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27 ライアンとの時間

 お薬を飲んで寝台の上で教本を読み込んでいると、気がつけば陽が斜めになり、お部屋が真っ暗になっていた。


(《『火焔(ブレイズ)』》)


 魔法の制御を最大限に意識し放つと、お部屋の中が暖かな色彩に包まれた。魔道具があれば、もっと綺麗に部屋が明るくなるのに。そう思うが、できないものはできないから仕方がない。


 コンコンコン!


「ライアンだ。入っていい?」

「どうぞ」


 熱が下がって楽になっているわたくしは、今日1日損している気分だったから、ライアンの訪れが嬉しくて仕方がなかった。第11の作戦、『お勉強をわたくしに教えなさい!!』は現在進行中であり、それも心を浮き足立たせる。それに何より、今日習うことが楽しみで仕方がないのだ。わたくしは学ぶことに至上の喜びを持っている。


「ライアン、今日の授業は!?」


 だからか、上擦って興味津々な声になってしまった。情け無いが今日だけは大目に見てもらいたい。


「ディア、落ち着いて。今日の授業はーーーーー」


 ライアンは無表情でノート片手に丁寧に説明してくれた。とっても分かりやすくて、楽しくて仕方がない。彼は魔法だけでなく、お勉強における才能もあるようだった。物事への理解度がとっても高い。

 わたくしはわくわくした心地で次々に質問を投げかけた。打てば響くとはまさにこのことだ。楽しい。心の中のわたくしが踊り狂っている。


「ありがとう、ライアン。これで満足だわ」

「どういたしまして。………ディアならもっと上手に説明できたよね。ごめん」

「いいえ、………わたくしには無理だったわ。ーーー情け無いわね」


 思ったよりも簡単に泣き言がこぼれてしまった。


「情け無くなんてないよ。ディアはとっても強い。………ディアは何か今欲しいものはある?」

「? ないわ。要る物は全部揃ってる」


 わたくしはこてんと首を傾げながら言った。ライアンの瞳はそうじゃないと言っているが、わたくしにはなんと答えるのが正解なのか分からない。必要最低限のものがあったら、わたくしは十分なのだ。


「………分かった」


 ライアンはそうとだけ言うと、颯爽と部屋に帰っていった。


 それからわたくしは1週間寝台の住人となって過ごし、復活後はお義母さまやライアンのいじめ大作戦を続行した。だが、思いつかなかったから新作は皆無だった。

 地道にコツコツとは本当にしんどい作業だ。


▫︎◇▫︎


 わたくしが倒れた日からちょうど3週間後の8月23日、わたくしは朝からとっても憂鬱な気分だった。


「お召し物は………」

「濃紺、もしくは黒のものを用意して。飾りはなしでできるだけ地味なものを」


 8月23日、この日はわたくしの誕生日であり、そしてお母さまの命日でもある。毎年この日、屋敷のものはできるだけ喪に付して過ごす。人脈のあったお母さまの死を悼む人は社交界にもいっぱいいるそうだ。


「………9歳のお誕生日、おめでとうございます」

「………………………ありがとう」

「………………」


 本当は嬉しくなんかない。だって、これはわたくしがお母さまを殺して9年のうのうと生きてきた証だから。誕生日を迎えるたびに怖くなってしまう。わたくしのことを、お母さまは恨んでいるのではないか、憎んでいるのではないかと。


「今日はお散歩も中止。お義母さまとライアンに伝え、」


 ガンッ!!


 パーン!

 キラキラー、シャラシャラー、


「ハッピーバースデー!!ディア!!」

「………………」

「ほら、言ったじゃないか、母上。ディアのお誕生日は普通にお祝いした方がいいって」

「えー、でもー!!」

「朝からごめん、ディア。母上がどうしてもディアに1番乗りでお祝いしたいって」


 わたくしは何が何だか分からず、今なお喪服姿で立ち尽くしている。

 ひとまず整理しようとどうにか頭を回転させ、1から起こったことを順に思い出した。


 1.扉が大きな音を立てていきなり開いた。

 2.お義母さまが小さなくす玉?のようなものを弾けさせて、その反動で沢山の色鮮やかな紐とキラキラした紙吹雪が舞った。

 3.ライアンの魔法によって出された氷の結晶が美しく輝きながら舞い散った。


 ………………何が起こったのか、さっぱり分からない。というか、頭が理解を拒む。


「ディア、大丈夫か?」

「え、えぇ。………問題ないわ」

「そっか、よかった。改めても誕生日おめでとう、ディア」

「………………ん、ありがとう」


 努めて美しく、そして本心からの言葉に見えるように表情と声音に気を使った。


「で?ディアはなんでそんな格好をしているの!!今日はあなたが主役でしょう?主演女優でしょう!?なんでそんな地味な格好なの!!さっさと着替えなさい!!」

「え、あ、………………」


 お義母さまはわたくしの誕生日が毎年どのようにして終わっていくのかを知らない。だから、今日も明るい色彩のドレスを美しく身に纏っている。



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