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30 わたくしの望むプレゼント

「ディア、これは決定事項だ。喪服は禁止。希望者はお前のように地味な色彩の服を着ればいい。ただ、もう1度言うが、喪服は禁止だ」

「っ、わたくしにはお母さまを悼む心を持つことすら許さない。そうおっしゃりたいのですか?」


 お父さまの言葉に、わたくしは震える声を返した。身体もすっかり震えてしまっている。


「違う。………先程のエミリアの言葉で意見が変わった。今年度からは『クロエを悼む会』ではなく、『ディアを産んだクロエを感謝する会』にすることにする。やることは今までとさほど変わらん。クロエが好きだったものを食卓に並べ、クロエのことを思う。ただそこに、クロエが命を賭して産んだお前の成長をクロエに報告するというのが加わるだけだ。そして、そんな日に喪服なんて悲しいものは着られん。クロエは明るくて楽しいことを好んだからな。………俺がクロエに叱られる」


 初めてお父さまの口から聞くお母さまのお話は、侍女の言っていたお母さま像とさほど違いがなかった。明るくて楽しいことが大好き。お父さまをお尻に敷いて、常識外れのお父さまをよく叱っていたというものだ。もっと聞きたい。素直にそう思った。


「………………………1つ、誕生日プレゼントを要求しても?」

「ーーー内容による」


 こういう風にお母さまの命日に、お父さまとまともに会話が通じたのも初めてのことだ。


「………『わたくしを産んだお母さまを感謝する会』の内容に、お母さまとの思い出を語る。も追加していただけませんか?わたくしはあまりにも無知ですから」

「ーーーーー」


 お父さまの驚く気配を感じたが、わたくしは飄々とお茶を飲んだ。そのくらい、わたくしにとってこの言葉は重みのある言葉だった。


 怖い。


 わたくしはお父さまに拒否されるのが怖い。だって、わたくしには血に繋がった近しい家族はお父さましかいないから。叔母さまがいらっしゃるが、彼女は王妃だ。簡単に頼ってはいけないし、軽々しく関わってはいけない。お父さまの両親もお母さまの両親ももうこの世にはいないから、わたくしはお父さまを失えば、頼れる相手がいない。だから、わたくしはお父さまに嫌われるわけにはいけない。いいえ、言い訳ね。わたくしはお父さまのことが大好き。だから嫌われたくない。お父さまはわたくしの事を嫌っているし、わたくしも表では大っ嫌いと言っているが、本当は大好きなのだ。


 だから、わたくしはお父さまに嫌われたくない。


 永遠にも感じられる長い長い時間の静寂が訪れた。誰もが息を潜めてお父さまの声を待っている。わたくしは自分が失敗したことに気がついていた。お父さまをお尻に敷いているお義母さまがいることに胡座をかいて、絶対に言ってはいけない要求をした。当然の結末だ。


「ーーーーーいいだろう。………クロエについて話してやる」


 だから、わたくしは驚いた。お父さまの解答に。絶対に言わないと思っていた言葉がお父さまのお口から出てきたのだ。びっくりして当然だろう。わたくしはライアンにつけてもらったネックレスを握って微笑みを浮かべた。今日は本当に信じられないことばかりが起こる不可思議な日だ。夢ならば目覚めなければいいなと思う。だって信じられないほどに、舞い上がるほど幸せで、泣きたくなるほど嬉しいから。


「ありがとう存じます。お父さま」

「あぁ、………肖像画の部屋に行こう」


 お父さまは自分勝手だ。自分の事情だけで他人のことを全くもって考えてくれない。今日だって、わたくしたちに予定があったらどうするつもりだったのだろうか。多分、自分を優先させろと言って終了、もしくは拗ねてもうやってくれなくなるの2択だ。

 わたくしたちはお父さまに続いて肖像画室に向かった。この部屋には歴代の公爵家の人間とわたくしたち今代の公爵家の人間の肖像画が収められている。


「わあぁ………、あら?この鎧の鋳造、とっても丁寧なお仕事ね。あら、こっちの剣も。切れ味が良さそうだわぁ!!」

「ここは防虫、あれは防犯、これは色素保護、あっちは劣化保護、こっちは………映像?すごい、こんなにレベルの魔法陣がごろごろ転がっているなんて………!!」


 初めてこのお部屋に来たお義母さまとライアンのはしゃいだ声に、わたくしは目を細めた。本当にとっても楽しそうだ。ま、まあ、お義母さまとライアンの楽しみ方はちょーっとだけ間違っているが………。普通は絵を褒めるのよ。()()!!


「………すまなかった、ディア。これが俺なりの精一杯の誠意だ」


 隣に佇んでいたお父さまの言葉に、わたくしは目を見開いた。


「っ、いえ、………………」


 たくさん言いたいことがあったのにこれ以上何も言えなかった。頭の中が真っ白になってただただ嬉しかった。それもこれも全部あの天敵ライアンの母親、お義母さまのお陰だろう。今度お礼をしなくてはならないと思った。

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