すばるたんX
私の同級生のすばるたんは謎の存在だ。
誰もが興味をそそられずにはいられない。
頭からは2本の触覚が生えている。
どう見ても髪の毛ではない。いつも何かを探るようにくるくると動いているからだ。
みんなが彼女を『すばるたん』と呼ぶ。
でも彼女に友達はいないようだ。
親しくなくても誰もが彼女を『すばるたん』と呼ぶ。
何か洗脳のような能力を使っているのだろうか。
私は思い切って聞いてみた。
「ねぇ、すばるたんは宇宙人なの?」
「うん、そうだよ」
あっけらかんとした笑顔が返って来た。
私は言葉を失った。
謎な存在でいてほしかった。否定しながらもそれを匂わせるような返答を期待していた。
そんなたやすく人前でスッポンポンになるみたいな笑顔を見せないでほしかった。隠してほしかった。
しかし私は幻滅しなかった。この先に、この奥にまだ何かあると信じていた。宇宙人であることなど、この謎少女の最も浅い謎だという気がしていた。
私は言葉を見失い、ついつまらない、当たり前の質問をしてしまった。
「どこの星から来たの?」
「すばる星雲に決まってるじゃん」
そう答えたすばるたんの顔はバカを見るように白目が目立っていた。
私はしかし驚愕していた。信じられないほどに意外だった。
もし私が他の惑星にスパイとして潜入したなら名前を『地球ちゃん』と名乗るだろうか。いや、名乗らない。身バレする以前の問題だ。安易すぎる。ダサすぎる。そんなのまともな女の子のすることではない。やはり謎だ。でもどうやら軽蔑されてしまった。何とかしなければ。何とか。
前の質問を取り繕おうとして、私はまたもやつまらない当たり前の質問をしてしまう。
「何をしに地球に来たの?」
「コンビニのフライドチキンを食べにだよ?」
またもや何を隠す気もないように即答だ。私はしかし首をひねり、続けて質問をした。
「コンビニだったらどこのでもいいの? ほら、あるじゃん。ハミマのハミチキしか食べないとか、私は断然ヘブンの剥げ鶏派だとか。こだわりは、ないの?」
影が差した。夕日色のキラキラした波をバックに、彼女は遠くを見つめた。
「ポプラの竜田揚げが一番好きだったんだけど、なくなっちゃった……」
そう言った彼女の哀しげな横顔が心に染みた。
私はうろたえながらも、彼女を抱き締めてあげたくて仕方なくなった。彼女の何かの能力にかかったのだろうか。
いきなり抱き締めて嫌われるのが嫌だった。そのぐらい既に私は彼女のことを愛していた。その代わりにというように、私は言った。
「ねえ、すばるたん。私と友達になってくれない?」
「やだ」
「なっ……、なんで?」
「友達って、契約してなるものじゃなくて、自然にそうなるものでしょ? それにあたし、一人が好きだもん」
「そっ、そうなんだ? じゃあ、側にいてもいい? 自然にすばるたんと友達になって行けたらいいなって……わたし今、すごく思う」
「その前にこの状況をどうにかしなきゃ」
私達は学校の帰り道、偶然2人並んだところを宇宙人に拉致されたのだった。
すばるたんと一緒なら何とかなると私は大船に乗ったような気分だったので忘れていた。
フライドチキンのような形をした異星人が2体、変な形のドアをシャッと開いて入って来た。
入って来るなり愛おしそうにすばるたんを抱き締めた。すばるたんは嬉しそうに宇宙人を肩から食べはじめた。
「美味しいよ? 食べてみ?」
笑顔で口の周りをアブラギッシュにしてそう言うすばるたんを見ながら、私はやはり友達になるのは無理だと思った。
彼女は私などとはレベルの違う存在なのだ。釣り合わない。憧れるしかできない。
すばるたんの活躍で私達は無事、地球に戻ることが出来た。危なかった。あのままもし解剖とかされていたら、私がウルトラの戦士だということがバレてしまっていたかもしれない。