打ち覚悟だ。結局わたくしには、敵わない。


「………なぜ試したの?」

「だって、あなたはわたくしの前から消える気がないでしょう?だから、最低限試しておこうと思って」

「そう、それで?私は合格?」

「さあ?どうだろうね」


 わたくしは答えない。けれど、それが答えだ。試験は合格、けれども一緒にいることは許さない。だってわたくしは『疫病神』だから。


「………お部屋に戻りましょう。もう十分眺めたでしょう?」

「えぇ、夢のような空間だったわ。とっても素敵な武器がいっぱいで」

「俺も美しい魔道具がたくさん見られた。もう満足だ」


 わたくしはげんなりとした気分で息を吐いた。いわばここは、歴代の公爵家のお宝室だ。確かに武器も魔道具もたっくさんある。歴代の公爵の趣味の不可思議なものもだ。でも、あくまで1番の代表の呼び方は肖像画室だ。肖・像・画・室!!彼らは何を見に来たのだろうか。あ、うん。お宝よね。だから合ってはいるわよね、合っては。


「はあー、」


 こうして、わたくしにとっては初めての、たくさんの人に祝われるお誕生日は疲労いっぱい、楽しさちょっと、嬉しさいっぱい、幸せさいっぱいと満足の行く過ごし方をすることができた。

 1ヶ月後に迫っているライアンのお誕生日に思いを馳せたわたくしは、次の日の朝に宝石商を呼び出して、高額の貯めに貯めていたお小遣いを大奮発して、そこそこの物を買ったのだった。


 カフスボタン、気に入ってくれるといいな。


 この時のわたくしは、この国において女性がカフスボタンを男性に送る意味を知らなかった。

 だから、後々このカフスボタンが決定打になるとは夢にも思っていなかったのだ。

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