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29 震える手

 ライアンはわたくしにネックレスを手渡され、恐る恐る震える手でネックレスを持ち、わたくしの前に立った。不愉快極まりないほどに震えているが、もはやわたくしは慈悲の微笑みを浮かべ微笑ましく眺めてしまっている。だって、本当に可愛らしいんだもの。羞恥に震えているのか真っ赤になったお耳もお顔も、とーっても愛らしいのだもの。


「ほら、はやく」


 だから意地悪をする。

 困った顔をもっと見たくて、ついつい意地悪を言ってしまう。あ、これってもしかしなくてもいじめ大作戦になるのでは?気づいた時にはもういじめ大作戦を決行しているとは、わたくしにいじめというのが根付いてきているのかもしれない。嬉しい限りだ。


 シャラン、


「っっっっっっっ、で、できた」

「ん、ありがとう」


 首に冷たいものが当たったと思ったら、ライアンは直ぐにわたくしにネックレスをつけた。彼は見た目通り繊細で手先が器用だ。大雑把なわたくしとは大違い。


「じゃあ、お散歩………は遅くなってしまったから、朝食にしましょう」


 わたくしはライアンの手を引いて歩いた。メイドに質問すれば、お義母さまの居場所はすぐに割り出せた。どうやらいまだにお父さまと揉めているらしい。()()お父さまと正面切って堂々としたまま平然と殺り合えるのは、ご立派?なお義母さまくらいだろう。

 お父さまの執務室からは怒鳴り声が飛び交っていた。お父さまの従者は頭を抱え、お義母さまの侍女はこの世の終わりのようなそんな表情をしている。あぁ、これ、わたくしは止めるのが正解かしら?


「………お父さま、お義母さま、朝食のお時間です。食事が冷める前に食べましょう」


 ドスの効いた満面の笑みでの言葉に、お父さまは目を見開き、お義母さまは怯えたようにびくりと身体を揺らした。うん、助けてもらったのにその態度は流石にないと思うな。わたくしも一応傷つくのよ?


「ディアの言う通り、今は一旦停戦。食事にしましょう。料理長に悪いですよ」

「そうね、行きましょう。ライアン」

「そうだな」


 妙に息ぴったりなわたくしたちは、食堂に向かって歩き始めた。家族初の全員での朝食だ。嫌な経験にならなければいいなと願いながら、わたくしはライアンと並んで歩みを進めた。

 初めての経験にむずむずとしたものを感じたのは、多分、おそらく、気のせいだ。


「あら、ディア早速付けてくれたの?」

「えぇ、デザインがとっても気に入ったから。お義母さまもライアンと一緒に選んでくださったの?」

「えぇ、ライアンの希望を聞いて私がデザインしたの」


 お義母さまはデザインもできるらしい。


「素敵ね。お洋服のデザインもできるの?」

「うぅん、小物というか、アクセサリー限定。

 ………………懐かしいわ」


 お義母さまの呟きに首を傾げた。以前閲覧した彼女に関する記録には彼女がアクセサリー関係のお仕事についていたり、それっぽいものを作っていたりした記録はなかったはずだ。じゃあ、彼女にとって何が懐かしいのだろうか。聞いてみたいが、ここまで人が多い状況では絶対に答えてくれないだろう。ちらりとライアンを盗み見ると、彼とパチリと視線が合った。


「母上は不思議さんだから、放っておいた方がいいよ。考えるだけ時間の無駄」


 母親に対してここまで辛辣な息子はこの世に存在していないのではないかというほどに、辛辣な口調でお義母さまの実の息子たるライアンは、お義母さまを評価した。

 そして、微妙な空気のまま、いつもの晩餐と変わらぬような時間が過ぎていった。


「………今年度から8月23日に喪服で過ごすことを取りやめる」


 食後のデザート中、唐突に口を開いたかと思えば、お父さまが突拍子もないことを言い始めた。あれだけお母さまLOVEなお父さまの意見とは到底思えない言葉だ。


「………………何を血迷っているのです。喪服で過ごさないのは今年度限定ですわ」

「ディア」


 お母さまの咎めるような声と視線を、わたくしは真っ向から見つめた。常に微笑んでいるわたくしだが、今の微笑みはおそらく冷たい類のものになってしまっているだろう。微笑みにも存外たくさんの種類が存在しているのだ。わたくしはいつもそれをその場その場で最も適切な微笑みを使えるように心がけている。


「ディア、誕生日のお祝いというのは、生んでくれた母親への感謝の気持ちもこもっているものだと、私は考えるわ。それに、あなたはお祝いされて嬉しくなかったの?」


 わたくしは確かに嬉しかった。だが、それを今言ってはいけない。わたくしには『わたくしのお誕生日会』が『お母さまを悼む会』で十分なのだ。疫病神と呼ばれているわたくしには、それすらもとっても貴重なものなのだ。だから、これで十分幸せなのだ。

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