85 愛の形【アイザック視点】
ドーンとすごい音と衝撃が起きる。しかし、三人がかりの攻撃でも、ステファンは平気な顔で立っていた。
そりゃあ、これくらいの魔法で倒れる魔法使いじゃないよな。
「私の足元にも及びはしないけど、君達はやっぱり強いね。ねえ、一緒に新しい国に作らないかい?」
「作るわけねぇだろ!」
「アイザックは本当に話のわからないやつだなぁ。私は強い人は好きだけど、馬鹿は嫌いなんだよね」
そう言ってやつは反撃してくる。
「雷雨!」
その瞬間に部屋全体に雷の稲妻が上から降り注ぐ。防御をかけても尚、体がビリビリと痺れる感じがする。なんなんだ。こいつ……強すぎる。
「へえ?三人ともこの魔法でも倒れないんだ。大抵の魔法使いこれで死んじゃうのに。優秀だな」
そう言ってケラケラと笑っている。
「お前……なぜリリーにこだわる?こんな面倒なことをして彼女から祝福を得ずとも、お前ほどの力があれば今の王に取って変わることくらい簡単だろう?」
「まあね」
「なら必要ないだろ!」
「あるさ。女神を私の妻にしたい」
そう言ったステファンにブライアンは鼻で笑う。
「おかしなことを言う。お前が結婚したいだと?そんな普通の感覚があったのか?」
「妻にしたいというか、女神に私の子を産ませたい」
「けっ、他の女当たれよ」
ブライアンはギロっとやつを睨みつける。
「他の女じゃだめだよ。魔力の強い女がいいんだ。できるだけ自分の子は殺したくないしね」
「はぁ?なんの話だ……」
「私の父は魔法使いとしては優秀だが、好色でね。大した魔力のない沢山の若くて綺麗な女に見境なく手を出したせいで、子どもは弱い魔法使いも多かった。父の血を継いでいるのに、弱いなど私は許しがたかった。だから……お前が父を殺してくれた後、私は弱い兄弟達は皆殺しにした。お陰で清々したよ……くっくっく」
「俺が殺しただと……お前の父親を?」
「リリアンの魔力暴走の時に巻き込まれた」
「ああ、あの時か」
「話したついでだ。全てを教えてやろう。ちなみにデュークの両親を殺したのは私の父親だ」
「なんだって!!」
デューク様に怒りの表情が増す。
「若い女が好きだと言っただろう。どうせ女神を抱くなら若い方がいいとお前の母親を殺して、リリアンに能力を移させたんだ。デュークの父親はなかなかの魔法使いだったから、手こずったみたいだけどな」
「……お前らは親子共々本当に屑だな」
デューク様の体が怒りで震えている。
「父は本当に困ったもんだよ。結局それでリリアンも自害しちゃうし、リリーはまだ赤ちゃんで祝福も受け取れないし最悪だった。父自身がブライアンの魔法に巻き込まれて死んでるしね。私がガキを育てるなんてあり得ないから、彼女が大人になって私の妻になれる年齢まで待っていた」
俺は勝手なことを言うこいつに腹が立ち、拳に炎を込める。デューク様もかなり怒っているようで、床にピキピキと氷が張っている。
「リリーをお前の好きにさせるか」
「お前なんかに大事な娘を触れさせるか」
何十分もお互い魔法の応酬がドンパチと続くが、一向に決着はつかない。
「お前らを瀕死の状態にして、その目の前で私がリリーを愛したら……さぞ楽しいだろうな」
「悪趣味すぎんだよ、下衆が」
俺達が負けたらこいつは本当にそれをするだろう。想像しただけで吐き気がする。彼女にもう指一本触れさせなくない。
「こいつに中途半端な魔法は無意味だ。こちらの魔力が削られるだけ」
「そうだな」
「三人で一気に攻撃すべきだ」
「ああ」
「次で決めるぞ。アイザック、迷わずやれよ」
ブライアンはなぜか俺にそんなことを言ってくる。こいつ相手に迷うわけがないではないか。
その後、彼はデューク様にアイコンタクトをとりこくんと頷いた。そしてリリーの前に移動して「祝福をくれ」と、そう言って彼女に頬を差し出した。
彼女は迷いなく彼の頬にキスをして魔力を回復させた。
「ありがとう」
彼はそう言ってニッコリと優しく微笑んだ。
「リリー最後だから許してくれよ」
そう言ってブライアンは彼女の唇にキスをした。驚いている彼女の頬をするりと撫でる。
「愛してる。君に出逢えて私は幸せだった」
幸せだった。過去形で話すその言葉は――まるで別れの挨拶だ。
「ブライアン、何言ってるの?最後って……」
「アイザックと幸せになれ」
一方的にそれだけ言った後、彼はステファンの背後に素早く周り込み、やつを羽交締めにした。もちろん強い闇魔法をかけて抑え込んでいる。
「貴様、私と心中する気か?」
「ああ。一人は寂しいだろう?私がお前と一緒に逝ってやるよ」
チッと舌打ちをして「火花放電」と唱えるとブライアンの体全体に火花がバチバチと散るが、すぐに黒い闇が彼を覆いパンっと魔法を無効化した。
「祝福を貰った私から逃げられるとでも?」
「……正気か?自分を犠牲にしてこいつらを助けてどうする?何が残るんだよ」
「彼女が残る」
そう言ったブライアンをやつは信じられないようなような目で見ている。
「お前はリリアンの時もそうだった。あんな君を裏切って他の男と逃げた女放っておけばよかったんだ」
「……」
「そうだ!君はリリーが好きなんだろう?じゃあ、彼女を私と君で共有しよう。そうすればきっとどちらの子が産まれても魔力が強いだろう。良いアイディアじゃないか。それに最強の国が作れる」
「……可哀想に。お前は『愛』を知らなさすぎる」
ブライアンは憐れみの目をやつに向けた。
「私も褒められた人生は送ってない。お前の父を含め、襲って来たやつとはいえ沢山の魔法使いも殺している。一緒に地獄に堕ちてやるよ」
「くっ……離しやがれ!」
「お前、あの舞踏会のウェイターも殺したんだろう?」
「ああ。あの使えない弱い魔法使いか……そうだ私が殺ったに決まってるだろ。あんな弱いやつは生きる価値がないからな」
「……生きるか価値がないのはお前だよ。おい!デューク!」
デューク様は頷き、二人の下半身を氷で固定させた後「氷柱」と唱え二人纏めて串刺しにした。
「ぐっ……」
「かはっ……」
二人の苦しむ声と血がポタポタと流れる。
「お父様っ!ブライアンが後ろにいるのよ!!やめて」
彼女が泣き叫んで止めているが、デューク様は無視して攻撃を続けた。
「嫌!ブライアンっ!離れて!!」
「リ……リー……耳塞いで目をつぶってろ」
ブライアンは息も絶え絶えにそう話した。
「おい!アイザック……手加減したら許さねえからな。お前の全力をぶち込め」
俺はグッと拳を握り覚悟を決めた。
「くっくっく……いいだろう。面白い。しかし、この男程度の魔法で私は死なないぞ……とどめを刺すならお前だろう?」
「そうか?彼は私が女神の夫と認めた男だ。やれるさ」
俺は全ての魔力を集中させた。その様子を見てブライアンはニッと笑っている。
――これでいいんだろ?あんたの命を絶対に無駄にはしない。あんたの……リリーへの『愛』の形がこれなんだな。
「地獄の炎!!」
ゴォーッと舞い上がる烈火の炎が二人を包んだ。




