77 入学式
指輪選びから月日が経ち、今日は魔法学校の入学式だ。私達は最高学年に上がる。あの意地悪な先輩のカトリーヌ様達はご卒業された。ザックに睨まれたのが相当恐ろしかったのか、あの後はとても大人しかった。
「姉様、変じゃない?」
「ええ。制服とっても似合っているわ」
今日からはアーサーも同じ学校だ。両親に「いってらっしゃい」と見送られ馬車に一緒に乗り込み学校へ向かう。
驚きを隠せないが、アーサーはこの数ヶ月でどんどんと背が伸び続けあっと言う間に声変わりも終わり今では私より背が高くなった。これが男の子の成長期というものなのだろうか……びっくりだ。
先程は男の子と言ったが、もうその呼び方もおかしいくらい立派な「男性」に成長している。
馬車が停止すると、アーサーは無駄のない動きでスマートに私のエスコートをしてくれる。
(伯爵家の令息としてちゃんと成長したわね)
私はその手際の良さに感動している。そっと馬車を降りると外からキャーキャーという若い御令嬢方の黄色い声が聞こえてくる。
「アーサー様っ!おはようございます」
「キャー!素敵ですわ」
「首席でご入学おめでとうございます」
これは驚いた。アーサーはこんなに沢山の御令嬢方から人気があるのね。私が驚いていると、アーサーが「姉様、騒がしくてごめんね」と小さく呟いた。
「みんな、おはよう。麗しいお嬢様方に朝から会うことができて嬉しいよ」
ニッコリと笑ってそう言ったアーサーの言葉に反応し、またキャーと割れんばかりの叫び声がする。
「でも、今は僕の一番大事な姉様と一緒なんだ。道を開けてくれると嬉しいな」
優しく微笑むとザッと道が開いた。
「ありがとう。みんな物分かりが良くて嬉しいよ。賢い女性って僕は好きだよ」
うっとりしている御令嬢方にウィンクした後、何事もなかったかのように私をエスコートして歩いた。この子、末恐ろしいわ!将来女たらしになったらどうしようと不安になった。
人気のいない場所に来ると、伯爵令息の仮面を外しいつものアーサーに戻った。
「はぁ……せっかく姉様と学校に来れたのに。御令嬢方が煩くってしょうがないよ」
「アーサーもてるのね!驚いたわ」
「姉様知らなかった?僕って結構男前でしょ」
彼はずいっと私に顔を近付けてくる。確かに整った顔だ……成長して子どもっぽさも抜けて凛々しくなった。
「確かに男前だわ」
「ふふ、そう言ってくれて嬉しい。姉様も誰よりも美しいよ」
そんな歯の浮くような台詞をサラッと言い、おでこにチュッとキスをして「じゃあ僕は挨拶の準備があるからまたね」と手を振って去って行った。
「わー、今のアーサー君よね。格好良くなりすぎて一瞬気付かなかった」
後ろからそう声をかけてきたのはエミリーだ。
「そうなの!急に成長しちゃって」
「ふふふ、キスされてたから貴方が知らない男の人と浮気してるのかと心配しちゃったわ」
「もう!何言ってるのよ」
「キャーキャー言われてたわね。これは将来の嫁選びが大変よ」
「そうね」
そんな話をしながら、入学式を見るためにホールの席に二人で座る。すると、ザックが私達を見つけ空いている反対の席にどさっと腰掛けた。
「おはよう。ザック、貴方特進クラスの席に行きなさいよ」
「嫌だね、リリーの傍にいたい。空いてるんだからいいんだよ……こんなの自由席みたいなもんだろ」
「相変わらずお熱いわね」
「だろ?」
「熱くないから!!」
「アーサー首席なんだって?気にくわねぇな……あいつ優秀じゃねぇか」
「そうなのよ。私は姉として鼻が高いわ」
「アーサー君すごいわね。それもあって大人気だったのね」
「代表挨拶するらしいの」
三人で話していると、パッと電気が消えて暗くなった。そろそろ入学式が始まるようだ。
学校の説明や学園長の話が終わり……ついに代表挨拶の時間になった。
「新入生代表、アーサー・スティアート」
「はい」
名前を呼ばれて、堂々と出て行く彼に感動して目が潤んでしまう。すると遠くにいるにも関わらず、壇上にいるアーサーとバチっと目が合った。彼はニコッと微笑んだので私は小さく手を振る。
するとキャー!キャー!と御令嬢方から歓声があがる。うわぁ……すごいわ。アーサーはその後、完璧に代表挨拶をこなして颯爽と壇上を後にした。
「うっうっ。なんか泣けてくる」
「リリー!何泣いてるのよ」
「小さくて……姉様、姉様って私をずっと追いかけてた子がこんな立派になって嬉しい」
「ほら、これハンカチ!親じゃないんだからそんなに泣かないの」
「ありがとう」
泣き続けている私を見て、エミリーは心配そうだ。ザックは優しく微笑み、私の手をそっと握ってくれたのでだんだんと気持ちが落ち着いてきた。
その後、教室に戻ろうと移動していると「姉様」と呼ぶ声が聞こえてきた。
「アーサー!お疲れ様。代表挨拶とっても立派だったわ」
「ありがとう。遠くてもすぐに姉様の場所がわかったよ」
「ふふ、さすが。目が合ったものね」
私がニコニコしてそう言うと、彼は急に心配そうな顔をして手を私の頬に当てて目元を撫でた。
「目元が赤い……誰かに泣かされたの?」
このビリっと痺れるような怒った声はアーサーから出たのだろうか?私は少し驚いて固まってしまった。
「安心しろ。それは嬉し涙だ。アーサーが成長して嬉しいって、代表挨拶見てわんわん泣いてたんだよ」
後ろからザックがそう話しかけてきた。
「……義兄さん」
「首席で入学おめでとう」
「ありがとうございます」
アーサーは頭を下げ、手をそっと離した。
「ふふ、泣かしたのは僕だったんだね」
「そうよ」
「姉様がそんなに喜んでくれたのなら、頑張った甲斐があったよ」
フッと笑った姿は、とても大人びていてもう私の知っている彼ではなかった。私にはそれが少し寂しく、嬉しかった。




