99 朝
眩しい光に気がつき、重たい瞼をゆっくりと開けると至近距離にザックがいて驚いた。しかも、私は彼に腕枕をされている。
そうだ。昨日結婚して……夜に彼と結ばれたのだ。思い出すと恥ずかしくて頬が染まる。
「リリーおはよう。体は辛くない?」
「おはよう。なんか少しだるくて重たい感じ」
「そっか、無理させたよね。今日は俺に甘えて」
彼はそう言いながら、蕩けるような笑顔で私の頬や髪を撫でている。
彼は今、上半身裸なのでついついじっくりと見てしまう。昨日は見る余裕なんてなかったが、すごく引き締まっていて素晴らしい体だ。
この体に昨夜……いや!私ったら何考えてるんだ!いやらしい。変な想像を勘づかれないようにシーツをかぶる。
「リリー、どうしたの?どうして隠れるの」
「は、恥ずかしい」
「昨夜もっと恥ずかしいことしたよ?」
私はそう言われてさらに真っ赤になった。その隙に彼にシーツを剥ぎ取られる。その時に気がついたが、私も素肌にガウンだけというなかなかの姿だ。
そういえば汗をかいてたはずなのに、私の体はとても綺麗だ。どうして?
「あ、あの。昨日……その後……その……着替えとかどうしたの」
「ああ。リリー寝ちゃったからお風呂入れて、ガウンを羽織らせた」
「ええっ!」
「洗ったから綺麗だよ」
ザックは当たり前のようにニコニコと爆弾発言をしている。あ、洗った?じゃあ全部見られたってこと??私は身体中が赤く染まる。
「うわぁ……恥ずかしい」
「ふふっ、俺の奥さんが可愛すぎて困る」
ザックは私にちゅっと口にキスをする。
「しかも、可愛いだけじゃなくてセクシーだ」
彼は首や鎖骨などにもちゅっちゅと優しく口付ける。なんかこの流れは止めないとまずい気がしてきた。身の危険を感じる!
「ザック、あの喉も乾いたしそろそろ起きようかなと思ってるの」
「すまない。俺の気が利かなかったね。すぐに持ってくるからベッドにいて」
彼は腕枕をそっと外し、ベッドからおりてテーブルの上のレモン水をコップに入れた。
ああ……よかった。あのまま、またされてしまうかと思ったわ。
「飲ませてあげる」
そう言った彼は自分でレモン水を口に含み、私に口移しで飲ませた。いきなりで驚いたが、こぼしてはいけないとゴクリゴクリと飲む。冷たくて気持ちがいい。
「上手に飲めたな。もっといる?」
「じ、自分で飲めるわ」
「だめ。今日は俺が全部世話したい」
そして何度も口移しで水を飲まされ……なんだか変な気分になってくる。ぼーっとしてると口から水が溢れてしまった。
「リリー、溢しちゃダメだろ」
彼は濡れた私の肌をペロリと舐めていく。だんだんと濡れていない所まで舐められる――確信犯だ。
「そんなとこ濡れてないわ」
「そう?」
「ザック……だめだよ」
「どうして?」
「もう明るいのに」
「明るいなんて、君がよく見えて最高だけど?」
彼は私の体を組み敷き「優しくするから」と甘えたように見つめてくる。そんなザックに私は抵抗できるはずもなく、朝からもう一度愛し合った。
♢♢♢
体の気だるさと下半身の痛みで目を覚ますと、ザックが心配そうに私を見つめていた。
「リリー!よかった。目を覚ましたな」
「ザック」
「ごめん。俺の……抑えが効かなくて。大丈夫?」
彼は私が起き上がるのを優しく支えてくれる。
「……身体中痛い」
私のその言葉を聞いて彼は青ざめ、大慌てで「ごめん!本当にごめん!」と謝って怒られた子犬のようにしゅんとしていた。
「お腹すいたな」
そう言った私に彼は勢いよくカバっと顔を上げ「ちょ、ちょっと待ってて。食事用意してもらうから」と立ち上がった。
「今何時なの?私、起きるよ」
「ダメだ。今日はもう部屋でゆっくりしててくれ」
彼はバタバタと扉を開けて去って行った。そしてしばらくすると本当にご飯を運んできた。
「リリー、あーん」
「自分で食べるわ」
「だめ。ほら、早く食べてくれ」
私は諦めて彼の手から食べる。ザックはとても楽しそうに甲斐甲斐しく私のお世話をしている。鼻歌まで歌ってとてもご機嫌だ。そして、あっという間に食べ終わった。
「私、着替えたいの」
「手伝うよ」
「い、いらない!」
「身体痛いんだろ?全部俺がするから」
アリスー!ドロシー!!助けて。私は心の中で必死に二人に助けを求めた。
その時、タイミング良くノック音が鳴り「お食事の食器お下げしますね」とアリスの声が聞こえた。
にこにこと部屋に入ってきたアリスはベッドから助けて!とアイコンタクトをしてる私をチラリと見て「ドロシーさん、お願いします」と言った。
すると後ろからドロシーが現れて「旦那様!貴方にはやらなきゃいけないことがございますから、一旦お部屋を出てくださいませ!」とザックをベッドから引きずり下ろそうとする。
「ドロシー!やめろ。今日はずっとリリーの傍にいるんだから」
「だめです。ジルー!力じゃ負けるから来てー!!」
アリスは近くにさっと来て、ジルから私の体が見えないようにガウンをピッタリと合わせさらにシーツで姿を隠した。
「旦那様、しつこい男は嫌われますよ」
ジルのその一言で力の抜けたザックは、彼に促されしゅんとして部屋を出る。笑ってはいけないが、そのあからさまに凹んだ様子がなんだか面白い。
「奥様のことは全てお任せくださいませ」
アリスが満面の笑みで彼に頭を下げている。
「リリー……ゆっくり休んで。また後で」
「ええ」
私はザックに微笑み、やっと離れることができた。そして、部屋にはアリスと二人きりになった。
「アリス!ありがとう。本当に」
「そろそろ困っていらっしゃると思ってました」
「そうなの!流石アリス。よくわかってる」
私はアリスにギュッと抱きつき、甘える。
「旦那様の溺愛っぷりは相当ですね」
「ええ。でもその……昨晩は痛かったけど、ちゃんと彼は優しかったわ」
「良かったですね」
彼女は満足気に笑った後、着替えましょうと楽なワンピースを持ってきてくれた。ヘアセットもしてもらい、やっと気持ちが落ち着いてきた。
後で知ったが、ザックはジルとドロシーに「いくら好きでも限度がある」「奥様に逃げられますよ」と説教を受けたらしい。
彼はしばらく接近禁止命令を出されたらしく、本当に夜まで顔を合わせなかった。とても静かに、平和に時間が過ぎ去って行く。
しかしその望んだはずの平和も、彼がいないと寂しいと思ってしまった私は……相当ザックのことが好きなようだ。調子にのるから言わないけれど。




