28 人生初のプレゼント
「奥さま、今日はこのお屋敷ではその格好は目立ってしまいます、お坊っちゃまも同様です。早めにお召し替えをすることをお勧めいたします」
そう言ってわたくしのことを庇ったメアリーも、今日は喪服を着ている。喪服のような地味な格好をしていても彼女の美しさは隠しきれていない。
「なんで?」
「………………今日がお母さまの命日だからよ。今日はわたくしのお誕生日でなく、お母さまの亡くなった日。分かったらさっさと着替えることね」
ライアンの質問に、わたくしは意味もなく懇切丁寧に答える。いじめるのならば、ここで真実を教えずに笑いものにするのが正解なのだろうが、わたくしはお母さまの大切?な日を邪魔されたくない。だから、今日だけは天敵たるライアンとその母親たるお義母さまを助けてあげることにする。
「………今までお誕生日をずーっと今日みたいに過ごしてきたなんて悲しいことを言わないわよね?」
お義母さまのお声は、何故か怒りに満ち溢れていた。当然のことなのにも関わらず、何故お義母さまはここまで怒っているのだろうか。わたくしには理解不能だ。それに、気のせいかライアンが殺気を身に纏っている気がする。背中に冷や汗が流れるし、微笑みが引き攣ってしまいそうだ。普通に怖い。
「………………………」
「答えなさい」
「………どうでしょうね」
無言を貫き通すつもりが、あまりの剣幕に思わず返事をしてしまった。しかも、絶対にしてはいけないお返事な気がする。うん、やばい。お義母さまも殺気立ち始めた。いや、殺気は元々立ち込めていた。変わったのは殺気の濃度と笑顔の深さだ。
この親子なんなの?
「旦那さまに直談判しにいってくるわ。ライアン、ディアにプレゼントを渡しなさい。メアリー、ディアを可愛くコーディネートして」
「………かしこまりました、奥さま」
あっという間に去っていったお義母さまは何をする気なのか気になったが、今はこっちをじっと見つめているライアン優先だ。
「これ、誕生日プレゼント」
そう言って美しい装飾の施された宝石箱が手渡された。この前お父さまにお小遣いをねだっていたが、これを買うためだったのだろう。そのくらいに見た目から言って、人生初の誕生日プレゼントは豪華なものだった。そして、わたくしの好みのデザインだった。だからだろう、わたくしの口からは素直な言葉と、心の底からの微笑みがこぼれ落ちた。
「ありがとう、ライアン」
「それではお嬢さま、お召し替えを致しましょう。せっかくです。いただいたプレゼントに似合うものを」
わたくしはメアリーの言葉に、プレゼントの宝石箱を開けてみた。すると、プラチナでできたネックレスが出てきた。小ぶりの薔薇とすみれ、そして雪の結晶がモチーフで、ルビーとアメジストとアクアマリンが付いている。箱も豪華だったが、中身もとっても高価な品物だ。だが、公爵令嬢ならば普段着としてぎりぎりつけられるラインを攻めてきている。ライアンは要らないところでもやり手だ。
「………紺色のドレスって持っていたかしら」
「えぇ、持っていらっしゃいますよ。少し装飾がついています。お嬢さまも妥協できる範囲内かと」
「そ、じゃあそれを持ってきて。今年は特別かしら」
ライアンはわたくしが目配せをすると、部屋の外に出ていった。流石にレディーの着替えは覗かないようだ。
メアリーはその後ドレスを取りに行き、わたくしの髪を結ってくれた。今日は毎年よりも豪華なドレスで、紺色のドレスに小さめのダイヤモンドが所々に縫い付けられているドレスを身につけることとなった。このドレスは一見地味に見えるが、その実とっても高価な品物だ。お母さまの生前に描いていたわたくしのお洋服デザインになぞって作られている。わたくしは生涯お母さまがデザインしたドレスのみを着続ける予定だ。
「ネックレスは………」
「ライアンにつけてもらうから置いておいて」
「承知いたしました。だから今日は珍しくツインテールを希望したのですね」
「………知らないわ」
そう、わたくしは今日珍しく普段は絶対にしないツインテールをしている。もこもこの髪が暴走するから普段は絶対にしない髪型だ。編み込みを入れてどうにか見える程度にはしているが、あまり似合っているとは言い難い気がする。
「お似合いですのにそんなにツインテールはお嫌いですか?」
「メアリー、あなたの目は節穴なの?」
「いいえ、お嬢さまのお目々が節穴です」
相変わらず失礼な侍女にこれ見よがしにため息をつき、わたくしはライアンをお部屋に招き入れた。
「………ネックレス、あなたがつけて」
「!!」
ライアンのこの瞬間の表情は実に見ものだった。だって、あのライアンがあんぐり口を開けていたのだもの。そりゃあ見ものに決まっているじゃない。




