84 救出②【アイザック視点】
屋敷全体に魔法がかけられておりバリアが張られている。
「魔法解除」
ブライアンが魔法を唱え、すぐにパァーンという音と共にバリアが解かれる。
「このバリアは弱すぎる。雑魚避けなだけだ……私達が入れるようにしてある気がしてならない」
「チッ、悪趣味なやつだな」
「先を急ぎましょう」
警戒していたのが拍子抜けなくらい、魔法の反応があった地下の部屋にあっという間にたどり着いた。ここに本当にリリーがいるのだろうか?
俺はそっと扉を開けた。真っ暗だ……しかし、その奥のあまりの酷い光景に俺は目を見開いた。
そこにいたのは目隠しと猿轡をされ、手足は縛り上げられ制服はところどころ切り刻まれているリリーの姿だった。しかも殴られたのか、白い頬は真っ赤に腫れている。
彼女にこんなことをしたやつを……俺は絶対に許さない。怒りで全身が震える。
「リリーっ!!」
「アイザック待て!防御がかかっているはずだ!!」
俺は無視して彼女に駆け寄ると、誘拐犯がかけたであろう防御魔法をビリビリと受けるが……そんな痛みを感じないくらい俺は怒っていた。リリーを抱きしめるが、彼女はだいぶ混乱していていた。
俺は目隠しと猿轡をそっと外し、手足の拘束も魔法で解いた。そしてさらに彼女をギュッと抱きしめるが、俺だと気が付いていないのか腕の中で暴れ回っている。
「やめてっ!触らないで!!」
「リリー、落ち着いて」
「嫌だ、怖い……こわ……助けて」
「リリー……アイザックだ。助けに来た。大丈夫。大丈夫だから。大丈夫、落ち着いて」
俺はよしよしと背中を優しくさする。
「ザック……本物?」
その時、彼女の瞳からポロッと涙が溢れた。こんな状況でもさっきまで彼女は泣いていなかった。その気丈さに頭が下がる。
「本物だよ。リリー、学校で一人にしてごめん。助けに来た。もう大丈夫だから」
そう言ってボロボロの制服の彼女に俺のジャケットをかける。
「ザック……ありがとう」
「無事で良かった」
「リリー来るのが遅くなってごめん。頬が腫れているね……こんな痛い思いさせてごめん」
哀しい顔のデューク様がそっと彼女の頬に優しく触れる。
「お父様、これくらい平気です」
彼女は痛いはずなのに、無理矢理笑顔を作って笑った。
「リリー、怖い敵を前に一人でよく頑張ったな」
ブライアンはそう言って笑い、彼女の頭を撫でた。それを聞いて、リリーはまたポロポロと涙が溢れてくる。
「泣くな。私は好きな女を泣かす趣味はないんだ。君は笑顔の方が似合う」
「ブライアン……っく、ひっく」
彼は優しい目で泣いている彼女を見つめている。やはり……この男もリリーのことを愛しているんだな。そりゃそうか。命懸けでこんな場所まで助けに来るんだから。
そんな時にバンッと大きな音で扉が開く。
「あーあ、困るね。せっかくリリーの調教中なのに、なに勝手に目隠しを外してるのさ」
ため息をつきながら、やれやれというポーズで立っている。
「ステファン!やはりお前か」
「やあ、ブライアン。話すのは久々だね」
「なんだその見た目は?以前より若返っている」
「言ってなかったっけ?僕は魔法で好きな年齢に自分を操れるから。今はリリーに合わせて学生仕様さ。その方が恋人同士に見えるでしょ?」
「……ふざけるなよ」
俺はその男になんとなく見覚えがあった。
「あ!お、お前……あのいじめられてた眼鏡の男じゃないか」
「やっと気付いたの?アイザック先輩。あの時は助けていただいてありがとうございます」
そう言って不気味にヘラヘラと笑っている。リリーは彼を見て、またカタカタと体が震えている。俺はギュッと彼女を抱き寄せた。
俺たち三人はこいつを睨みつける。
「知らない?光を遮断して、痛みを与えて……その後にとっても優しく接してあげる。そしてまた痛みを与えて……それを繰り返すと人って何でも言うこと聞くようになるらしいんだよね。そのうち私のこと好きになってくれるかも。ふふふ」
さも楽しそうに頭のイカれたことを言っている。
「ご主人様に逆らわないようにちゃんと躾けないとね。リリーも可愛くて嫌いじゃないんだけど、活きがよすぎるから困ってるんだ。私だけの愛おしい従順な女神に育てあげないと」
ペロリと舌で唇を舐めて、ニーッといやらしく笑った。
「お前、気持ち悪いんだよ」
「気持ち悪いのはお前の方だ。大した力もないのに女神を手に入れようなどと忌々しい。頭も悪いだろ……せっかくの警告も無視しやがって」
「なんだと?」
「アイザック!挑発にのるな。ここは任せてお前はまずリリーを安全な場所に移動させろ」
そうだ、彼女を守ることが最優先だ。その瞬間ビリビリッと雷撃のようなものが部屋全体を包んだ。
「もう遅いよ。この部屋からは移動魔法ができぬように制限をかけた。私がやっと手に入れた女神を逃すわけないだろ」
チッ、ブライアンが舌打ちをする。
「こいつも特異体質だから気をつけろ。属性は雷。魔力量は……私と一緒かこいつの方が多いかもしれない」
そんな嬉しくない情報を教えてくれる。ブライアンより魔力量が多いだなんてなんてやつだ。
「でも、どんなに強くても俺は彼女にこんなことした男を許せねぇよ」
「それは同意見だな」
「こいつを倒してリリーを救い出す!」
俺は彼女を守るため防御をかける。
「必ず助けるから待ってて」
「ええ」
リリーは俺の唇と頬にちゅっとキスをしてくれた。その瞬間に魔力がみなぎってくる。
「へぇ、女神の祝福って本当にすごいんだな。お前のしょぼい魔力の圧力がキスで一気に変わった」
男はうっとりとした目で彼女を見つめている。俺はその視線にゾッと背筋が凍る。
「ああ、楽しみだ。女神を抱いた後、自分の魔力ってどうなるんだろう?想像しただけでゾクゾクする」
どうやらこの屑男の口を塞ぐにはこいつを倒すしかなさそうだ。他の二人も明らかに怒っている。チラッとアイコンタクトを送りあった。
「闇の拘束」
ブライアンが男の身動きを止める。それに合わせて俺とデューク様が魔法をかける。
「吹雪!」
「烈火!」
ステファンは影に拘束された状態で真正面から魔法を受けた。




