26 目覚め
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Side. クラウディア
目が覚めると、朝日が登っていた。身体はまだ気怠くて仕方がない。サイドテーブルの下を覗き込むと、ティッシュが箱ごとなくなっている。昨日の出来事はどうやら夢ではなかったらしい。何故か羞恥に塗れて、顔が真っ赤になってしまう。熱い頬を熱い手で抑えると、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。まだ熱は下がっていないらしい。
「8時、か………」
コンコンコン!
「メアリー?」
「ライアンだ。入って構わないか?」
わたくしは一瞬迷ったが、最終的には入室の許可を出した。
「お加減は?」
「だいぶ良くなったわ」
「そうか」
ライアンはわたくしの額にひんやりとした美しい真っ白な手を乗せた。熱を測っているのだろうが、くすぐったくて仕方がない。わたくしはこの時初めて、自分がくすぐったがりであることに気がついた。
「んー、38度6くらいかな。薬は?」
「今からよ。メアリーが来たのなら、その後に飲む果実水あたりを頼もうかと思っていたのだけれど………」
「分かった。取ってくる」
「お願いするわ」
昨日あんなことがあったのにも関わらず、ライアンはいつも通りだった。いつも通りすぎてびっくりするくらいに。けれど、わたくしは彼がわたくしのお部屋から退出する際の歩き方を見て、その考えを訂正して笑ってしまう羽目になった。そう、右手右足、左手左足が同時に前に出ていたのだ。もう、これは爆笑ものだ。彼に気づかれないように、枕に顔を押しつけて大爆笑した。死ぬかと思った。笑いすぎて涙は出るし、お腹は痛くなるし、もうめちゃくちゃだ。本当に迷惑すぎる義弟に文句を言いたいが、彼のおかげで昨日はお薬を飲めたし、最近の悪夢が減っていたから表立って文句は言えない。
「ふふ、ふふふっ、本当に、彼ってとっても面白いわ」
「誰が面白いの?」
唐突に入口の方から声がして、わたくしはびくりと身体を揺らした。
「お、お義母さま!?」
「おはよう、ディア。だいぶ熱はマシになったようね。お薬は?」
「い、今ライアンが果実水を取りに行っているので、それが届いてから飲もうかと」
「あら、ライアンの方が早かったのね。ちょっとだけ悔しいわ」
今日も見た目麗しいお義母さまは、首をこてんと傾げた。
仕草1つ1つが洗練されていて美しいお義母さまは、わたくしを本気で心配してくれていたようだ。目に隈ができている。
「………………ごめんなさい」
「え?」
ぽつりと呟くと、お義母さまが目を見開いた。わたくしにも、謝罪くらいはできる。本当に失礼な人だ。
「心配をかけてしまったようだから」
「あぁ、そのことなら構わないわ。それに、………あなたの体調不良は私達のせいでもあるもの。申し訳ないのは私の方よ。大人であるのにも関わらず、子供であるあなたの環境の変化に気を配ってあげられず、挙げ句の果てに高熱で倒れるまで全くもって気が付かなかったなんて。………ファン失格ね」
「ふぁん?」
「ん?あ!!えっと、そのっ、わ、忘れてちょうだい!!」
よく分からない単語の意味が知りたくて仕方がありませんが、これだけ慌てているのだったらおそらくはどんなに問い詰めても教えてはもらえないだろう。しばらくしたら、教えてもらおう。
「ディア、って母上も来てたんだ」
「えぇ、そうよ。なんか悪い?」
「いえ、………ディアこれ果実水。あと、昨日のお礼に新しいティッシュ」
「………きれい」
ライアンが持ってきてくれたティッシュは、すみれの柄が入ったティッシュだった。いつも真っ白ではなくて淡いピンクのティッシュを使っていたが、ここまで愛らしいものは生まれて初めてだった。
「………………ありがとう、ライアン」
わたくしは今までで1番上手に笑えていたことだろう。だって、心の底からとっても嬉しかったのだもの。わたくしはぎゅっとティッシュを抱きしめた。汗ばんだ肌で握るのはいかがなものかということには抱きしめてから気がついたが、それもこれもどうでもよかった。わたくしにとって、今が1番大切なのだ。
「けほっ、けほ、けほ、………お薬を飲んで休むわ。本当にありがとう、ライアン。そして、申し訳ありません、お義母さま」
「どういたしまして」
「………謝らないで。悪いのは私よ」
お義母さまは苦々しそうに呟いて出ていった。わたくしは次の瞬間、新たないじめを思いつき、ライアンに向けて微笑みを浮かべた。第11の作戦、『お勉強をわたくしに教えなさい!!』を決行だ。
「ーーー今日の分の授業、わたくしに教えに来てちょうだい。わたくし、1日でもお勉強を疎かにしたくないの」
「………分かった。しっかりと学んでくる」
ライアンは、わたくしが意地悪で言っていることに気がつかない。ムカつくが、素直でいい子すぎる義弟だ。




