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8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。  作者: 大森 樹


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 入学式の日は「疲れた」と言ってアーサーは早めに舞踏会を切り上げ家に帰ったので、私はザックに家まで送ってもらった。


 あんなことがあったので、気まずいなと思っていたが彼は次の日からも至って普通に「弟」として過ごしていた。私も「姉」として接することを心がけた。


♢♢♢


 そして、ついに婚約指輪が出来上がった。取りに行くと、言ったがお店の紳士がわざわざハワード家に持ってきてくれるらしい。そんなわけで、今日は私もザックの家にお邪魔している。


「ハワード侯爵様、いつもお世話になっております」

「こちらこそいつもありがとう。今回はうちの息子のために、とっておきの石を出してくれたらしいな」

「ええ。あの時の小さなお坊ちゃんが……婚約者を連れてきて下さって感動したのです」

「覚えていてくれたんだな。ほら、彼女は美人だろ?馬鹿息子が振られなくてよかったわ!ははは」

「親父っ!もう黙ってろよ!!」


 ザック以外はみんなは笑っている。


「こちらでございます。ご確認を」


 箱を開けると、キラキラと煌めく深く青いサファイアのそれはそれは美しい指輪が現れた。


 ザックはそっとそれを手に取り、内側の文字を確認して「ありがとう。素晴らしい指輪だ」と彼に向かって微笑んだ。


「お褒めいただきありがとうございます」


 宝石店の紳士は深々と頭を下げた。


「リリー……君はこの素晴らしい指輪に似合う最高の女性だ。俺との婚約の証にこの指輪を贈らせてくれ」


 ザックは跪き、私の左手の薬指にそっと指輪をはめてそのまま手の甲にキスをした。


「愛しているよ」


 みんなの前でそんなことを言われて、私は恥ずかしくて真っ赤になってしまう。


「わ、わたしも……愛してる」


 そう言った瞬間、彼にガバっと抱きしめられた。ハワード家の皆さんは、使用人の方々も含めみんなパチパチと拍手をしてくれた。執事のジルやメイドのドロシーなど涙ぐんで喜んでくれている。


 私も感動してつい涙が出てきてしまった。


「お二人が永遠に幸せでありますことを、祈っております」

「ありがとうございます」


 紳士はそう言って家を去っていった。


「リリーちゃん、今日はお祝いだからご飯食べて行ってね」

「おばさま、いいんですか?」

「もちろんいいわよ。あとね……リリーちゃん!そろそろお義母様って呼んでほしいな?」


 ハッ!そうだわ……私結婚するのにいつまで経ってもおばさまだなんて失礼だったわ。


「お義母様っ!申し訳ありません。私、いつまでも子どもの頃のまま呼んでしまっていて」

「あぁ……なんて素敵な響き!リリーちゃんに母と呼んでもらえるなんて幸せだわ」


 お義母様はうっとりとした表情でそう言った。


「マーガレット!抜け駆けしてずるいぞ!!リリー、俺のこともお義父様って呼んでみてくれ」

「じゃあ、僕もリリーちゃんをお義姉様って呼んでもいいってことだよね!」


 二人のあまりの勢いに私はビックリしてしまった。


「お、お義父様……」

「ええ、もちろん。ジョージが嫌でなかったら、義姉と呼んで」


 そう言った私に、二人はやったー!と喜んでいる……これは一体何なのだろうか。


「俺の家族が迷惑かけてすまないな」

「ふふ、みんな面白いわね」

「この家の人間はみんなリリーを好きすぎる」

「あら、貴方よりも?」

「俺が一番君を好きだ!」


 そう言い切った彼にふふっと笑ってしまう。


「そういえば、ザックは私のお父様のことを父と呼ばないの?」

「……殺されそう」


 彼は想像しただけでブルッと青ざめている。


「殺される?」

「想像してみろよ?きっと『()()お前の父親じゃない!もうリリーの夫気取りか!』って言われる」


 そう言うお父様が安易に想像できる。


「はは。まあ、お母様は大丈夫だと思うけど……」

「確かにエヴァ様は俺に優しいから、受け入れてくれるだろうな」

「問題はお父様ね」

「まあ……結婚してからかな」


 そして、楽しくみんなで晩ごはんを食べた。食べた後はお義母様とウェディングドレスのデザインについても相談して多いに盛り上がってしまった。


 気がつけばなかなか遅い時間になってしまい、帰らないと!と焦っていると……なんとお父様が迎えに来た。


「アルファード……私の大事な娘を遅い時間まで帰さないとはどういうことだ?まだお前の家に嫁がせたわけじゃねえぞ」

「悪かったって!ちょっと盛り上がりすぎちゃって。家も近いし、俺とお前の仲だからさ……信用があるかなーって」

「信用などない!」

「すいません、俺が早く送っていれば良かったんですけど」

「そうだ。その通りだ!お前はまだただの婚約者だからな」


 うわぁ……これはお父様完全に怒っている。


「お父様、ごめんなさい。ドレスの話とかしてしまっていたの。ザックのお義母様も、お義父様もそろそろ帰らないとって言ってくださっていたのよ」


 そう言った私の言葉にピクリと反応し、お父様は眉を顰めた。


()()()()だと!」

「あー……リリー……今はおじ様呼びの方がよかったかもな……」

「へ?」

「リリー!今すぐ帰るぞ。まだ君の父親は私だけだ。わかったね?」

「え……?んん?は、はい」


 そう言ってお父様にズルズルと引っ張られて、スティアート家を後にした。


♢♢♢


 そんなことがあったと、部屋でアリスに話していると彼女はくすくすと笑っている。


「旦那様はお嬢様が嫁がれるのが寂しいのですよ」

「だからって……ちょっと失礼だわ」

「旦那様とアルファード様は昔からのご友人ですからね。だから遠慮がないのです」

「この指輪もお母様は喜んでくださったけど、お父様は色が気に食わないですって!酷いわ!!」


 私は指輪のついた手のひらをあげて、照明の光にかざしてみる。


 アリスはまたくすくすと笑いだした。


「アイザック様のお色だからしょうがありません。旦那様のお気持ちもわかります。でもキラキラして美しい指輪ですし、よかったですね。私はお嬢様がお幸せそうで本当に嬉しいです」

「うん。ありがとう」


 夜の支度を終えて「お休みなさいませ」とアリスが扉を閉めた。


 私はそっと指輪を外す……ずっと気になっていたことがある。彼がなんと文字を入れたのか。


『どんなに時が経っても愛し続ける』


 私はその文字を見て、恥ずかしくなりすぐに指に付け直した。これは夜に見るものじゃないわね。


 ネックレスについている指輪の文字は『あなたは僕の全て』だ。ザックと想いを通じあってから気がついたが、彼はなかなか表情がストレートで情熱的だ。


 ドキドキドキドキ……


 胸の音がずっとうるさくて仕方がない。ベッドに入ってもすぐにザックの顔を思い出してしまい、なかなか眠れなかった。

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