74 楽しい晩ご飯
お母様とお茶をして、リビングに戻るとそこにはお父様しかいなかった。あれ、ブライアンは?
「お父様、もしかしてブライアンはもう帰ってしまったの?」
「彼は姉上……リリアンの墓参りをしてるよ」
「そうなのね」
「彼はゆっくり参りたいだろうから、私は案内だけして先に帰ってきた」
ブライアンにとってリリアンは特別だ。きっと話したいことが沢山あるはず。でも故人を参るとどうしても少し切ない気分になるものだ。特にあんな別れ方をしたリリアンなら尚更。
彼には……今まで辛いことが多かった分、できるだけ楽しい気持ちでいて欲しい。あ、良いことを思いついた!
「お父様!ブライアンを夕食に誘ってもいい?」
「ああ。彼がいいと言えば構わないよ」
「やったあ。じゃあ、私も今から何か作るわ!お父様、もし彼が戻ってきたら絶対引きとめてね!食べないって言ったら私を呼んで!!勝手に帰ったらもう二度と口聞かないからって伝えて」
そう言った私をみて、両親はくすくすと笑っている。
「君の強引なところは姉上にそっくりだ」
「本当ね。お義姉様にそっくりですわね」
「……そうなの?」
「そうだね」
「と、とりあえずお願いね!私、キッチンにいるから」
キッチンに行き、料理長にもう一人分ディナーを増やして欲しいとお願いする。
「お嬢様、そんなことお安い御用です」
「良かった。ありがとう。私も何か作りたいの」
「それはいいですね」
「じゃあデザートと……チキンで何か一品してもいいかしら?」
「もちろんです」
私は気合を入れて料理に取り掛かる。スイーツはあまり好きではなさそうだったから、甘さ控えめにしないと。
私が熱中していると、知らない間に時間が経っていたそうでブライアンがキッチンにひょこっと顔を出した。
「おい、なんかデュークにお前の許可がないと帰らすことはできないと言われたんだが……」
「あ!ブライアンお帰りなさい」
「……ただいま」
「晩ご飯食べて行ってよ」
「いや、いい」
「なんでよ!もう遅いわ!私、貴方のために作っちゃったんだから食べなさいよ」
「相変わらず強引だな」
ブライアンはくっくっく、と笑っている。
「わかった。いただくよ」
「よかった。もうすぐできるから、リビングで待ってて」
私がそう告げると、彼は優しく微笑んだ。私が料理の準備を終えてリビングに戻ると、アーサーが質問してくる。
「ねえ、この人は誰?」
「この人はブライアンよ」
「姉様、名前じゃなくてさ……どういう関係の人?」
ゔーん、説明が難しい。私の実母の元婚約者で、今は私の護衛?で実は同級生のマックス???
ブライアンのことをなんと説明したらいいのだろうか?と悩んでいると、彼が口を開いた。
「誘拐犯だ」
そんな爆弾発言をするので私は驚いてしまう。アーサーもビックリして目を見開いているではないか!
「な、なに言ってるのよ!」
「だって、事実だろう?」
彼は何でもないような顔をしている。
「姉様を誘拐したやつとなんで一緒に晩ご飯を食わないといけないんだよ!」
アーサーはブライアンから見えないように私を背に隠した。いや、違うの!違わないけど違うんです……
「アーサー、ブライアンは大丈夫だ。確かにリリーを誘拐した事実はあるが、それは彼女を守るため仕方なかった。彼は私の昔からの知り合いだ」
お父様がそうフォローをしてくれたが、アーサーは未だに疑わしい目で彼を見ている。
「……そうですか。それは大変失礼しました。僕はスティアート家の長男アーサーと申します」
「私はブライアンだ。よろしく」
二人は握手をして挨拶を交わした。
「さぁ!気を取り直してご飯食べましょう。アーサー、今日は私も二品作ったのよ。楽しみにしててね」
「姉様の手作り!それは嬉しいな」
「リリー、お嬢様なのに料理なんてできるのか?」
「できるわよ。失礼ね!貴方が食べたら美味しくって驚くわ」
「へぇー……」
「あ!信じてないでしょう!!」
あはは……とその後は和やかに五人で話しながら美味しい食事を堪能した。ブライアンは私が作ったチキンとデザートも「美味しい」と全部食べてくれて嬉しかった。
「アーサーはね、今度魔法学校で首席で入るのよ!すごいでしょ?」
「ちょっと姉様。恥ずかしいからやめてよ」
「へえ、それは優秀だな。実戦だけでなく知識も申し分ないってわけだ」
ブライアンが素直にアーサーを褒めてくれたため、嬉しくなる。
「どっかの誰かとえらい違いだ。アーサー、数年後にはお前の方がリリーとお似合いかもしれないぞ」
そんなことを言ってケラケラと笑い出す。
「でしょう?僕もそう思うんですよ」
「アイザックはなー、実力は申し分ないんだけど。あいつは頭より先に体が動く直感タイプなのが困ったもんだ。剣が使えて体術できるのは高ポイントだけど」
「脳筋ってことでしょ」
ブライアンはそれを聞いてゲラゲラと笑っている。
「ちょっと……アイザックの悪口言わないでよ。彼は昔から剣術も魔法の勉強も頑張っていたんだから!」
「はいはい。リリーの惚気は聞き飽きた」
「姉様、義兄さんを甘やかすのはよくない」
――なんだかんだで、この二人は気が合うようだ。
「お前はデュークと同じで氷属性なのか?」
「はい。ブライアン様は?」
「私は特異体質だ。闇属性」
「ええっ!!」
アーサーはとても驚いた声を出した。ブライアンが闇属性と聞いて、彼は急に怖くなったんだろうかと不安になる。
「格好良い!いいなぁ……特別な能力。魔法みせてもらえませんか?」
「構わない。後でお前の魔法もみせてみろ」
「はい」
アーサーは嬉しそうに目を輝かせている。
「息子はリリー以外の特異体質の魔法使いに会ったことがないんだ。すまないな」
「いい。こういうものは若い頃から体験すべきだ。知ってるのと知らないのでは実力に差が出る」
「……助かるよ」
それからブライアンとアーサーは本当に魔法の訓練を夜遅くまでしていた。
「ブライアン様!なんでこんなに強いんですか……すごい」
「アーサーも筋がいい。お前は成長途中だからこのまま励めよ。まだ強くなれる」
「はい」
「だが、覚えておけ。お前が見習うべきは、規格外の私ではなくデュークだ。近くに同じ属性であんなにいい師匠がいることは幸せなことだ」
「はい!」
そう言って彼はアーサーの頭を撫でた。アーサーはというと、すっかりブライアンを憧れのヒーローのように目を輝かせてみている。これくらいの年齢は強い者に惹かれるものだ。
「遅くまでありがとう。あなた、いい指導者ね」
「さっき君の両親にも挨拶したし、流石にそろそろ帰るよ」
「ええ、長く引き止めてごめんなさい」
「おやすみ……いい夢を」
彼は私のおでこにちゅっとキスをした。私が頬を染めたのを見て満足気にフッと笑い、彼は移動魔法で消えていった。




