8 誕生日会②
「サムっ!来てくれたのね」
私は彼が来てくれた喜びで駆け出して行く。今日の彼はいつもよりキッチリした服装で格好良さが倍増している。
「リリー」
彼は私の姿を見つけ、クシャッと微笑んだ。ドキドキ……その笑顔に私は胸がいっぱいになる。
「今日は大人っぽくて驚いた」
彼は屈んで私と同じ目線になって話してくれる。
「本当?ねぇ!似合っているかしら」
私はドレスの裾を少し持ち上げ、服を見せる。
「ああ、とっても似合ってる」
「嬉しいっ」
私はドンっとサムに体当たりするように突撃すると、彼はおっと……と私を胸に抱きとめた。
「そうだ、これ……気にいるからわからないけどプレゼント。お誕生日おめでとう」
彼はピンクのリボンのついた袋を私にくれた。彼がくれた物ならなんでも気にいるに決まっている。
「開けていい?」
「どうぞ」
「これは……鍵のブレスレット?綺麗……」
「ああ、キーモチーフは幸せの象徴だから。それに御守りの意味もある」
「ありがとう。とっても、とっても大事にするわ」
私は彼がアクセサリーをくれたことが嬉しかった。ぬいぐるみやお菓子などではなく、ちゃんと女扱いしてくれていると感じだから。
「喜んでもらえてよかった」
私がサムと会えたことに満足していると、私のドレスをアイザックがぎゅっと強く握って「この人は誰?」と聞いてきた。アイザックは疲れたのかさっきより顔色が悪い気がする。
「アイザック、この方は私の護身術を教えてくださっているサム先生よ。半年前くらいから我が家に来ていただいているの」
「え!半年前から……?」
「サム、この子はアイザック。私の幼馴染なのよ」
私はお互いを紹介する。サムはよろしくとアイザックの手を握って握手したが、アイザックは知らない人に緊張しているのか顔の表情が堅い。
「サム、わざわざ来てくれてプレゼントまで申し訳ないね」
いつの間にかお父様も私の傍に来ていた。
「いいえ、とんでもございません。むしろ俺なんかが大事な娘さんの誕生日会に来て良かったのかと思っていて……」
「良いに決まっているよ。君が来るとリリーが喜ぶからね」
お父様は困ったように笑っている。
「ねぇ?アイザック大丈夫なの?人に酔ったのなら少し休む?」
私のドレスを握ったまま下を向いている彼の体調が心配になる。
「……大丈夫。もしかしてリリーは、サムさんのことす、好きなの?」
私は急にそんなことを言われてボッと顔が熱くなる。仲の良いアイザックになら……相談してもいいかもしれない。私は近寄って小声で話しかけた。
「私、サムが大好き。将来は彼と結婚したい」
うふふと笑って「みんなには秘密よ」と唇に人差し指を立てて内緒のポーズをした。
すると青ざめたアイザックはズルッとドレスを握っていた手を離した。
「そう……ごめん。やっぱり僕体調が悪いみたいだから……休んでる」
「大丈夫?一緒にいようか?」
そう声をかけたが「平気……君は主役なんだからここにいなきゃ」とフラフラとエントランスの方に去って行った。
「あーあ。こりゃだめだな」
アルファードおじ様は目に片手を置き、悔やむように天を仰いている。おば様もなんとも言えない表情で私を見ている。しかも、その二人に私の両親はなんだか申し訳なさそうな顔をしていた。
一体何なのだろうか?よくわからない。
「俺は本気でリリーを娘にしたいんだけどな」
「おじ様また言ってる。私達は血が繋がっていなくたって親子みたいに仲良しじゃない」
私はケラケラと笑いながらそう言う。
「はは、そうだな。でも俺は欲が強くてね。正式な娘にしたいんだよな」
「それはさすがに……私を養子にするのは、うちのお父様が許さないと思いますよ」
おじ様はフッと笑い「まだ別の手段があるけどね」と呟いた。その後「ま、これからもアイザックと仲良くしてやって」と私の頭を撫でて、じゃあまたなと去って行った。
私はサムのことで心がいっぱいになっていたため、アイザックがプレゼントがあるとか話したいことがあると言っていたことなどすっかり忘れていた。
思い返すと、この日を境にアイザックは私にあまり近付かないようになり……魔法学校に入る十三歳になる頃には私達は疎遠になっていた。
彼はあっという間に身長が伸び、私を見下ろすようになった。あんなに可愛かった面影はなく……男らしく凛々しい見た目になったアイザックは無愛想になった。
少しの寂しさはあれど、男の子の思春期特有の反抗期的なものだと思って距離を取ること自体はあまり気にしていなかった。しかし、彼はだんだんと私に喧嘩を吹っかけるようになり、それから私達は険悪な仲になっていった。