69 恋人期間【アイザック視点】
俺は何故か親父にぐいぐい引っ張られながら、スティアート家を去った。
「何すんだよ、離せよ!」
でかくて馬鹿力の親父に引っ張られると、流石に腕が痛い。俺が怒ると、親父に思いっきりガンとグーで頭を殴られた。
不意打ちで避けることもできず、まともにくらう。しかもこんなことされるのは、子どもの時以来だ。
「痛ってぇー!俺が何したっていうんだよ」
「胸に手を当てて聞いてみろ!馬鹿野郎」
「はあ?」
「客間から庭が見えてんだよ!」
「庭……見え……てる?」
俺はそう言われて、庭でリリーに襲いかかっていた自分を思い出し赤面する。
「するなとは言わねえけど、時と場所を選べ」
「……すみませんでした」
「しかも、がっつきやがって」
「……すみませんでした」
俺は親父に見られていたことが恥ずかしくてしょうがない。しかしそれよりも恐ろしいのは……
「デューク様も……見た……?」
「見たに決まったんだろ!俺、めちゃくちゃ怖かったんだからな!!あいつ怒りで氷魔法が制御しきれず、部屋の温度めちゃくちゃ下がってたわ!!」
俺は手で目元を覆い天を仰いだ。
「終わった……」
「お前、デュークに発情期の雄犬って呼ばれてたぞ」
親父は思い出してゲラゲラと笑っているが、こちらからすれば笑い事ではない。デューク様からの信用が失墜してるではないか。
「それで……帰り態度が冷たかったのか。しかもリリーの部屋に防御魔法までかけたって言ってたよな」
「自業自得だな。くっくっく」
「でも!婚約するってことは、結婚するんだしキスくらいしたいって思うのは自然だろ。好きだから……」
俺は拗ねたようにそう言った。
「デュークだって、そんなこと頭ではわかってるさ。でも、嫌なんだよ。自分の命より大事にしていた娘が他の男に奪われていくのを目の前で見せられるのはな」
「……まぁ、そうだろうな」
「だから親に隠れてうまくやれ。ただし一線はこえるなよ」
「なっ!当たり前だろ!!」
「そう言われても、発情期の雄犬の言うことは信用できねぇからな」
親父はニタニタ笑い、そう揶揄ってくる。はぁ……我が家はこれからしばらくこのネタで持ちきりだろうと頭を抱えた。
♢♢♢
家に着くと、お袋や使用人達から「正式に婚約できた」のかと質問責めにあった。無事にできたと話すとみんは手放しで喜んだ。
(リリーどんだけ我が家で人気なんだよ……)
「よかった。直前でリリーちゃんの気が変わったらどうしようかと心配してたの」
「婚約は滞りなく結べた。しかしマーガレット、そうそう。面白い話が……」
「親父!喋るな!!」
怒っている俺を見て、親父はプルプルと笑いを堪えている。お袋は怪訝な顔をして「どうせ碌でもないことでしょ?リリーちゃんに嫌われることしないでよね!」と呆れている。
(リリーには嫌われていない……デューク様に嫌われたけどな)
「疲れたから寝る!」
そう言って自室に戻り、ベッドに横たわる。ずっと好きだったリリーとやっと婚約できた。めちゃくちゃ嬉しい……部屋に一人になると喜びが湧き上がってくる。
あと一年……一年で結婚。俺にとっては長いけど、彼女は恋人期間として楽しみたいと言っていた。そうだよな。結婚したらすぐに子どもができるかもしれないし、ゆっくりデートできるのは今だけかもしれないもんな。
ん?いや、ちょっと待て。子ども……子どもができるってことは、リリーとそういうことをするってことだよな。
俺は寝室で彼女を組み敷き、今夜の俺のために身に付けてくれたであろう夜着を、そっと解いていく。
「ほら、全部見せて」
「恥ずかし……い」
「照れてる姿も可愛い。愛してるよ」
「私も愛してる。アイザックあの、私初めてだから優しくしてね」
「リリー……」
いやいやいや!俺!待て!なにリアルな想像してんだよ!
もちろん男としての欲はあるけれど、ずっと好きだった大事な彼女を傷付けたくない。怖がらせたくもない。優しく……甘く……彼女に触れたい。
この純粋な恋心とは裏腹に、勝手にドクドクと熱が集まる自分の体に嫌気がさす。だが、急に俺は冷静になりガバッとベッドから起き上がった。
てゆーか、俺経験ないけどちゃんとできるのかな?でも初めては絶対に彼女以外あり得ない。
とりあえず結婚するまでに実践以外の勉強をしよう。一年あるし……うん、そうしよう。
ふう、と息を吐き気持ちを落ち着かせる。
あ!婚約指輪も買いに行かないとな。十歳の時の指輪は渡したが、あれは小さくて指にははめられない。今度遊びに行くついでに見に行こう。俺達は長い間無駄な喧嘩をしていたから、あまり二人で遊びに行ったりしたことがない。
これから一年間、二人でできる限り楽しもうと心に決めた。




